米、中国製のタイヤにセーフガード発動、中国は対抗策

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オバマ米大統領は911日、米国への輸入が急増していた中国製タイヤに対して、セーフガード(緊急輸入制限)を発動する方針を公表した。

米大統領報道官は、「事実と法例にもとづき、大統領は米国のタイヤ産業の明白な混乱を是正する旨を決断した」と発表した。
対象産品は、乗用車、軽トラック用の中国製タイヤで、現行
4%の輸入関税に1年目35%、2年目30%、3年目25%が上乗せされる。

米国の国際貿易委員会(ITC)は中国製タイヤの輸入急増により米国内の雇用が圧迫されているとする全米鉄鋼労組(USW)の訴えを受け、629日に42の賛成で、1年目55%、2年目45%、3年目35%の追加関税を柱とするセーフガードの発動を大統領に勧告していた。

オバマ大統領としては苦渋の決断である。
健康保険制度の全面改正を前に労働組合の支持を失うことが出来なかった。
一方、9月24日からピッツバーグで開く20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)での中国首脳との会談直前であり、ドルの価値の維持で中国に依存せざるを得ない米国にとり、タイミングは最悪である。

前任の Bush大統領は任期中にITCからsteel pipe など4件の同様の勧告を受けたが、全て拒否した。

オバマ大統領は、「既存の協定を利用したものであり、保護主義を促すものではない。自由貿易体制を維持していく協定を強化するためのものだ」としている。

中国商務部は12日、本件に関して保護主義に強く反対すると述べた。WTOのルールに違反しており、G20サミットでの約束にも反するとし、中国企業の利益の保護のため対抗する権利を留保するとした。

中国商務部は14日、WTOに提訴すると発表した。米国の措置はWTOルールに違反しているとし、WTO紛争手続きに基づく二国間協議を求めた。これが決裂した場合は、WTOが紛争処理小委員会(パネル)を設置する。

また、中国商務部は13日、米国製の輸入自動車、鶏肉製品について、WTOの規則などに基づき、反ダンピング・反補助金調査の手続きに入ると発表した。自動車や鶏肉製品の国内業界から「ダンピングなど不公平な貿易方法で、国内産業が打撃を受けている」として、同省に調査申し立てが出ていたとしている。

中国商務部は6月1日、米国の電磁鋼板に対して相殺関税制度(輸出国の補助金を受けた輸入貨物に対し、国内産業保護のために補助金額の範囲内で割増関税を課す制度)による調査を開始した。

これは米国による中国製油井パイプ製品に対する反ダンピング、反補助金及び相殺措置に関する合同調査に対する報復である。

2009/6/3 米中 貿易戦争勃発? 

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セーフガードは、ある輸入品が急増し、自国の競合産業に重大な被害を及ぼすか、あるいはその恐れのある場合、国内市場の攪乱を防止するために、当該輸入品に対して輸入制限、あるいは禁止を行うことのできる緊急措置のことを言う。

WTOは、GATT第19条及びWTO協定の「セーフガードに関する協定」により、一定条件下において、例外的に輸入制限を認めている。

第19条 特定の産品の輸入に対する緊急措置
産品が、自国の領域内における同種の産品又は直接的競争産品の国内生産者に重大な損害を与え又は与えるおそれがあるような増加」した場合に適用できる。

「ダンピング」の場合と異なり、自国での価格より安く売っているということなどの立証は不要である。

ITCによると、中国製タイヤは17億ドルの米市場を撹乱している。
中国製タイヤの輸入は2004年から2008年で3倍になり、米市場でのシェアは4.7%から16.7%にアップした。2006年と2007年に4工場が閉鎖し、本年も数社が閉鎖の予定となっている。

しかし、中国ゴム工業協会では「特別セーフガード発動でまず被害を受けるのは、米国の消費者の利益だ。中国が輸出しているのはローエンドのタイヤ製品であり、米国が生産しているハイエンドの製品とは市場のカテゴリーが異なる。そのため米国の労働者に損害がおよぶこともない」と述べた。

中国製タイヤを扱うDel-Nat Tireの社長は、「米国メーカーは高利益の高品質品を狙い、中古車など向けの3級品を作らない。追加関税がかかると、打撃を受けるのは150ドルの米国品を買えずに50ドルの中国品を買っている米国の消費者である」としている。低所得消費者はタイヤを耐用年数を超えて使用している状況であるという。

全米タイヤ産業協会も7月にオバマ大統領にあてて公開の手紙を送り、「米国のタイヤ消費者の選択肢を狭め、高価な製品を押し付けることになる」と主張した。

アトランタ州に工場を持つ東洋ゴム工業も反対を表明、追加関税が導入されれば、米国で製造している上位品を補うために中国で生産している低コスト品の輸入が阻害されると主張している。

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2002年3月、アメリカは鉄鋼製品14品目に対して、適用期間3年間のセーフガードを発動した。

米国の輸入制限(セーフガード)措置の概要

これに対し、日本、EU、韓国、中国などがWTOに提訴し、大規模通商紛争に発展した。

2003年5月、WTO紛争処理小委員会(パネル)は、①セーフガード措置の発動要件である輸入増加の事実認定が不十分であること、②輸入増加と国内産業が被る損害の因果関係が十分に立証されていないこと等、日本やEUなどの主張をほぼ全面的に認めた最終報告を提示し、これにより、アメリカの鉄鋼輸入制限は「違法」であることが1審のパネル段階で確定した。

2003年12月4日、米国政府は、前年3月に発動した米国鉄鋼セーフガード措置を全面的に撤廃する旨の発表を行った。

大統領声明によれば、措置撤廃はあくまでも「セーフガード措置が所与の目的を達し、経済状況の変化の結果として」決定されたものであり、公式にはWTOによる協定違反の判断の結果とはなっていない。


* 総合目次、項目別目次
   http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。

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