住友化学は2009年12月29日、豪州農薬会社 Nufarm Limited の発行済み株式の20%の取得ならびに同社と農薬事業の包括的な事業提携を行う方向で、基本的な枠組みを定めた覚書を締結したと発表した。
今後さらに協議を進め、最終的にはNufarmの株主総会での承認を経て、4月にTOBを通じ株式を取得し、筆頭株主となる。
1株14豪ドルで総額500億円程度となる。
TOB完了後、住友化学は取締役1名を派遣する。
豪州紙報道では、住友化学では既に豪州のForeign Investment Review Boardの承認を得ている。
まず販売と製品の2分野で協力する。
販売面では、住友化学が日本などアジアを中心に持つ販売拠点と、Nufarmの中・東欧、南米など25カ国にある拠点をお互いに活用。
製品面では、住友化学が主力とする果樹や野菜に使う殺虫剤と、Nufarmが強い除草剤を供給しあう。
住友化学は、現時点で工場の再編などは想定していないとしている。
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Nufarm Limitedは1957年設立の、メルボルンに本社を置く農薬会社で、豪州、ニュージーランド、アジア、欧州、南北アメリカに工場と営業拠点を持ち、従業員は 3,155 人 。
特許切れ農薬ではイスラエルのMakhteshim Agan Industries に次ぐ世界第二位。
同社の決算は以下の通り。(百万豪ドル)
09/7月期 | 08/7月期 | 増減 | |
売上高 | 2,677 | 2,492 | 185 |
営業損益 | 151 | 309 | -157 |
当期損益 | 81 | 138 | -58 |
地域別実績
09/7月期 | 08/7月期 | |||
売上高 | 営業損益 | 売上高 | 営業損益 | |
Australasia | 850 | 118 | 875 | 148 |
Europe | 637 | 101 | 555 | 56 |
North America | 775 | 8 | 631 | 84 |
South America | 415 | -41 | 431 | 59 |
全社 | -35 | -39 | ||
合計 | 2,677 | 151 | 2,492 | 309 |
09/7月期 品目別売上高比率
除草剤 | Glyphosate | 31% | Monsanto “Roundup” |
Phenoxies | 21% | Akzo | |
その他 | 20% | ||
殺虫剤 | 8% | ||
殺菌剤 | 7% | ||
その他 | 13% | PGR(植物成長調整剤)、機能性展着剤、 種子処理、種子、散布機、その他 |
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Nufarmは2007年11月5日、中国化工集団公司 (ChemChina)、Blackstone Group 及び Fox Paine Management III, LLC からの買収提案を受け入れた。買収額は30億豪ドル。
しかしながら、コンソーシアムは交渉期限の同年12月10日までに正式提案をすることが出来ないと通知し、その結果、交渉は打ち切られた。
グローバルな信用収縮により、有利な借入ができなくなったのが理由とみられている。
2007/12/15 ChemChina 等の豪州の農薬会社Nufarm 買収交渉、破談
2009年9月27日、中国中化集団公司(Sinochem)は9月28日、1株13豪ドル、合計28億豪ドルでNufarmを買収する非拘束契約を締結した。
Sinochem はエネルギー、農業資材、化学品、ファイナンス、不動産をコア事業として展開する国営企業で、農業資材では肥料、農薬、種子を扱う中国最大の企業である。
この買収はこの分野での研究開発、製造、販売、サービスのチェーンのグローバル企業になるというSinochemの戦略に合うものである。
2009/10/6 Sinochem、豪州農薬会社Nufarmを買収へ
しかし、Nufarmは12月21日、Sinochemが上記の非拘束契約を締結できないとし、1株12豪ドルでの買収を再提案したことを認めた。Nufarmの取締役会はこれを慎重に審議し、この再提案を受けるのは株主の利益にとり最善とはいえないと判断した。
判断理由は以下の通り。
・今回の12豪ドルは当初提案の13豪ドルと比べ非常に安い。
・Sinochem提案は多くの条件付きで、いくつかは受け入れがたいもの。
・Sinochem提案は中国と豪州当局の承認を要する。
・Nufarm取締役会は自社の事業と今後の成長に自信を持っている。
・住友化学からの有利な提案がある。
Nufarm 会長は、住友の提案はNufarmの企業価値を正しく評価したものであり、同社との提携は長期的に利益を生むとしている。
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日本経済新聞によれば世界の主要農薬企業の2007年の農薬売上高は以下の通り(単位:100万米ドル)
世界の主要農薬企業の農薬売上高(100万米ドル) | ||||||||||||||||||||
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このうち、NufarmとMakhteshim Agan は主として特許切れ農薬を扱う。
Syngentaは2000年にNovartis の農薬事業と(旧ICIのAstraZenecaの)Zeneca Agroが合併してできた。
住友化学は原体販売が中心のため、売上高が少ない。
Arysta LifeScience はトーメンとニチメンの農業化学品事業、および医薬・動物薬関連事業を統合したもので、2001年10月に設立された。
2002年9月に、アジアで活動する米系ファンドのOlympus Capital が出資、その後段階的に出資比率を上げ、2006年12月に(トーメンが合併した)豊田通商の持株を、2007年6月にニチメンの持株を買収し、100%株主となった。
2008年に欧州最大の買収ファンド、英Permira がOlympus Capital から全株を買収した。
2007/10/26 欧州最大買収ファンドのペルミラ、農薬大手アリスタ買収
目次、項目別目次
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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