中国商務部は6月24日、輸入メタノールのダンピング調査を開始すると発表した。サウジアラビア、マレーシア、インドネシア、ニュージーランドの4カ国原産のものを対象としている。
上海焦化(Shanghai Coking Chemical)、内蒙古遠興エナジー(Yuanxing Energy)、エン礦國泰(Yankuang Cathay)、Yankuang Lunan、Pingmei Lantian などの中国メーカーからダンピング調査の申請を受理し、その後検討してきたもの。
過去1年で中国東部のメタノール価格は劇的に下落した。
昨年第2四半期にトン当たり4930人民元であったのが、最近は1900人民元になっている。
これは経済危機の影響とともに、安価な海外のメタノールの流入によるもので、国内メーカーは輸入数量の増加と価格の低下の被害を受けたとして、メタノール市場の安定化のため政府にダンピング調査を要請した。
中国のメタノールのバランスは以下の通り。(千トン)
生産 輸入 輸出 消費 2007 10,760 845 563 11,042 2008 11,120 1,434 368 12,186 2009
(1-5)3,910 2,906 1 6,815
本年の輸入数量は年換算で6,974千トンとなる。
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サウジ政府はダンピングを否定し、今回の措置に遺憾の意を表した。
これを受け、中国の大使館スポークスマンは、調査の段階であり、調査完了まではダンピング課税をしないと説明し、サウジ政府の懸念を考慮すると述べた。
National Centre for the Development of Saudi Exports の会長でサウジ商工会議所会頭(メタノールメーカーの1社の株主のSipchem の取締役)は7月4日、サウジの輸出業者は中国が検討している間に被害を受けるのを心配していると述べ、サウジ政府は報復措置として中国からの鉄や化学品などの輸入品に対して関税を課するよう主張した。
「中国の鉄やプラスチックや電機産業がダンピングで我国の産業に害を与えている」としている。
これに対しては昔のサウジのWTO交渉チームのヘッドは、感情を持ち込まず、中国でダンピングをしていないことを立証すればよい、としている。商工会議所にWTOのルールを教育すると。
サウジの中国へのメタノール輸出はサウジの石化製品の10-15%になり、2008年では20億ドルに達するという。
2008年のサウジの生産量は620万トンで、うち中国に84万トンを輸出した。
SABICも7月4日、中国市場でダンピングをしていないとの声明を発表した。
サウジの石化メーカーは低コストの原料を入手できるため、競争上、不公平なメリットを受けているとの批判を受けてきた。
サウジは2005年12月にWTOに加盟したが、最後まで問題になったのが政府の決めたエタンとメタンの固定価格(75cent/百万BTU)で、WTOは最終的にこれを承認した。(サウジ政府は天然ガス輸出用の液化費用を勘案すれば安くはないと説得した)
GCC 6ヶ国のうちクウェート、UAE、カタール、バーレンは1998年以前に加盟済みであり、オマーンも2000年末に139番目のメンバーとして正式加盟を果たしており、残る未加盟国はサウジのみであった。
EUはサウジがWTOに加盟した場合、これまでサウジの石化製品に課していた関税障壁を撤廃しなければならず、EU内の石化産業が打撃を受けることは必至である。このため、上記のエタン価格問題や、サウジ国内の工業所有権等の法制度の未整備、商慣習が透明性に欠ける等の点をあげ、反対していたが、米国が説得したといわれている。
サウジのエコノミストは、サウジのWTO加盟の際に他の加盟国はこれに同意しており、サウジの石化製品は輸出のためのインセンティブを与えられているとはいえないと述べている。
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中国はこれまでサウジ製品に対しては2件、ダンピング調査を行った。
2005年9月にオクタノールについて、日本、韓国、EU、インドネシア品とともに調査を開始したが、これについては2007年1月に「損害なし」との結論で、調査を終結した。
2008年9月に1,4ブタンジオールについて、台湾品とともに調査を開始、2009年5月にクロの仮決定を行い、現在調査を継続している。
この際には、影響が少ないためか、サウジ側に動きはない。
(サウジでは Sipchem がマジョリティのInternational Diol Company がブタンから無水マレイン酸→ブタンジオール→テトラヒドロフラン、ガンマブチロラクトンを生産している。)
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サウジのメタノールに関して(仮にダンピングの事実があった場合)、中国政府がサウジとの政治的関係を考慮するかどうか、見ものである。
これまでの中国のアンチダンピング措置のうちに、政治的配慮がなされたと見られるのが1件だけある。
中国商務部は2004年3月に、米国・韓国・タイ・台湾原産の無漂白クラフト紙についてダンピング調査を開始し、2005年5月にクロの仮決定、2005年9月にクロの最終決定を行った。
ところが2006年1月9日、国務院決定でこれが取り消された。理由は挙げていない。
(中国の反ダンピング法50条では、商務部が決定の変更や取り消しを提案し、関税委員会がこれを決定できるとなっている)米政府は2007年2月、「企業に不当な補助金を与えて輸出を促進、輸入を阻害して米国企業に被害を与えている」として中国をWTOに提訴した。
USTRはその発表の中で、過去の米中間のWTOを巡る3つの問題点を挙げている。
その第3が無漂白クラフト紙のダンピング問題で、米国が本件でWTOに提訴すると伝えると、中国側が決定を取り消したとしている。
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今回の中国のダンピング調査の対象は、サウジアラビア、マレーシア、インドネシア、ニュージーランドの4カ国原産のものである。
各国のメーカーは以下の通り。
社名 | 能力 | 出資 | |
サウジアラビア | AR-RAZI (Saudi Methanol) |
490万トン | SABIC 50%/日本・サウジアラビアメタノール(JSMC) 50% JSMCは三菱ガス化学 47%/海外経済協力基金 30% ほか |
IBN SINA (National Methanol Company) |
110万トン | SABIC 50%/ CTE (Hoechst-Celanese Duke and Energy) 50% | |
International Methanol Company | 100万トン | Sipchem 65%/Japan-Arabia Methanol (JAMC)35% JAMCは三井物産55%/三菱商事15%/ ダイセル15%/飯野海運15% | |
マレーシア | Petronas | 66万トン 170万トン |
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インドネシア | Pertamina | 33万トン | |
PT Kaltim Methanol Industri | 66万トン | 双日 85%/ダイセル 5%/ PT Humpuss 10% | |
ニュージーランド | Methanex | 240万トン |
* 総合目次、項目別目次
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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