積水化学は「合わせガラス用中間膜」の事業を戦略事業と位置付け、グローバルに展開しているが、4月27日、Celanese からポリビニルアルコール(PVA) 樹脂事業を173百万ドルで買収することを決めたと発表した。
中間膜は、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂を製膜化することにより製造するが、その原料サプライチェーンは以下の通り。
酢酸 → 酢酸ビニルモノマー(VAM) → PVA樹脂→PVB樹脂→合わせガラス用中間膜
今回、PVB樹脂の原料のPVA樹脂事業を買収することにより、安定的な原料供給体制を構築するとともに、需要地生産の促進、原料面での技術シナジーの発揮等、サプライチェーンの強化を図る。
買収するのはセラニーズのPVA樹脂事業に係る資産(設備、棚卸資産および知的財産権等)。
生産拠点はセラニーズ米国子会社のCelanse Ltd.のCalvert City, Ky.と Pasadena, Texas 及びスペイン子会社のCelanese Chemicals Iberica S.L.の Tarragona の3工場で、能力は12万トン/年。
当該部門の2008年の売上高は296百万ドル。
同社ではセラニーズのPVA樹脂事業を譲受けるため、米国およびスペインに2009年5月に子会社を設立する。
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積水化学は、建築用と自動車用に「合わせガラス用中間膜」を製造販売している。
ガラスは割れると細かく鋭利な破片となって飛び散る性質を持っているため、フロントガラスには合わせガラス採用が義務づけられている。
2枚のガラスの中間膜を挟み込むことで、耐貫通性と飛散防止性をもたせる。
また、ニーズにあわせて遮音膜、遮熱膜、遮音・遮熱膜など高機能中間膜の需要も増えている。
遮音中間膜は、従来の中間膜層 2層の間に遮音層(コア層)を設ける3層押出技術により製造。
遮熱中間膜は紫外線に加え、太陽光中の熱線(中赤外線)を大幅にカットする。
同社は自動車向けの中間膜では世界で42%のトップシェアを誇っており、2010年度に44%を目指す。
同社の中間膜及び原料の生産拠点は以下の通り。
工場、子会社 | 場所 | 稼動時期 | 生産品 | |
製膜 | 滋賀 水口工場 | 滋賀県甲賀市 | 1960年 | 通常膜、遮音膜、遮熱膜、遮音・遮熱膜 |
SEKISUI S-LEC Mexico S.A. de C.V | メキシコ・クエルナバカ市 | 1971年 | 通常膜 | |
SEKISUI S- LEC B.V. | オランダ・ルールモンド市 | 1997年 | 通常膜、遮音膜 | |
SEKISUI S-LEC (THAILAND) CO.,LTD. | タイ・ラヨン県 | 2002年 | 通常膜 | |
積水中間膜(蘇州)有限公司 | 中国・江蘇省蘇州市 | 2004年 | 通常膜 | |
SEKISUI S-LEC AMERICA, LLC. | アメリカ・ケンタッキー州 | 2007年 | 通常膜、遮音膜 | |
原料 | 滋賀 水口工場 | 滋賀県甲賀市 | 1960年 | PVB樹脂 |
SEKISUI S- LEC B.V | オランダ・ヘレーン市 | 2007年 | PVB樹脂 | |
アメリカ子会社 | アメリカ・テキサス州 | 今回 買収 |
PVA樹脂 | |
アメリカ・ケンタッキー州 | ||||
スペイン子会社 | スペイン・カタルーニャ州 |
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Celanese の基はドイツのHenri Dreyfusが1913年に設立したCellonit Gesellschaft Dreyfus (セルロイド製造)で、その後、航空機用ペイント、その原料の酢酸の製造を行った。英国、米国にも進出、第一次大戦後の需要減でアセテートの製造を始めた。
1961年に米Celanese はヘキストとの合弁で Ticona を設立、1964年には米 Celanese は日本でダイセルとの合弁でポリプラスチックを設立している。
1987年にヘキストがCelanese を買収したが、1997年にヘキストは事業再編でTiconaを分離、1998年に化学部門を新セラニーズとして分離した(Ticonaはセラニーズ子会社となる)。
2004年にBlackstone Capital PartnersがTOBでセラニーズを買収したが、2007年にCelanese株式の売却を完了した。
Celanese は酢酸を原料に、以下の製品を製造販売している。
セラニーズは現在、南京産業パークで大規模酢酸コンプレックスを操業しており、子会社Ticonaが超高分子量ポリエチレンほかの事業を展開している。
2007/2/22 セラニーズの中国での活動 (Celanese の酢酸事業概況も)
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今回、Celansese が買収するPVA(ポバール)は、クラレがビニロン繊維の原料として世界に先駆けて工業化した。
クラレがシェア世界第一位。
クラレは岡山(96千トン)と中条(28.3千トン)にプラントをもつが、中条は酢ビの生産停止で特殊品が中心となっている。
クラレは1996年10月、シンガポールに日本合成化学との50/50JVのポバールアジアを設立し、Sakra島に能力40千トンのプラントを持つが、2008年1月付けでクラレ 100%になった。
クラレは2001年にClariantのPVA、PVB事業を買収、Kuraray Specialities Europe GmbH を設立した。ドイツ・フランクフルトのPVA 50千トン、PVB 16千トンのプラントを手に入れたが、現在の能力はPVA 70千トン、PVB 20千トンとなっている。
酢酸関連については 2006/5/20 酢酸業界
* 総合目次、項目別目次は
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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