公正取引委員会は8月27日、溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯の製造販売業者に対し,不当な取引制限の禁止の規定に違反する行為を行っていたとして,排除措置命令及び課徴金納付命令を行った。
3社に対する課徴金合計155億円は、1事件の課徴金としては、ごみ焼却炉建設工事を巡る談合で2007年に出された約270億円(審判中でいったん失効)に次いで過去2番目で、カルテルとしては過去最高額となった。
排除命令 | 課徴金(千円) | |||||||
行為 A | 行為 B | 行為 C | 行為 A | 行為 B | 行為 C | 計 | ||
日鉄住金鋼板 | ○ | ○ | ○ | 3,763,200 | 1,239,550 | 1,338,010 | 6,340,760 | |
: | 大洋製鋼 (日鉄住金鋼板と合併) |
X | 対象外 | 対象外 | ー | 対象外 | 対象外 | ー |
住友金属建材 (日鉄住金鋼板が承継) |
X | 対象外 | X | ー | 対象外 | ー | ー | |
日新製鋼 | ○ | ○ | ○ | 3,218,380 | 811,750 | 1,460,620 | 5,490,750 | |
淀川製鋼所 | ○ | ○ | ○ | 1,644,500 | 1,275,610 | 755,560 | 3,675,670 | |
JFE鋼板 | X | X | X | ー | ー | ー | ー | |
NKK鋼板 (JFE鋼板と合併) |
X | X | X | ー | ー | ー | ー | |
合計 | 7社中3社 | 5社中3社 | 6社中3社 | 8,626,080 | 3,326,910 | 3,554,190 | 15,507,180 |
*日鉄住金鋼板は日鉄鋼板と住友金属建材が2006年12月に事業統合
違反行為は次の3つに分かれる。
A | GL鋼板の店売り取引 | |
7社は,平成14年8月下旬ころ以降,GL鋼板の店売り取引での販売価格について合意することにより,公共の利益に反して,我が国におけるGL鋼板の店売り取引の販売分野における競争を実質的に制限していた。 | ||
B | 軽量天井下地材メーカー向けGI鋼板ひも付き取引 | |
5社は,平成15年8月下旬ころ以降,軽量天井下地材製造業者向けGI鋼板のひも付き取引での販売価格について合意することにより,公共の利益に反して,我が国における軽天メーカー向けGI鋼板のひも付き取引の販売分野における競争を実質的に制限していた。 | ||
C | 建材製品製造業者向け特定カラー鋼板ひも付き取引 | |
6社は,平成16年1月中旬ころ以降,建材製品製造業者向け特定カラー鋼板のひも付き取引での販売価格について合意することにより,公共の利益に反して,我が国における建材製品製造業者向け特定カラー鋼板のひも付き取引の販売分野における競争を実質的に制限していた。 | ||
7社のうち、大洋製鋼は2002年10月に日鉄住金鋼板の製造子会社となり、2004年4月に日鉄住金鋼板と合併した。
住友金属建材は2006年12月に日鉄鋼板と合併、日鉄住金鋼板になった。
NKK鋼板は2004年4月にJFE鋼板と合併した。
このため、現在存続するのは4社で、このうち、JFE鋼板は課徴金減免制度を利用し、公取委に自主申告したため、排除命令と課徴金(全額)を免除された。
日鉄住金鋼板と淀川製鋼所も30%免除された。
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本件に関しては公取委は2008年11月11日に、日鉄住金鋼板、日新製鋼、淀川製鋼所の3社を検事総長に告発している。
更に12月8日には各社の専務、執行役員、担当部長ら(いずれも当時)6人が起訴され、東京地裁で公判中。検察側は懲役1年~10月を求刑している。
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鉄鋼業界はこの数年間に何度も独禁法違反で摘発されている。
・2005年3月11日 冷間圧延ステンレス鋼板の製造販売業者に対する課徴金納付命令
課徴金 千円 日新製鋼 1,607,520 新日本製鉄 1,284,690 2003/10/1付けで
新日鉄住金ステンレス住友金属工業 977,160 日本冶金工業 1,107,590 日本金属工業 1,035,430 JFEスチール 764,330 合 計 6,776,720
・2007年12月4日 東京瓦斯、大阪瓦斯が発注するガス導管工事の入札参加業者に対する課徴金納付命令
課徴金 東京瓦斯
高圧ガス導管大阪瓦斯
中圧ガス導管合計 住友金属パイプエンジ 252,000千円 20,010千円 272,010千円 新日本製鉄 156,870 89,530 246,400 JFEエンジニアリング ー 182,830 182,830 住友金属工業 ー 37,640 37,640 合計 408,870 330,010 738,880
・2008年6月4日 鋼管杭及び鋼矢板の製造販売業者に対する排除措置命令及び課徴金納付命令
排除措置 課徴金 特定
鋼管杭特定
鋼矢板特定
鋼管杭特定
鋼矢板合計 JFEスチール ○ ○ 710.100千円 426.680千円 1,136,780千円 新日本製鉄 ー ー 345,540 334,830 680,370 クボタ ○ 対象外 212,910 対象外 212,910 住友金属工業 ー ー ー ー ー 合計 1,268,550 761,510 2,030,060
改正独禁法は2006年1月から施行となった。
溶融亜鉛めっき鋼板については、その直後の同年4月ごろ、4社は小口顧客向けの亜鉛めっき鋼板を約10%値上げすることを決め、7月出荷分から実施している。
2008年11月12日付けの日本経済新聞は社説で、「目に余るカルテル、鉄鋼業界は猛省を」とし、上記の過去の例も挙げ、次のように述べている。
違法行為に対する処分を強化した改正独禁法の施行後のカルテルであり、悪質極まりない。
消費者やユーザー企業の負担を重くし、日本の国際競争力をそいでいる事実に罪の意識はないのだろうか。カルテル・談合を早くやめるよう鉄鋼業界に猛省を求めたい。改正法の精神を全く理解しない違反で刑事告発は当然である。
鉄鋼業界の独禁法違反は目に余る。
昔からのカルテル・談合体質を変えられないとしたら、事態は深刻である。
* 総合目次、項目別目次
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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