旭化成ファーマは12月24日、同社が開発したRho-kinase阻害剤ファスジル(Fasudil)のCoTherix社へのライセンス契約に関しての仲裁手続で、CoTherix社に対し、同社に約91百万米ドル(+金利)の支払いを命じる最終裁定が出たと発表した。
同社は2006年6月にCoTherix社に対してファスジルの開発・販売権を供与するライセンス契約を締結したが、2007年1月以降、CoTherix社がファスジルの開発を中止したため、同社は2007年10月にCoTherix社に対し、ライセンス契約の違反に基づく損害賠償を求め、国際商工会議所(ICC)の仲裁手続をカリフォルニアで開始していた。
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旭化成ファーマは2006年6月、CoTherixに対してファスジルの経口剤および吸入剤に関するライセンス契約を締結した。
北アメリカとヨーロッパで独占的に開発・販売する権利を供与した。
ファスジルは、新しい作用機序 (Rho-kinase 阻害作用)をもつ薬剤で、Rho-kinaseの機能についての解明が進むにつれて、多くの疾患に対してファスジルが効果を示すことが期待されている。
Rho-kinaseは、細胞内情報伝達に関与するリン酸化酵素で 、血管平滑筋の収縮・弛緩をコントロールする生体機能分子として、近年、注目を集めている。
血管平滑筋に存在するRho-kinaseが異常に活性化されると、血管平滑筋の収縮が亢進され、 その結果生じる血流障害により組織の機能異常が起こる。
同社は当時、ファスジルを注射剤として、国内で「くも膜下出血術後の脳血管攣縮及びこれに伴う脳虚血症状の改善」の適応症で販売しており、同疾患において広く使用されていた。また、注射剤については、国内で脳梗塞の治療薬としての開発を進めていた。
経口剤については、米国での狭心症を対象とした用量探索臨床試験が終了し、ファスジルの特徴が確認されており、また、その作用機序から肺高血圧症にも効果が期待されることもあり、当該治療領域に米国で経験のあるCoTherixにライセンスした。
ライセンス一時金は8.75百万米ドルで、以降開発のステージアップ等に応じて支払いを受けることとなっていた。
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CoTherixは2000年の設立で、2004年にNASDAQに上場、肺高血圧症薬Ventavisを2005年から販売していた。
CoTherixは、2007年1月にActelionに420百万ドルで買収され、同社の100%子会社となった。
Actelionは1997年12月、「血管内皮細胞に関連した疾患に対する革新的な新薬の創製と開発に注力する」という明確なビジョンの下、創始者チームによって設立された。
Actelionは、エンドセリン受容体拮抗薬の分野におけるリーディングカンパニーとして、長年実現しえなかった経口エンドセリン受容体拮抗薬を世界で初めて肺動脈性肺高血圧症の治療薬として製品化することに成功した。
CoTherixは2007年1月(Actelionによる買収完了当日)、旭化成に対しファスジルの開発を取り止めると通告、旭化成に返却した。
旭化成は2007年10月に契約違反として仲裁手続きを開始するとともに、2008年にカリフォルニア州裁判所に訴えていた。
裁判は引き続き行われている。
Actelionでは、この仲裁の結果と金額に驚き、失望していると述べた。
CoTherixでは、本件への対応を検討している。
独占契約の場合、勝手にやめられると技術供与側にとっては損害は大きい。
契約上の規定がどうなっているか、仲裁決定の理由がどうなっているのか、興味がある。
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日本でも同様の係争がある。
湧永製薬は1998年6月に、同社が創製したニューキノロン化合物(抗菌剤)の国内外の独占的な開発・製造・販売権を大日本製薬(その後合併し、大日本住友製薬)に供与するライセンス契約を締結した。
湧永製薬によると、大日本製薬は2002年5月になって突如開発を中止した
湧永はライセンス契約の定めに従って開発を履行するよう、再三にわたって求めたが、応じなかったため、ライセンス契約を解除した上で、2004年7月に損害額89億8300万円についての一部請求として50億円の損害賠償請求訴訟を提起した。
大日本製薬は、開発中止は化合物を適正に評価したうえで決定したものであり、ライセンス契約の解除は正当な権利行使であると主張した。
2007年3月に大阪地裁は、原告の請求の一部を認容し、大日本住友製薬に対して8億9,000万円の支払いを命じた。
大日本住友製薬は控訴し、大阪高裁は2009年3月、第一審判決を取り消し、湧永製薬の請求を棄却した。
これに対して湧永製薬は2009年4月、最高裁に上告し、現在争っている。
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http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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