タイ中央行政裁判所は9月29日、同国東部のRayong県Map Ta Phut地区で計画されている石油化学などの76事業について、違憲の訴えの最終判決を下すまで一時凍結するようタイ政府に命じた。
裁判が長引けば外国直接投資や雇用、経済全体への悪影響が避けられないと見られ、タイ政府は10月2日、凍結命令の取り消しを最高行政裁に求めた。
2009/10/7 タイの行政裁判所、ラヨンの76事業に凍結命令
これに対して、タイの最高行政裁判所は12月2日、76計画のうち11計画のみ、環境上の問題がないとして建設を認めた。
しかし、残り65計画(合計80億米ドルに達する)については政府指名の委員会による調査の間、凍結されることとなった。
(政府は最近、問題解決のため元首相を委員長とする委員会をつくった)
タイの外資1万社が加盟する外国商工会議所の会長は、「裁判所の判断は尊重するが、タイへの投資家の信頼を損なうことは確かだ」と述べた。「これらの計画の資金繰りがおかしくなる。政府が早期に解決して欲しい」としている。
2007年発効のタイの現行憲法は地域の環境・健康に被害を与える恐れがある事業活動について、
▽環境・健康アセスメントの実施
▽公聴会の開催
▽ 環境・健康アセスメントを行う独立機関の設置――を義務付けている。
同地区の住民と環境保護団体がPTTなどの事業が憲法の要件を満たしていないとして行政裁に建設中止を求めていた。
2007年の憲法改正で、従来の環境影響アセスメント(EIA)に加え、健康影響アセスメント(HIA)と公聴会が必要とされるようになった。
しかし、政府がHIAを見る独立機関を設置していないため、HIAは実施していない。
この地域の環境整備を13年にわたり政府に求めていた環境グループは、この間工場からの公害で2000人が癌で死んでいるとしている。(但し医者は因果関係を認めていない)
事業継続を認められた事業には以下のものがある。
・Aditya Birla Chemicals (インド)
・PTT Aromatics and Refining
・Star Petroleum Refining (Chevron/PTT JV)
・Indorama Petrochem(タイ)
Siam Cementの20のプロジェクトのうち、18プロジェクトが凍結となった。PTTも24計画のほとんどが凍結となった。
凍結となったものには、PTTの780百万ドルのガス分離プラント、PTT Chemical のPE増設、Siam Cement のオレフィン増設などが含まれる。
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付記
その後、タイ政府は環境・健康影響評価や周辺住民への公聴会、独立機関による承認など手続きを決めた。
「環境に影響を与えかねない事業」のリストも作成し、11事業を審査の対象とすることを閣議決定した。
8月31日に公布されたタイ天然資源・環境省通達で環境アセスメントが必要と規定された11業種は
(1)海の埋め立て(48ヘクタール以上)
(2)鉱山
(3)工業団地、工業用地開発
(4)石油化学の上流・中流事業
(5)精錬、鍛造
(6)放射性物質の製造、廃棄
(7)廃棄物処理
(8)空港(滑走路3000メートル以上)
(9)港湾
(10)ダム、貯水池(貯水量1億立方メートル以上、もしくは面積15平方キロ以上)
(11)発電所
で、リスト内に各業種で環境アセスメントが必要となる事業の内容、規模などが規定されている。
中央行政裁は2010年9月2日、一連の施策により「違憲」状態は解消されたとして、「11事業以外は再開可能」との判断を示した。
Map Ta Phut 地区で凍結されていた76件のうち、日系企業8件を含む74件が再開を認められる。
新日本製鉄や住友商事ら日本側71.5%、タイ側28.5%出資のブリキメーカー、Siam Tinplateは9月16日、操業再開許可を受け取った。
環境に悪影響があるとして凍結が継続されるのは次の2件。
・PTT Chemical Plcの子会社TOC Glycol Co.のethylene oxide、ethylene glycol 計画
・Siam Cement GroupのThai Plastic & Chemical Plc のVCM計画
PTTCH自身のHDPE(50,000t)、子会社Bangkok Polyethylene のHDPE(250,000t)、JVのエタノールアミン(50,000t)は操業が認められた。
今後、2件は新たに設けられた環境面の審査に進む。
PTT Chemical とSiam Cement は、凍結された2事業は政府の「環境に影響を与えかねない事業」には属しておらず、年内には再開できるだろうとしている。
マプタプット工業団地で9月6日、政府が規定した「有害産業活動11業種」に反発するNGOと地域住民がリストの見直しを要求、対応によっては工業団地への妨害活動に踏み切ると発表した。
アナン元首相は、「プロジェクト再開で公害問題が悪化した場合、政府は被害の全責任を負うべき」と訴えている。
大手環境団体でも、「NGOや有識者の意見を聞くこともなく、公聴会も実施されずに規定されたリストには納得がいかない。住民との摩擦が悪化するばかり」とし、アピシット首相にリストの早急な見直しと差し替えを求める意向だ。
政府がこれらの要求を無視した場合、NGOや地域住民側では9月30日に抗議活動を実施するとしている。
* 総合目次、項目別目次
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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