民主党鳩山代表は9月7日開かれた朝日新聞社主催「朝日地球環境フォーラム2009」で、日本の2020年までの温室効果ガス排出削減の「1990年比25%減」を実現する考えを明言した。「あらゆる政策を総動員して実現」するとした。
具体策は明らかにしていないが、25%削減には「排出権取引」などを含むとみられている。
気候変動問題への積極的な取り組みは日本経済に「新しいフロンティアと新しい雇用」を提供するとし、経済や国民生活が良くなると信じるとしている。
同時に、「世界のすべての主要国による、公平かつ実効性のある国際枠組みの構築」もめざすとした。すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意が、我が国の国際社会への約束の「前提」となるとしている。
また、気候変動の問題は地球規模の対応が必須であることから、途上国においても、「共通だが差異のある責任」の下、温室効果ガスの削減に努める必要があるし、意欲的に温室効果ガスの削減に努める途上国に対して、「先進国は資金的、技術的な支援」を行うべきであるとしている。
このような支援の具体策についても、「鳩山イニシアティブ」として国際社会に問うべく、新内閣発足後直ちに、検討を開始したいした。
今月22日に開かれる国連気候変動首脳級会合に出席し、より具体的に国際社会に問うていきたいとした。
直後に登壇したデブア国連気候変動枠組み条約事務局長は「民主党の目標は称賛すべきものだ」と高く評価。、「すべての先進国は野心的な削減目標を掲げなければならない」と主張した。そのうえで、「野心的な目標こそ、日本が方向転換して困難に立ち向かうという姿勢を示すものだ」と述べ、COP15の合意に向け、交渉を加速させる材料となるとの見方を示した。
パチャウリ国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)議長も「これまで世界各国の首脳に会ったが、鳩山氏のメッセージは素晴らしい」と同調した。
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首相直轄の地球温暖化問題に関する懇談会の中期目標検討委員会では、努力継続(90年比+4%)から先進国・国別ともの25%削減までの6ケースを検討していた。
麻生首相は6月10日、日本の2020年時点の温暖化ガスの中期目標を海外から購入する排出枠などを除いて05年比15%削減(1990年比8%減)にすると表明した。
同時に目標実現に必要な政策や家計負担も提示。太陽光発電を現状の20倍導入するほか、1世帯あたり年間約7万円超の負担増が必要だと試算した。
2009/4/2 温暖化ガス削減中期目標
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デンマークのヘデゴー気候変動・エネルギー相は「野心的な目標だ」と高く評価。「日本の次期政権の力強い指導力」によって今後の国際交渉に弾みがつくとみている。
新華社通信は、「削減義務のない発展途上国を削減義務国の範囲に入れようとしている」と批判する識者のコメントを紹介した。
二階経済産業相は麻生首相が示した8%減でも各家庭の負担は年間77千円程度になり、25%減だとその数倍に及ぶと指摘し、「実現は極めて難しい」と述べた。
経済産業省次官は「日本経済にとっては非常に厳しい道を選ぶことになる。国民全員がこれに耐えていくんだという覚悟が必要だ」と述べた。
一方、斉藤環境相は「積極的な取り組み姿勢で、高く評価したい。野心的な目標を掲げることで世界の議論をリードしてもらいたい」と評価。ただ、民主党のガソリン税暫定税率廃止や高速道路無料化は「25%削減と両立しない」として見直しを求め、目標実現には原発推進も必要と指摘して「原子力発電に否定的な社民党と連立を組むなら、この点も明らかにしておかねばならない」と注文もつけた。
産業界には「国民生活、経済界にとって大事な案件。しっかり議論して結論を出してもらいたい」、「荒唐無稽もいいところだ。国益に反するのは間違いなく、国内では生産活動ができなくなる」との意見が出た。
一方、日本鉄鋼連盟会長は、「米国や中国などすべての主要国参加による意欲的な目標の合意を『前提』とした点は、鉄鋼業界と共通している。国際交渉ではその姿勢を堅持し、公平かつ実効性ある枠組みづくりに全力を尽くしてほしい」としている。
河野太郎代議士は9月7日付けのブログで以下の通り述べている。
民主党の主張する高い温暖化ガスの削減目標は決して間違っていない。対策を講じなかったときの破壊的な影響によるコストと比較して、対策のコストを論じるべきなのに、経済界は何もしなかったときのコストを意図的に議論に入れることを避けている。
ただ、削減目標を高くするならば、高速道路の無料化との整合性がとれなくなってくる。これは思い切って見直すべきだ。
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鳩山代表のスピーチは以下の通り。
イボ・デブア国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)事務局長、ラジェンドラ・パチャウリ気候変動に関する政府間パネル(IPCC)議長、ビョルン・スティグソン持続可能な発展のための世界経済人会議(WBCSD)事務総長をはじめとする、内外のオピニオンリーダーが多く参加され、今日、明日と2日間にわたって、焦眉の地球環境問題、とりわけ気候変動問題について議論をされるということに、非常に期待しております。
さて、先の衆議院総選挙におきまして、多くの国民の皆様の勇気ある選択の結果、我々民主党に多くの議席を与えていただき、政権交代が実現することになりました。
政権交代は、政策変化をもたらすためのスタートであり、我々にはマニフェストでお約束した政策をしっかり実行していくことが求められていると認識しております。気候変動対策についても、これまでの政府の政策を我々のマニフェストに基づいて見直し、低炭素社会の早期実現に向けて、あらゆる政策手法の総動員を図っていきたいと考えております。
