2008年8月1日、中国の反壟断法(独占禁止法)が施行された。
合併・買収では以下の点を審査することとなっている。
・市場シェアや市場への支配力
市場独占の判断基準=1社で5割、2社で2/3、3社で3/4以上のシェア
・国民経済や消費者への影響
・国家安全への影響(外資の場合)
1年2ヶ月が経過し、合併審査の実例が溜まった。
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本年1月26日、Pfizer がWyeth を680億ドルで買収すると発表した。
2009/1/27 Pfizer、Wyeth を買収
中国商務部はこの買収の審査を行っていたが、9月29日の公告77号で、Pfizerの豚マイコプラズマ性肺炎ワクチン(RespisureとRespisure One)の中国本土の事業の売却を条件に買収を承認した。
この分野でのシェアが49.4% (Pfizer 38%, Wyeth 11.4%)となり、2位のIntervet の18.35%をはるかに上回る。その他は10%未満。また、新規参入も難しいとする。
「赫氏指数」(HHI:Herfindahl-Hirschman Index) が336の増加で2,182となり、集中度が高まり、競争を制限するとしている。
Pfizer によるWyeth買収については、独禁法当局による承認は米国とカナダのみが残っているが、間もなく承認される見込みで、Pfizerでは第4四半期初めにも買収が実現するとみている。
動物薬に関しては、他の国の審査でも問題になった。
このため、PfizerとWyethは9月21日、両社の動物薬事業の一部をBoehringer Ingelheimに売却する契約を締結した。
Wyethの動物薬事業のうち、牛や小動物のワクチンその他医薬品について、製品、Fort Dodge工場及び研究所、知的財産を売却する。
このほか、豪州の愛玩動物ワクチン、EUと南アの牛のワクチンなども売却する。
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米国の自動車部品メーカーDelphi(1999年にGM社から分離・独立)は2005年10月にChapter 11を申請した。
再生計画の一部として、GMが米国の4工場と世界中のステアリング事業とを買収する。条件として、GMは10億ドル以上の債務を引き受けるとともに、20億ドルの債権を放棄する。また17.5億ドルを投資する予定。
中国商務部は、GMによるDelphiの中国のステアリング事業買収に関して審査をしていたが、9月28日、条件付でこれを承認した。
条件には以下のものが含まれる。
・GMとDelphiが、Delphiの他の中国の需要家に関する情報を交換しないこと。
(GMによる秘密情報取得の防止)
・Delphiが他の中国の自動車メーカーに、差別なしに、部品を市価でタイムリーに供給を続けること。
商務部は競争上の懸念を2社と議論し、2社から解決案が出てきたとしている。
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このほか、既報の以下の例がある。
・ベルギーのビール会社 InBev によるAnheuser Busch 買収
2008年11月 条件付承認
2008/12/1 中国の独禁法、初の海外での合併ケース
・米コカ・コーラによる中国最大の果汁メーカー中国匯源果汁集団の買収
2009年3月18日、不認可
2009/3/24 中国、コカ・コーラの果汁大手買収を承認せず
・三菱レイヨンによるLucite International の買収
2009年4月24日、条件付で承認
付記
・パナソニックの三洋電機買収
本件は1カ月の初期審査の結果、実質審査に入り、8月14日、商務部が競争上の問題がある旨指摘
双方は協議を持ったが合意に至らず、審査の60日の延長。
その後、三度の双方協議を経て、ようやく問題解消措置について合意。
2009年11月5日、以下の条件付で承認。
問題は下記の3つの電池市場で、いずれについても関連地理的市場は世界市場とされた。(理由説明なし)
中国域外の工場の売却を条件としたのは本件が初めて。
1) 自動車用ニッケル水素電池 (合併で中国市場で77%のシェア)
パナソニックの茅ケ崎市の湘南工場の第三者への売却
付記
パナソニックは2011年2月1日、同工場のニッケル水素電池事業を中国の電池メーカー湖南科力遠新能源に売却すると発表した。特許を含む知的財産権を使用出来る契約。
受け皿会社に移管し、全株式を4千万元(約5億円)で売却する。トヨタとの合弁のパナソニックEVエナジーへの出資比率を40%から19.5%に引き下げ、取締役指名権ほかの放棄、JVの社名からの「パナソニック」の除外
付記 2010年6月にプライムアースEVエナジーと改称
2) コイン型リチウム二次電池(同上 62%のシェア)
三洋電機の鳥取県岩美町の鳥取工場の第三者への売却
付記 FDKに譲渡
3) ニッケル水素電池(同上 46%のシェア)
三洋電機の群馬県高崎市の高崎工場の第三者への売却
付記 FDKに譲渡
又は、三洋電機の蘇州市の工場か、パナソニックの無錫市の工場の売却
日本の公取委や米国、EUの当局からも同様の指摘を受けた。
パナソニックは2009年11月4日、公開買付け開始を発表したが、公正取引委員会その他海外の競争法当局による審査の過程で指摘を受けた競争法上の懸念を解消するため、以下の問題解消措置を講じるとしている。
① 車載用ニッケル水素電池 ・ パナソニックの車載用ニッケル水素電池に関する事業を第三者に譲渡する。 ・ パナソニックEVエナジーの行う車載用ニッケル水素電池に関する事業に対する影響力排除のため、
中国商務部との間で合意したものを実施する。② 円筒形リチウム一次電池及びコイン形リチウム二次電池 三洋の円筒形リチウム一次電池及びコイン形二次電池に関する事業並びにニカド電池用極板加工に関する事業の一部を、「三洋エナジー鳥取」に移し(その他の事業は三洋に移し)、全株式をFDK(富士通の連結子会社)に譲渡。
③ 民生用ニッケル水素電池
三洋の民生用ニッケル水素電池事業を「三洋エナジートワイセル」に移し(その他の事業は三洋に移し)、全株式をFDKに譲渡。
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