「競争法コンプライアンス体制に関する研究会報告書」

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経済産業省は1月29日、「競争法コンプライアンス体制に関する研究会報告書 ~国際的な競争法執行強化を踏まえた企業・事業者団体のカルテルに係る対応策~」を公表した。

報告書概要  報告書本文

企業活動がグローバル化する一方、欧米等の各国競争法の執行強化が図られている。

経済産業省では、そのような状況を踏まえ、我が国企業及び事業者団体が競争法コンプライアンス体制を整備するにあたって、参考とし得る具体的な取組及び事例を提示するため、「競争法コンプライアンス体制に関する研究会」(座長:根岸哲甲南大学法科大学院教授)を計4回にわたり開催し、これを取りまとめた。

報告書のポイントは以下の通り。

我が国企業が競争法コンプライアンス体制を整備するに当たっては、「違反行為をしない」ことはもちろんのこと、「違反行為をしたと疑われる状況をできるだけ減らす」ことを念頭に置き、特に、以下の取組をすることが重要であると考えられる。

 ①事業者団体活動を含む、競合他社との接触に関するルールの策定・実施
 ②統計情報の提供・利用に関するルールの策定・実施
 ③役職員に対する、競争法違反の危機感を持たせるような研修の実施

また、我が国事業者団体においては、競合他社同士が接触する機会を提供していることから、競争法上のリスクが少なからず存在することを認識した上で、特に以下の取組を行うことが重要であると考えられる。

 ①会合の運営に関するルールの策定・実施
 ②統計情報の収集・管理・提供に関するルールの策定・実施

ーーー

欧米等の各国競争法の執行強化の例として、EUと米国の制裁金事件の上位を挙げている。

欧州委員会が課した制裁金額事件別上位10 件(~09年12月)

順位 事件 制裁金額
(億ユーロ)
企業別順位  億ユーロ
1位 自動車ガラスカルテル事件(2008年)
 ※旭硝子及び日本板硝子現地法人が対象
 他に、
板ガラスカルテル
  13.8 ③Saint-Gobain(仏)  9.0
⑨Pilkington(英)     3.7
 (日本板硝子現地法人)
2位 天然ガス輸入カルテル事件(2009年)   11.1 ④E.on(独)/GDF-Suez(仏) 各社5.5
3位 インテル(米)支配的地位の濫用(2009年)   10.6 ①インテル(米) 10.6
4位 エレベータカルテル事件(2007年)
 ※三菱エレベータ現地法人が対象
   9.9 ⑥ティッセンクルップ(独)4.8
5位 マイクロソフト(米)
 規制当局処分(2004 年3月)の不遵守(2回目)(2009年)
   9.0 ②マイクロソフト(米) 9.0
6位 ビタミンカルテル事件(2001年)
 ※武田薬品工業、第一製薬、エーザイが対象
   7.9 ⑦ロシュ(スイス) 4.6
7位 ガス絶縁開閉設備カルテル事件(2007年)
 ※三菱電機、東芝、日立、富士電気、
   日本AEパワーシステムズが対象
   7.5 ⑧シーメンス(独) 4.0
8位 ろうそくカルテル(パラフィンワックス)事件(2008年)    6.8 ⑩Sasol(独)(南アフリカ) 3.2
9位 合成ゴムカルテル事件(2006年)    5.2  
10位 マイクロソフト(米)
 支配的地位の濫用(2004年)
   5.0 ⑤マイクロソフト(米) 5.0

日本企業順位

1位 YKK(ファスナーカルテル)(2007年)  1.5億ユーロ
2位 三菱電機(ガス絶縁開閉設備カルテル)(2007年)  1.2
3位 旭硝子(自動車用ガラスカルテル)(2008年)  1.1
4位 東芝(ガス絶縁開閉設備カルテル)(2007年)  0.9
5位 旭硝子(建築用板ガラスカルテル)(2007年)  0.7

(出所)欧州委員会ホームページ掲載情報に基づき経済産業省作成。

参考
<p><p><p><p><p>HTML clipboard</p></p></p></p></p>ビタミンカルテル事件(当初は855.2百万ユーロ、2社減額)
 Hoffman-La Roche  462百万ユーロ
 
BASF  296.16→236.8
 Aventis 5.04
 Solvay Pharmaceuticals 9.1
 Merck 9.24
 武田薬品工業 37.05
 エーザイ  13.23
 第一工業製薬  23.4→18

米国でリジンカルテルを契機に摘発された。

ーーー

米司法省が科したカルテル罰金額世界企業上位10件(~09年10月)

順位 企業 罰金額
(億ドル)
日本企業
1位 ロシュ(スイス)(ビタミンカルテル)(1999年)   5.0 ⑤武田薬品工業(1999年) 0.7億ドル
2位 LGディスプレイ(韓)(液晶パネルカルテル)(2009年)   4.0 ②シャープ(2009年)  1.2
3位 エールフランス(仏)KLMロイヤル・ダッチ航空(蘭)
 (航空貨物カルテル)(2008年)
  3.5 ③日本航空(2008年) 1.1
4位 大韓航空(韓)(航空旅客・貨物カルテル)(2007年)   3.0
5位 英国航空(英)(航空旅客・貨物カルテル)(2007年)   3.0
6位 サムスン・エレクトロニクス、サムスン・セミコンダクター(韓)
(DRAM カルテル)(2006年)
  3.0 ④エルピーダメモリ(2006年) 0.8
7位 BASF(独)(ビタミンカルテル)(1999年)   2.3
8位 ハイニックス・セミコンダクター(韓)
 (DRAM カルテル)(2005年)
  1.9
9位 インフォネン・テクノロジー(独)
 (DRAM カルテル)(2004年)
  1.6
10 位 SGLカーボン(独)(黒鉛電極カルテル)(1999年)   1.4 ①三菱商事(2001年) 1.3

