中国の検察当局は、7月5日から拘束していた Rio Tinto社員4人を8月11日に産業スパイ(刑法219条違反)と贈賄(163条違反:政府当局者以外への贈賄)の容疑で正式に逮捕した。
中国の法律では拘束は37日までとなっており、丁度37日で逮捕した。逮捕後の捜査期間は2ヶ月内だが最大5ヶ月まで可能。
2009/7/23 Rio Tinto 事件のその後
注 中国刑法では産業スパイは15日から7年の罪
国家機密の場合は死刑
京華時報によると、4名は国家機密窃取の疑いで拘束されたが、罪名は、「国家機密窃取」から「商業機密侵犯」に「降格」した。
弁護士の推測では、捜査担当者は今回の事件が関わった機密内容と主体を考慮した結果、商業機密侵犯容疑が比較的妥当であると判断した模様。
また北京市公安当局に拘留された首鋼国際貿易工程公司の幹部は商業機密の提供、国家業務人員収賄の容疑で既に逮捕されている。
詳細は不明だが、本件の問題点は、「産業スパイ」と「贈賄」の内容である。
Rio Tinto が得た情報には、鉄鋼メーカーの生産量や鉄鉱石消費量などが含まれているとされるが、これらの情報収集が産業スパイと認定されるのであろうか。
また、中国では食事やカラオケに誘ったり、贈り物をするのは一般的と言われている。これが贈賄となったのだろうか。
(Rio Tinto の場合、下記の例とは異なり、多額の賄賂を支払う必要性はないように思われる。)
場合によっては中国でのビジネスのやり方を見直す必要があるかも分からない。
Rio Tinto では、同社としては従業員が中国での事業活動で適切に倫理的に行動していると信じている、としている。
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これを受け、8月13日付の新華社通信と人民網日本語版は多国籍企業の中国での贈賄事件を分析している。
これまでも多くの有名企業が中国で収賄事件を起こし、欧米の司法当局に摘発されている。
米国には1977年に制定された海外不正行為防止法(Foreign Corrupt Practices Act:FCPA)があり、米国上場企業が商取引を獲得もしくは維持する目的で、金銭その他の経済的利益を外国公務員に提供することを禁止している。
ドイツの総合電機大手 Siemensが事業受注をめぐる世界各地での汚職事件に絡み、米国で8億ドル、欧州当局に8.6億ドルの制裁金を支払った。このうち、中国では次の件が問題となった。
・ | シーメンス交通システム |
2002年から2007年に亘り、香港に所在するコンサルティング会社等に2200万米ドルを支払い、これらを通じて中国当局の幹部に賄賂を贈り、総額10億米ドルにのぼる地下鉄の列車と信号設備のプロジェクトを受注。 | |
・ | シーメンス中国輸変電集団(Siemens PTD) |
2002年から2003年に亘り、2500万米ドルをドバイに所在するコンサルティング会社等に支払い、これを通じて中国当局幹部に賄賂を贈り、華南地区の総額8.38億米ドルに上る電力高圧送電線プロジェクトを受注。 | |
・ | シーメンス医療集団 |
2003年から2007年に亘り、1440万米ドルの賄賂を5つの中国国有病院に贈り、また関連の医療機構の医療関係者に豪華な旅行などを提供し、2.95億米ドルの医療設備を受注。 |
フランスのAlcatel-Lucent の子会社 Lucent Technologies は2007年12月に、米証券取引委員会が訴えたFCPA違反を認めた。
2000年から2003年の間に、10百万ドルを使って、中国の当局者や国営通信企業の従業員約1000名をHawaii、Las Vegas、Grand Canyon、Niagara Falls、Disney World、Universal Studios、New York City などに招待した。工場見学を名目にしているが、同社はアウトソーシングしているため工場はなく、実態は観光旅行であり、賄賂と認定された。
証券取引委員会の発表では、最近では米最大のラベルメーカーであるAvery Dennison が、中国の地方官僚に賄賂、観光旅行、ギフトを贈ったとして20万ドルの罰金を課された。
今回のRio Tinto事件に関して、米証券取引委員会はFCPA違反で調査を始めている。
付記
世界中の電力、石油ガス、製紙工場などにバルブを供給する Control Components Inc. (CCI)は7月31日、Foreign Corrupt Practices Act (FCPA) 等の有罪を認めた。
1998年から2007年まで、事業確保のため、中国、韓国、マレーシア、UAEなど、世界中の国営企業、私企業の担当者に不正な支払いをしてきた。
中国の華潤電力持株有限公司、大唐電力、定州電力、中国海洋石油総公司(CNOOC)、中国東方電気集団、PetroChina、中国石油物資装備公司、江蘇原子力発電、国華電力、韓国の韓国水力原子力、マレーシアのPetronas、UAEのNational Petroleum Construction の名前が挙がっている。
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海外の大企業が賄賂に手を染めるのは、中国市場が広大で豊かであるために、上記Siemens の例のように、賄賂で支払う金額の数十倍もの見返りを得ることができるからだ。
グローバル企業が賄賂を通じてリターンを得ているケースとして、
・政府との契約
・大プロジェクトの獲得
・土地資源の低価獲得
・問題が発生した時に管理や処罰を逃れる
・政府の審査・認可の速度を速めるーーなどが挙げられる。
外資企業の腐敗事件は多岐に及ぶが、礼金の支払いや女性のあっせんなど直接的な従来型のやり方ではなく、「商務視察」「海外実習」を名目した海外旅行への招待(上記 Lucent の例)や子女の留学援助など、間接的で聞こえのいいやり方を取るようになっている。
米国のある電信設備会社の従業員によると、米国のFCPAの規制を逃れるため、低価格で製品を取次業者に販売し、この業者が賄賂を行うという方法を取っている。
(しかし、賄賂に使われると知りながら支払われたものはFCPA違反が認定されている)
* 総合目次、項目別目次
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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