開城(ケソン)工業団地は2000年8月、金正日総書記と鄭夢憲・現代グループ会長との合意で、北側が土地と労働力を、南側が技術と資本を提供して、開城に一大工業団地を作ることが決まった。
2003年8月に南北当局者間で投資保障、二重課税防止、清算決済、商社紛争合意書の4項目に関する経済協力合意書を交わした。
2004年12月に稼働、現在韓国企業を中心に101社が入居し、北朝鮮労働者約3万8千人が働く。
2008年の総生産額は2億5142万ドル。
参考 2007/9/8 北朝鮮開城工業団地に中国企業進出
2008年2月の李明博大統領就任後、北朝鮮は李明博政権に北朝鮮政策変更を迫る狙いからか、揺さぶりをかけている。
2008年3月に常駐する韓国政府関係者を追放、11月には開城観光と貨物列車運行を中断、12月には立ち入り制限を厳格化、本年に入り、韓国側要員の往来をたびたびストップした。
3月には事業主体の韓国の現代峨山の従業員1人の身柄を拘束、「元気だ」とするだけで、話し合いそのものを拒絶している。
(韓国側関係者の身元の安全保証に関しては、2004年1月の南北合意により締結された「開城工業地区と金剛山観光地区の出入りおよび滞留に関する合意書」に明記されているが、完全に無視している。)
4月には優遇措置の見直しを要求、5月15日に開城工業団地を巡り、土地賃貸料や賃金、税金など既存の契約について「無効を宣布する」と主張し、新たな条件を受け入れなければ「出て行っても構わない」とする通知文を韓国側に送った。
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6月11日、韓国と北朝鮮の政府当局者は開城工業団地内の南北経協協議事務所で午前と午後に2回にわたって南北実務協議を行った。
この席で北朝鮮は賃金はベトナム・中国の相場に、賃貸料と税金は韓国の相場に合せることを要求した。
・開城工業団地で働く北朝鮮側の労働者1人当たりの賃金(現在の最低賃金は55.125ドルで社会保険料込みで約75ドル)を4倍以上の月300ドルに引き上げる。
「北朝鮮の労働者は学歴・生産性・技術などすべての面でベトナム・中国の労働者より優秀なのに、労賃は安い」とした。
賃上げ率上限も10~20%に引き上げ(現状は毎年5%)
・土地賃貸料(100万坪)を5億ドルに引き上げる。
同団地の事業主体の韓国の現代峨山が既に50年間の工場用地賃貸料として1600万ドルを支払い済み。
今回、これの引き上げと外貨での支払いを要求。
韓国での工業団地建設に500~1000ドル/坪必要とし、500ドルx100万坪で計算。
・現在免除となっている土地使用料も来年から1坪当たり5~10ドルを支払うよう要求。
このほか、
・労働者の宿舎(15千人規模)と保育園の新築
・通勤向け道路の建設
・開城工団の労働環境改善など
韓国側はこの要求に「呆れる」と反応、韓国代表団も北朝鮮に、「韓国は3億ドル持っていけば、世界どこでも歓迎を受ける」と反論した。
韓国側は韓国側関係者の安全問題について協議する窓口となる南北出入滞在共同委員会の設置を提案した。
また核実験や軍事的緊張を高める行為の中断、南北対話の再開と6カ国協議への復帰も促した
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北朝鮮の今回の要求に対し、進出企業は「想像すらできない金額」と反発、「工場の運営について悩むより、どう撤収すれば被害を減らせるかについて方法を講じたほうがいい」としている。
工業団地進出企業40社余りへのアンケートでは「開城工業団地の労働者一人当たりの生産効率は韓国の33%にすぎず、間食代など福利厚生費が多くかかる上、賃金水準は韓国やベトナムなどに比べて決して低くない」と分析している。
開城工業団地の労働者一人当たりの生産効率は韓国の33%。
(中国の生産効率は韓国の96%、ベトナムは85%)
北朝鮮労働者の場合、未経験者の割合が高く、欠勤率も平均10%に達し、夜勤や残業などを進出企業側が自律的に決定できない。
「北側労働者の目標意識が低く、インセンティブなど勤労意欲を高める対策を立てるのが難しい」開城工業団地の労働者の人件費は残業代や福利厚生費を加えると月110-130ドル水準。
「中国東北3省は基本給180ドル、中国内陸部は基本給130ドル、ベトナムは基本給80ドルはほとんど掛からず、生産効率まで考慮すれば、開城工業団地の賃金は決して安くない。」
朝鮮日報は社説で次のように述べている。
身元の安全に関する問題が解決していない状態で、賃金や土地利用料の問題だけを先に話し合うことはできない。
もちろん北朝鮮側の意図は別にあるはずで、それも今後の交渉を通じてさらに明らかになるだろう。ただこれまでの合意内容を完全に無視し、このように常識外れの要求を提示するのであれば、北朝鮮側には開城工団事業を今後も続ける意向があるのかという、まさに根本的な疑問を持たざるを得なくなる。韓国政府としては交渉が決裂した場合の撤収の手続きについても具体的に準備した上で、19日に予定されている次の交渉に臨まなければならない 。
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北朝鮮の開城工業団地が閉鎖の危機にさらされる中、進出した韓国企業のうち衣類を製造するS社が6月8日、初めて全面撤退することを決め、工団管理委員会に廃業申請をした。
同社は2007年に工業団地内のアパート型工場に進出し、北朝鮮の労働者100人余りを雇用して毛皮関連製品を生産してきた。
昨年以降に南北関係が冷え込み、バイヤーの注文取り消しが相次いだほか、現代峨山の職員の長期抑留事件をきっかけに、開城駐在員らの身辺安全に対する懸念も大きくなったことから決めたという。
* 総合目次、項目別目次
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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