米司法省は1月15日、農薬メーカー Monsantoを独禁法違反で正式に調査を開始した。
同社のドル箱のRoundup Ready大豆を巡るビジネス慣行について情報を求めた。
Monsanto では、主として、第一世代のRoundup Ready大豆の特許が2014年に切れた後も、農家や種子会社はこれを使用できるとした同社の発表の確認を求められていると述べた。
同社では、これまでと同様に調査に積極的に協力するとしている。
Roundup ReadyはMonsantoが開発したRoundup除草剤耐性の農作物の総称。
開発された農作物にはダイズ、トウモロコシ、ナタネ、ワタ、テンサイなどがある。Roundup除草剤は1970年にMonsantoが開発した除草剤グリホサート(glyphosate) の商品名で、世界中で使用されている。
Roundup ReadyはRoundup除草剤を散布しても枯れず、雑草だけが除かれる。
米国の大豆の90%がこれを使っている。
このRoundup Ready大豆の特許が2014年に切れる。Monsantoでは特許が有効な第二世代のRoundup Ready種子に切り替えさせようとしている。
これに対して需要家の間で不満が広がったため、2009年12月、Monsantoは特許切れ後も農家が種子を使用するのを妨げないと発表した。2015年からは農家は前年収穫したものを種子として使えるし、種子会社はロイヤリティ無しで生産できるとしている。
大豆種子の価格は1996年以来、4倍に上がっており、農家やライセンスを受けた種子会社の間で不満が出ている。
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農務省と司法省は2009年8月、種子を含む農業事業における事業慣行を調査すると発表した。司法省はMonsantoに加え、DuPont とスイスのSyngenta にもコンタクトしている。
Monsantoではホームページで同社の立場を説明している。Innovation and the Competitive Seed Market
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Monsantoの業界での力が強いため、これまでも独禁法上で問題となっている。
同社は1998年にDelta And Pine Land Companyを18億ドルで買収することで合意した。
Delta And Pine Land は米国第1位の棉種子会社であり、司法省による独禁法の審査が大幅に遅れ、1999年12月に買収を断念した。
Monsantoは2006年8月、Delta And Pine Land を現金15億ドルで買収することで再度合意した。
2007年5月、同社は司法省との間で、Delta And Pine Land買収について合意、米国の棉種子事業を含む設備の売却を条件に買収が認められた。
同社はStoneville® 種子事業と設備をBayer CropScience に、NexGen™ 種子事業と設備をAmericot に売却した。
なお、Delta And Pine Land はターミネーター技術(種子を死滅させる毒性タンパクを作る遺伝子を組み込み、2回目の発芽の際には種子が死滅する技術)を保有している。
最初の買収の際、ターミネータ技術に関する大きな反対が起こったため、当時のCEO Robert B. Shapiroは、同社は不妊種子技術の商業化は行わないと公に約束した。
Open Letter From Monsanto CEO Robert B. Shapiro dated October 4, 1999
I am writing to let you know that we are making a public commitment not to commercialize sterile seed technologies, such as the one dubbed "Terminator."
--- we think it is important to respond to those concerns at this time by making clear our commitment not to commercialize gene protection systems that render seed sterile.
しかし二度目の買収に際して、Monsantoの報道官は「種子を不妊とする技術を使用するつもりはなく、”食料作物に対しては不妊種子技術を商業化しない”という2005年の公約に立っている」と公約を修正、非食料作物には使用することを示唆した。
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Monsantoは2009年5月、DuPont子会社のPioneer Hi-Bred International が2002年のライセンス契約に違反して、Roundup Ready 大豆とDuPont のGAT農薬耐性大豆をセットにしているとして訴えた。
PioneerはRoundup Ready販売の権利を持つが、DuPont のGATに置き換えるとしていた。
しかし、GATだけでは問題があることを認めており、Roundup Readyとセットにして販売した。
これに対してDuPont は翌6月、両種子技術をセットにする(stacking)はライセンス契約の範囲内であると主張、更に、Monsanto特許は無効であり、Monsantoは特許を不当に使って、コーンと大豆の市場を支配しているとして訴訟を起こした。
「Monsantoの訴訟は競合製品の使用を制限する戦術の一つである。農家は多くの技術の中から最適のものを使うことを望んでおり、その権利がある。
両種子のセットは生産性や多種の雑草防止などの点で市場の他の製品よりも優れている。
Monsantoが課している非競合制限なしで、最もよい組み合わせを行うのが生産者にも消費者にも役に立つ。」
Monsanto は2009年10月、ライバルのDuPont が行った独禁法上の問題指摘に基づき司法省から質問を受けていることを明らかにした。
米地裁は1月16日、Monsantoによる訴えに対し判事は、両社の契約には両種子をstackingするのを禁止するという書かれていない(黙示の)条項があると認めた。この決定は紙一重のもの("narrow")であるとし、DuPont による反訴の独禁法問題や特許無効問題には影響がなく、これらは引き続き審理を行うとした。
DuPontでは、裁判は始まったばかりで、更に証拠を集め、農家に対して最も生産性の高い、最新の種子を供給する権利があることを示していくとしている。
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独禁法とは関係ないが、Roundup Readyのアルファルファ種子について、米最高裁は1月15日、下級審の販売禁止命令を再検討することを明らかにした。
2007年5月、サンフランシスコ連邦地裁が米国全土でRoundup Readyアルファルファの栽培を禁止した。
米国農務省(USDA)がこれが有機アルファルファや通常のアルファルファを汚染する可能性に関する適切な研究をしなかったと指摘し、商業栽培許可前には、他花受粉の可能性などを含む完全な環境影響研究を行うことを命じた。
2008年9月、米国第9巡回区控訴裁判所は完全な環境影響評価書が出るまでの禁止を確認した。GMアルファルファの栽培が、有機及び通常品種に対する取り返すことができないかもしれない損害、環境に対する損害、そして農業者に対する経済的損害をもたらす可能性があると裁定した。
最高裁はMonsantoの上告を受けて審議を決めた。
目次、項目別目次
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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