水俣病の原因企業チッソが、水俣病被害者救済特別措置法に盛り込まれた同社の分社化について「10月1日を目標に社内の体制を整える」との方針を示したことが分かった。
後藤舜吉会長が、社内報「オールチッソ」の年頭所感で明らかにした。各紙報道によれば要旨は次の通り。
今年は待望久しい分社化元年。会社は水俣病特別措置法に従い、およそ3年で水俣病の最終解決を図ると同時に、分社化で一挙に再生を果たす方針だ。今年はその第1段階。現チッソの事業をすべて引き継ぐ100%子会社(新チッソ)の設立と営業開始を実現する。
チッソ史上、戦後の企業再建整備法に基づく新日本窒素肥料の発足(1950年)に匹敵する画期的な出来事。
環境省が立案中の救済措置方針が決定すれば、すぐ分社化の手続きに入る。営業開始は10月1日を目標に体制を整える。
新チッソは水俣病の債務は負わない。約500億円の純資産を持ち、連結経常利益の現状約200億円がほとんどそのまま最終利益となる。
* 最近の業績は以下の通り(億円)
売上高 営業損益 経常損益 当期損益 水俣病
補償損失公害防止
事業費
負担08/3 2697 208 202 108 -40 -8 09/3 2492 152 103 30 -37 -8 09/9中 1171 106 65 17 -18 - そのため信用が格段に向上し、取引活性化や人材確保に役立つ。水俣病の桎梏から解放されることで経営は安定し、社員のモラールも向上すると期待する。
分社化はすべての関係者に有益。認定患者の補償金は常に最優先で確保する。今回の救済対象者も新チッソの上場による原資で、はじめて一時金受給が可能となる。地域経済の安定・向上がもたらされ、国、県にとっては公的融資の早期回収が可能となる。3年後を見据え、収益力の最大化に取り組まねばならない。新会社上場でチッソ再生は一応果たされるが、将来の患者補償金積み立てに加え、公的負債や金融支援負債の返済まで責任を完遂しなくては真の自立・再生とは言えないからだ。自立後の新チッソは、資本市場などの新しい世界に入っていける。
必ずや関係者全員が分社化して良かったと思う日が来ると確信している。
チッソの事業部門を100%子会社化して上場・独立させ、現在のチッソは補償部門だけを担う親会社とする内容。
上場後の株式売却益で約1500億円の公的債務と約400億円の金融機関に対する債務に加え、将来も続く患者補償を担う。
親会社は当面、子会社の株式配当益で補償業務を担い、3年後をめどに株式を他者に全面譲渡、譲渡益を熊本県に納付して補償業務を委ね、清算するとしている。
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水俣病の未認定患者を救済するための特別措置法案は2009年7月3日の衆院本会議で、自民、公明、民主、国民新の各党の賛成多数で可決され、8日午前の参院本会議で与党や民主党などの賛成多数で可決、成立した。
最終解決に向けた取組は以下の通りとなった。
公害健康被害補償法:地域指定継続
チッソ分社化:
「チッソが一時金支払いに同意するまで凍結」の条件を加え、容認
(それまでは、環境相が分社化の前提となる事業再編計画を認可しない)2009/7/3 水俣病救済法案、衆院を通過、来週成立の見通し
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チッソの分社化は、同社を患者補償会社(親会社)と事業会社(子会社)に分け、子会社の株式売却益を被害者の補償にあてた上で親会社は将来清算することとなっているが、同法に基づく救済策は関係者間で協議中で、まだ合意には至っていない。
法に基づく救済措置の内容が決まる前にチッソが分社化に向けた準備日程を示したことに、一斉に反発、不快感をあらわにした。
水俣病患者連合(水俣市):「犯した罪の重さを理解していない。被害者の救済策が決まっていない中、『これで無罪放免』みたいなことを言っている。あきれてものが言えない」。
水俣病被害者芦北の会(津奈木町):「チッソは加害企業として、最後まで責任を果たすべきだ」
水俣病出水の会:「せっかく救済実現に向けて進んでいるのに、チッソはもっと謙虚であるべきだ」
水俣病不知火患者会(水俣市):「加害企業なのに許せない」
チッソ総務部は以下の通り述べている。
水俣病特別措置法に基づく救済策が整った後は、分社化で企業価値を高めることが当社の大命題。
企業価値を高めることで、次の段階である株式譲渡の際に患者補償や一時金支払い、公的債務返済のための原資を確保できる。
10月1日という数字は、日程上は厳しいが、分社化の時期を先延ばしすれば、その分、企業価値が下がる。目標を早く設定し、意気込みを示したも のだ。
水俣病被害者の救済問題では、特措法に基づく救済措置方針の策定作業やチッソと国、熊本県を相手に損害賠償請求訴訟を続ける団体との和解協議へ向けた動きが大詰めを迎えている。
小沢鋭仁環境相は1月5日の年初の閣議後会見で、同省が今年取り組む重要課題として、地球温暖化対策基本法案や生物多様性条約第10回締約国会議と並び、水俣病未認定患者の救済問題を挙げた。
未認定患者救済で、同省は昨年12月、水俣病特別措置法に基づく救済措置方針の土台となる案を公表。
小沢環境相は「救済手続きの開始目標にしている5月1日を念頭に作業していかないといけない」と述べたが、また「裁判も同時並行で行われており、バランスを考えながらやっていきたい」と、被害者団体の受け止めを見ながら作業を進める考えを示した。
今回の表明内容を読んだ小沢鋭仁環境相が激怒し、後藤会長の真意をただすよう小林次官に指示した。
小林光事務次官は、「分社化ありきの印象を生み、被害者の気持ちを逆なでする」と不快感を伝えた。
後藤会長は、「水俣病の桎梏から解放される」との表現については「関係者が解決に向け努力している時期だけに、言葉には注意を払うべきだった」と陳謝した。
しかし、10月1日の分社化目標については「分社化はいいことなので、できるだけ早く進めたい。社内体制を整える意味で、考え得る最も早い時期を言っている」と実現への意欲を伝えたという。
小林次官らは後藤会長に対し「法律は救済のためにあり、分社化のためにあるのではない」と伝えた。
目次、項目別目次
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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