(出所)司法省ホームページ掲載情報に基づき経済産業省作成。

参考
ビタミンカルテル

リジンカルテルを契機に摘発された。クエン酸カルテルに関するHoffman-LaRocheなどの調査でビタミンカルテルの存在が分かった。

米・スイス・独・日・加の計11社に総額9億1050万ドルの罰金
 武田薬品  72
万ドル
 エーザイ  40
万ドル
 第一工業製薬 25
万ドル
 Roche 500百万ドル 2008年時点で史上最高
 BASF 225百万ドル
 
Merck 14百万ドル
 
Degussa-Huls 13百万ドル
 
Lonza 10.5百万ドル

武田薬品は司法取引で調味料カルテル(味の素)についても供述し、調味料カルテルについて免責されるとともに、ビタミンカルテルでは法人に対する罰金のみとなった。

<p><p><p><p><p>HTML clipboard</p></p></p></p></p>EUや米国では多額の罰金を科せられたが、これに対して日本の公取委は、2001年4月に独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)と同第6条(特定の国際協定・契約の禁止)違反の疑いで第一製薬とエーザイに警告を出しただけ。

ーーー

黒鉛電極カルテル 

これも<p><p><p><p><p>HTML clipboard</p></p></p></p></p>リジンカルテルを契機に摘発された。

まず、直接参加社に罰金が課せられた。
 
SGL Carbon AG (Germany) 135百万ドル
  UCAR International Inc. (USA) 110百万ドル
  昭和電工 29百万ドル→32.5百万ドル(裁判官が独自の算式で修正)
 
 東海カーボン 6百万ドル
 
SEC カーボン 4.8百万ドル
 
 日本カーボン 2.5百万ドル
 
Carbide Graphite Group(米) 調査協力で免責

その後、三菱商事に134百万ドルの罰金が課せられた。

当時
50%を出資していた米電極メーカーのUCAR International
から相談を受けたり、会合の場所をつくったりして談合を手助けしたり、昭電、東海、SECの製品をカルテルで決まった価格で販売したとされる。
  http://www.justice.gov/atr/public/press_releases/2001/8186.htm

三菱商事は控訴して争えば裁判が長引き、さらに罰金の金額が膨らむ恐れもあることなどから、支払いに合意した。

このほか、韓国と中国の執行状況の説明もある。

ーーー

問題は罰金額が大きいだけでない。

<p><p><p><p><p>HTML clipboard</p></p></p></p></p>

<p><p>HTML clipboard</p></p>米国の場合、個人に対しても長期の禁固刑と多額の罰金が科せられる。
(日本企業で個人の罰金を会社が負担していたとして問題になったことがある)

上記報告書では、外国人も含めて、違反行為者に対する禁固刑の期間が長期化する傾向にあるとしている。   

米国で外国人に科された禁固刑の平均期間
      2000年~2005年は3年から4.6年
      2006年は6.9年
      2007年は12年にアップ。

マリーンホースカルテルではブリヂストン社員が有罪を認め、2年の禁固刑と8万ドルの罰金を科せられた。

    2008/12/12 マリンホース国際カルテル事件で日本人に有罪判決 

日本人ではダイセルの若い担当者が防カビ剤のソルビン酸価格カルテルで3ヶ月の禁固刑に服したのに次ぐ2人目。

リジンカルテルでは情報提供の代償として、味の素と協和発酵の役員各1名が罰金を払っただけであったが、その後、罰則が強化され、ほとんどの事件で個人が起訴されている。

これまで日本人が2人だけなのは、摘発時点で米国におらず、逮捕されなかったためである。
1980年の日米犯罪人引渡条約では、両国でいずれも処罰の対象となり、両国の法律で死刑、無期懲役、1年以上の拘禁刑に当たる罪の場合は引渡しが可能となっているが、独禁法違反の場合には日本政府は該当せずとし、引渡しは行われない。

但し、米国法では時効の中断状態で、将来、米国に入国すれば逮捕される。米国でなくても、国によっては引渡条約により米国に引き渡される可能性がある。
起訴されている某氏によると、弁護士から「米国(サイパンやグアムも)と英連邦には絶対行くな、香港や中国などもどうなるか分からない」と言われたと。

マリーンカルテルの場合、現地で逮捕されたもの。

ダイセルの場合は若い担当者のため、海外へ行かない訳にはいかず、自ら渡米し、刑に服した。

米国司法省は、独禁法を有効に施行するという司法省の能力を示すものとして、「日本人で最初に服役」と誇らしげにこれを発表している。http://www.usdoj.gov/opa/pr/2004/August/04_at_543.htm

通常は役員が対象で、若い担当者が起訴されることはないが、この場合はチッソ(免責)が詳細な資料を提出し、それにより本人がカルテル実務を取り仕切っていたと判断されたといわれている。

ーーー-

米国、EU、その他諸国の最近の動きについては、公取委ホームページに記載がある。
  http://www.jftc.go.jp/kokusai/kakougoki.html


目次、項目別目次
    
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


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