塩野義製薬は5月18日、米国の関連会社 Sciele Pharma, Inc.(サイエル・ファーマ)を通じて、米国で疼痛とその関連疾患に対する治療薬の導入、開発および販売に特化した医薬メーカーVictory Pharma, Inc.を買収するで合意したと発表した。
塩野義製薬は2008年10月、米ナスダック上場の中堅製薬会社Sciele Pharmaを総額で14億2400万ドルを投じ、完全子会社にした。
全米に約800人の従業員を持つサイエルを傘下に収め、世界最大の医薬品市場である米国での販売体制を強化する。
塩野義は米国子会社を通じ抗肥満薬やアトピー性皮膚炎治療薬などの新薬候補物質を開発、2012年前後に発売を期待できる薬が3種類ある。米国での売 り上げを最大化する販売網の構築を行うもの。
サイエル社では「この買収は製品ポートフォリオの拡大戦略を実行する重要な過程であり、また、買収により、米国における疼痛治療薬市場への速やかな展開が可能になると共に、今後も疼痛治療薬の導入を積極的に進めていくことにより、塩野義製薬の重点領域である疼痛領域へのサイエル社の貢献を確実なものにしていきたい」とした。
塩野義製薬は、疼痛領域を重点領域の一つと位置づけ、研究開発に積極的に取り組んでおり、今後、開発中のオピオイド副作用緩和薬および今後臨床開発を予定している化合物のグローバルな開発をより一層加速させていくとしている。
Victoryの主力製品であるNAPRELANは、NSAID(非ステロイド性抗炎症薬)である塩酸ナプロキセンで唯一の一日一回投与を可能とする徐放製剤であり、他の製剤に比べ消化器等への安全性に優れた製剤。
しかし同社は7月10日に、この買収契約を解消することで双方共に合意したと発表した。
契約解消についての詳細は開示せず、「本買収契約が締結された時点では予期し得ない事態が買収契約締結後に生じたことによるもの」としている。
買収のための費用は一切支払っておらず、今回の契約解消に伴う、サイエル社および塩野義製薬の今年度の業績への影響は軽微としている。
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Victory Pharma は疼痛治療薬市場に特化したスペシャルティ・ファーマ。
創業: 2004年
代表者 President and CEO Matt Heck
本社所在地: 米国カリフォルニア州サンディエゴ
従業員数: 182名(MR120名、2009年5月1日現在)
売上高: 年間57百万ドル(2008年)
製品: 販売中の製品は、NAPRELAN(R) を中心とする疼痛治療薬
NAPRELAN(R) (naproxen sodium) 除放性疼痛治療薬
Fexmid(R) (cyclobenzaprine hydrochloride) 筋肉けいれん治療薬
XODOL(R) (Hydrocodone bitartrate/ Acetaminophen) 疼痛治療薬
Dolgic(R) Plus (Butalbital/ Acetaminophen/Caffeine)緊張性頭痛治療薬
開発中の製品としてはオピオイド副作用緩和薬(MGX001)と、めまい・吐き気治療薬(MGX006)があり、
後者はFDAの認可を受けて2010年上半期にも発売を期待するとしている。
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「予期し得ない事態」が何であるかは全く不明だが、米紙は次の点を可能性として挙げている。
同社の販売中の製品4品目のうち、2品目(XODOL、Dolgic Plus)にアセトアミノフェンが含まれている。
アセトアミノフェンはMcNeil 社が鎮痛と解熱効果を見出し、1955年に解熱鎮痛薬「小児用Tylenol」 を発売した。
1959年に Johnson and Johnson がMcNeil を買収した。
このアセトアミノフェンに関しては、過量服用に伴う重篤な肝障害が問題となっており、米FDAは6月29日・30日の2日にわたって、35人の専門家を集めて、アセトアミノフェンの安全対策に関する諮問委員会を開催した。
同委員会では、1日及び1回の量の制限、他の成分を配合したOTC及び処方箋製品の取り止め、他の成分を配合した処方箋製品販売の場合の条件などの勧告をまとめた。
三級指定麻薬であるHydrocodone との合剤(同社のXODOL )などは事実上の販売禁止を求めた。
10代の若者の間でHydrocodone 中毒者が増えており、これらの処方薬を悪用して、多量の合剤を服用し、結果としてアセトアミノフェンによる肝不全を招いていると言われている。
この勧告について、業界団体のConsumer Healthcare Products Association は「アセトアミノフェン過量服用と関連がある有害事象は処方薬によるものが大部分であり、成人が通常に使用する場合には安全である。私たちは、過量服用防止のために、ラベルの変更とともに教育による介入が適切だと考えている。」 としたステートメントを発表すると共に、適正使用のための包括的な教育プログラムの開発を行っていることを明らかにしている。
合併取り止め発表はこの委員会の直後であり、同社の4品目のうちの2品目が勧告対象となったのが響いた可能性があるとしている。
* 総合目次、項目別目次
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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