シーメンスやドイツ銀行など欧州の大手企業12社は7月13日、アフリカ北部のサハラ砂漠などに大型の太陽熱発電施設を設置し欧州に送電するDESERTEC Industrial Initiative の実施で合意した。総事業費は4千億ユーロ。将来は欧州の電力需要の15%をまかなう計画。
10月までにドイツ法人を設立する。
参加企業は次の各社
ABB、ABENGOA Solar、Cevital、Deutsche Bank、E.ON、HSH Nordbank、MAN Solar Millennium、Munich Re、M+W Zander、RWE、SCHOTT Solar、SIEMENS
Siemens は太陽熱発電、太陽光発電、風力発電タービン、高圧電力輸送技術など幅広い環境技術を提供する。
2003年、ローマクラブは再生可能エネルギーの利用を目指すコンソーシアムTREC:The Trans-Mediterranean Renewable Energy Cooperationを設立した。
中東や北アフリカなど地中海周辺の国々の政府系機関や産業界が参加し、これらの地域で再生可能エネルギーによる発電をして、送電ロスが無い直流送電網でEUに供給するという計画。太陽熱発電がその主軸を担う。
DESERTEC Industrial Initiative はローマクラブのドイツ支部が中心にまとめた。(砂漠のDesert とtechnology の合成語)
今回の合意で、今後具体的な事業計画や資金計画を立て、MENA(中東・北アフリカ)に張り巡らす太陽熱発電所、風力発電所のネットワーク建設の準備を行う。
目的は2050年までに欧州の電力需要の15%と、発電する現地の電力需要の大半を賄うというもの。
(欧州の残りの電力は下図の通り現地での太陽光発電、風力発電、水力発電、バイオマス発電などで賄う)
このほか、次の目的を持つ。
・欧州、MENA諸国のエネルギー安全保障の拡大
・MENA諸国の成長、発展
・MENA諸国の将来の水供給の確保(余剰電力による海水の淡水化)
・CO2の削減
構想は以下の通り。
太陽熱発電所と風力発電所を北アフリカ、中東各地に建設する。
砂漠地帯で発電した電力は高圧直流(HVDC)送電技術で欧州の需要家まで約2000kmにわたって送電する。
発電所建設に3500億ユーロ、送電網整備に500億ユーロを見込んでいる。
地図の■はそれぞれの所要電力確保のために必要太陽熱発電の面積を示す。
(EUの場合は130km四方の面積が必要)
太陽熱発電は鏡やレンズを使って太陽光を1点に集中させて熱を発生させ、集めた熱で蒸気を発生させてタービンを回し電力を生み出す。
太陽熱発電の利点は24時間送電が可能なこと。
日中に熱貯蔵タンク(溶融塩タンクかコンクリートブロック)に熱を貯め、夜間にその熱で発電することが出来る。曇りや悪天候の時には石油、天然ガス、バイオ燃料などでタービンを動かすことも出来る。
太陽光発電の場合は、太陽熱発電よりも建設に金がかかり、電力貯蔵には揚水システムなどの高価な設備が必要となる。
欧州で揚水システムを利用する場合、1日数時間のためだけに余分の送電線が必要となる。
HVDC送電技術は既にSiemensが中国で実施しており、三峡ダムの5000MWの電力を1400km離れた上海まで送電しているが、電力ロス5%に過ぎない。(交流の場合ならは400MWがロスとなる)
MENAから欧州までのHDVC送電のロスは15%程度となるが、MENAでの太陽熱レベルは南欧のレベルよりも2倍程度あり、またMENAでは季節による変動も少ないため、十分ペイするとしている。
本計画の詳細は以下を参照
http://www.desertec.org/fileadmin/downloads/DESERTEC-WhiteBook_en_small.pdf
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以前から西澤潤一・東北大学名誉教授が地球温暖化・エネルギー対策の切り札として、「世界の電力需要は水力発電と直流送電で賄える」と主張している。
交流送電では200kmが限界だが、直流なら、電線を少し太くすれば、2万kmまでも可能であり、地球上のどこへでも電力を送電できる。
そこで、豊富な水力資源のある場所(国、地域)で発電した電力を、世界中の消費地に運んで使うことが可能になる。
消費地では、同氏が開発した静電誘導サイリスタ(Thyristor)を使えば、直流を効率よく交流に変換できる。
同氏によると、直流送電は交流送電に比べてはるかに長距離伝送が可能であるが、直流は変圧器が使えないというのが欠点であった。
発電所を作り、電線でいつでも電気を使えるようにしたのはエジソンだが、直流で送ったため、エジソンの会社は直ぐにつぶれ、交流送電を推進したウイリアム・スタンレー、ニコラ・テスラらのウェスティングハウスに敗退した。同氏が開発したサイリスタ半導体が直流を交流に変換できることが分かると、GEから飛んできて、直流送電をやりたいと述べたという。
日本ではこの案は無視されているが、DESERTECの発想は同氏の考えを元にしていると思われ、メンバーのABBは地球の周りに直流送電線を巻くという構想を立てているといわれる。
* 総合目次、項目別目次
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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