私は2000年に『「成長の限界」に学ぶ』という小著の中で、以下のようなことを申し上げました。
私たちは産業革命以来、技術の進歩の中で豊かで便利な暮らしを追い求め、実際にそれを実現してきました。しかし一方で、人口増加や化石燃料の過 度の消費による産業活動などにより、気候変動はすでに始まっており、その影響が拡大しています。では、具体的に何をするべきかという話になると、理論と現実のギャップの大きさの前に、多くの人が躊躇し、行動が伴わなくなりがちです。
しかし、それではいけないのです。長期的でグローバルな視点を持ち、「このままの事態が進めば、こんな日本になってしまう、こういう世界になって しまう。だから今こういう部分を大きく動かし、改革しなければいけない」ということを理論立て、説得力のあるメッセージとして打ち出すことが本来、我々政治家のつとめです。
私はよく「友愛」という言葉を使います。それは、違いを認めつつ、お互いに信頼して、より豊かで幸せな社会を作るためには、どういう協力がありうるかを探っていく。そこに「友愛精神」の真髄があると思っています。
9年前にこのように語った気持ちは現在も変わってはおりません。気候変動の問題は、その影響が世界全体にわたり、長期間の国際的な取り組みを必要とするものです。すべての国々が、「共通だが差異ある責任」のもと対処していくことが肝要です。
ましてや、政権交代が実現することとなった今、私は、世界の、そして未来の気候変動に対処するため、友愛精神に基づき国際的なリーダーシップを発揮していきたいと考えています。
まず、温室効果ガスの削減目標について申し上げます。
本日ご出席されている、パチャウリ議長の下でのIPCCの結論を踏まえ、先進国は、率先して中期的、長期的な排出削減に努める必要があると考えています。わが国も長期の削減目標を定めることに積極的にコミットしていくべきであると考えています。また、中期目標についても、温暖化を止めるために科学が要請する水準に基づくものとして、2020年までに1990年比25%削減をめざします。
これは、我々のマニフェストに掲げた政権公約であり、政治の意思として、あらゆる政策を総動員して実現をめざしていく決意です。
しかしながら、もちろん、我が国のみが削減目標を掲げても、気候変動を止めることはできません。世界のすべての主要国による、公平かつ実効性のある国際枠組みの構築もめざします。すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意が、我が国の国際社会への約束の「前提」となります。
今、国際交渉で必要なのは、気候変動を確実に防止し、地球規模の安定と平和を守るため、世界の政治家がその責任を果たすことにあると考えております。我々は、世界のすべての主要国に対して、意欲的な目標の設定を強く呼びかけて参ります。
次に、途上国においても、気候変動の問題は地球規模の対応が必須であることから、持続可能な発展と貧困の撲滅を目指す過程で、「共通だが差異のある責任」の下、温室効果ガスの削減に努める必要があると考えています。
さらに、国別削減行動(NAMA : Nationally Appropriate Mitigation Action)の計画を定めるなど、意欲的に温室効果ガスの削減に努める途上国に対して、先進国は資金的、技術的な支援を行うべきであると考えます。また、とりわけ脆弱な途上国の適応措置に対しても、同様な支援を行うべきです。
このような支援の具体策についても、「鳩山イニシアティブ」として国際社会に問うべく、新内閣発足後直ちに、検討を開始したいと考えております。
炭素に依存しない社会の構築は、日本にとって大きなチャンスです。
オバマ大統領のグリーン・ニュー・ディール構想を持ち出すまでもなく、気候変動問題への積極的な取り組みは、電気自動車、太陽光発電を含むクリーン・エネルギー技術など、日本経済に新しいフロンティアと新しい雇用を提供します。慎重論を唱える方たちが言われているような、経済や国民生活が悪くなるのではなく、良くなるのだと私は信じています。
今から一世代ほど前、日本は石油ショックに対応するために能動的に省エネの技術革新に取り組み、それが後の日本企業の国際的競争力を支えることになりました。21世紀の今を生きる私たちも、新たな挑戦に挑むべきです。
わが国の企業、国民の能力の高さを私は信頼しています。企業も国民も、そして、当然ながら私たち政治においても、産業革命以来続いてきた社会構造を転換し、持続可能な社会をつくるということは、次の世代に対する責務であると考えています。
国会において私が首班指名を受けることになりましたなら、今月22日に開かれる国連気候変動首脳級会合にぜひ出席させていただき、本日申し上げたことを、より具体的に国際社会に問うていきたいと思います。
日本の政権交代が気候変動対策について大きな変化をもたらし、人類社会の未来に向けて国際交渉上、非常に貢献したといわれるようなスタートとしていきたいと考えております。
その際には、今回のフォーラムにおける議論も参考にさせていただきたいと思います。フォーラムの成功とみなさまの益々のご活躍を祈念いたします。
* 総合目次、項目別目次
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
■温室ガス25%減、鳩山代表が明言-これで日本の黄昏が始まるか?
http://yutakarlson.blogspot.com/2009/09/blog-post_07.html
こんにちは。鳩山さん、温室効果ガス25%減を明言しましたね。この目標を実現するためには、家庭でもかなりのことをしなければならなくなります。たとえば、現在断熱処理があまりされていない住宅の断熱です。一戸建てだと、500万くらいの出費になる場合もあります。それよりも、産業の効率が悪くなり、 GDPを押し下げ、雇用状況を悪化させるおそれもあります。このようなことを強行するには、それなりの訳(たとえば、中国への巨額の投資の準備など)があると思うのは私だけでしょうか?ここに書いていると長くなってしまいます。詳細は是非私のブログをご覧になってください。