大西洋クロマグロが輸出入禁止?

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ワシントン条約締約国会議が3月13日から中東のカタールで開催されるが、大西洋クロマグロ(bluefin tuna)が「絶滅の恐れがある種」に指定され輸出入が禁止される可能性が高まっている。

モナコは2009年10月、大西洋と地中海のクロマグロを、商業目的の輸出入を禁止するワシントン条約の「付属書1」の対象種とするよう、ワシントン条約事務局に正式提案した。

「付属書1」の対象種は、絶滅のおそれのある種であって取引による影響を受けており又は受けることのあるものとなっており、これらの種の取引は、これらの種の存続を更に脅かすことのないよう特に厳重に規制するものとし、取引が認められるのは、例外的な場合に限られる。

但し、モナコの提案では、EU内の取引は国際取引ではなく、EU内での売買のための漁獲は認めるとなっている。

マグロの資源保護は、これまで「大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)」など5つの地域漁業管理機関が漁獲枠を定めるなどして対応してきた。

マグロ類の保存管理に関する国際的な枠組み
  大西洋:大西洋 まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)
  東部太平洋:全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)
  インド洋:インド洋まぐろ類委員会(IOTC)
  南半球水域:みなみまぐろ保存委員会(CCSBT)
  地中海:地中海漁業一般委員会(GFCM)

なお、中西部太平洋でのマグロについて中西部太平洋まぐろ類条約(WCPFC)があり、日本も締結している。

だが、1970年に25万匹いたとされる大西洋クロマグロの親魚は、近年は10万匹まで減少したと推定され、「漁業管理だけでは絶滅を防げない」との批判が拡大している。

大西洋・地中海クロマグロの現在の漁獲枠のうち80%を日本が消費している。

ICCATの科学者が、地中海及び大西洋東部での総漁獲可能量は8,500トン~15,000トンで、5月~7月の繁殖期には休漁すべきであるとした。

しかし、ICCAT加盟国は2008年11月、 2009年に22,000トン、2010年に19,950トンの漁獲を認め、しかも51日から6月20日までの漁獲も認められた。

但し、輸出入禁止の動きから、昨年11月のICCAT総会では日本などからの提案で、2010年の東大西洋・地中海のクロマグロの漁獲可能量を前年に決めた19,950トンから13,500トンに下げることで合意している。
これは2009年の22,000トンから40%カットとなる。

これに対し、グリーンピースでは、ICCAT科学委員会も必要性を認めていた大西洋クロマグロの休漁の呼びかけを聞き入れなかったと批判している。

モナコ元首のアルベール2世公(Albert 、父はRainier 、母はGrace Kelly)は2005年7月に即位して以来環境保護を国政の重要テーマの一つに位置付けている。

彼は2009年6月5日のWall Street Journal に英紙記者と連名でクロマグロの保護を訴える意見を投稿した。米国に協力を求めている。

It's Not Too Late to Save the Tuna
 The U.S. should step forward to stop exploitation of the seas
 http://online.wsj.com/article/SB124416336079787523.html

このなかで、クロマグロは絶滅の危険にあるが、東大西洋と地中海の漁民は科学者が推奨する数の2倍を獲り続けているとし、これはICCATの大きな失敗であり、地中海で稚魚をごっそり獲ってイケスで育てる蓄養システムの拡大を規制せず、また、漁獲割当を高めに設定し、飛行機で追跡してモダンなハイテク機器を使用する違法漁業での獲り放題を黙認してきたと批判している。

(注)蓄養の場合、稚魚をそのままイケスに入れるため、捕獲数が確認できず、国別の捕獲数よりも輸出数が多いケースがある。

イケスは狭いので運動量は少なくなり、身も柔らかくなる。さらに、エサ(イカ・イワシ・サバ)を大量に与えると、天然モノでは約1~2割しかないトロの部分を約2~4割増やすと言われている。

このため、日本の商社などの主導で始まった。

EUでは2009年9月にスペイン、フランス、イタリア、ギリシャ、キプロス、マルタの地中海沿岸6カ国が禁止に反対し、欧州委提案は拒否された
だが、
最近になってクロマグロ漁業国のフランス、イタリア、スペイン、ギリシャなどが相次いで禁止支持に回った。

フランスは2月に方針転換を表明した。漁業者との補償交渉のため完全禁止まで18カ月の猶予を設けることを提案した。

イタリアも1月末に、過剰に捕獲してしまう巻き網によるクロマグロ漁を今年は全面禁止すると発表した。
同国は大量のクロマグロ在庫を抱え、卸売価格は2年前の半額にまで下がっており、漁を続けるうまみがなくなった。

EUの欧州委員会は3月22日、2011年夏からの大西洋クロマグロの商業漁業禁止を提案すると発表、大西洋・地中海のクロマグロの禁輸を支持するよう加盟27か国に提案した。

これに対し、日本の農林水産省は各国に「漁業管理はワシントン条約ではなく、従来通りICCATで行うべきだ」との日本の主張を伝え、同調を呼びかけている。

農水政務官は2月22日、ワシントン条約締約国会議でクロマグロの輸出入禁止の提案が採択される場合、日本として決定に縛られない「留保」を主張する方針をEUに伝えた。

米国は昨年10月、国際取引禁止への暫定的な支持を表明したが、ICCATが資源管理を大幅強化すれば支持撤回を検討するとしてきた。

ICCATは上記の通り、2010年の漁獲可能量を前年のそれから40%カットしたが、米内務省は3月3日、地中海を含む大西洋産クロマグロの国際取引禁止を引き続き支持すると発表した。
ICCATによる漁獲枠の削減は十分ではなく、米国は魚類や漁業について長期的に重大な懸念を持っている」とした。

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ワシントン条約(175加盟国)の目的は絶滅のおそれがある野生生物の保護で、種が「付属書1」に記載されると国際取引は禁止となる。

附属書I  絶滅のおそれのある種であって取引による影響を受けており又は受けることのあるもの

これらの種の標本の取引は、これらの種の存続を更に脅かすことのないよう特に厳重に規制するものとし、
取引が認められるのは、例外的な場合に限る。

例:
オランウータン、スローロリス(
小型サル)、ゴリラ、アジアアロワナ(淡水魚)、ジャイアントパンダ、
木香(薬草)、ガビアルモドキ(ワニ)、ウミガメ など

附属書
(a) 現在必ずしも絶滅のおそれのある種ではないが、その存続を脅かすこととなる利用が
なされないようにするためにその標本の取引を厳重に規制しなければ絶滅のおそれのある種
   
(b) (a)の種以外の種であって、(a)の種の標本の取引を効果的に取り締まるために
規制しなければならない種

例:
クマ、タカ、オウム、ライオン、ピラルク(熱帯魚)、サンゴ、サボテン、ラン、トウダイグサ など

附属書Ⅲ いずれかの締約国が、捕獲又は採取を防止し又は制限するための規制を自国の管轄内において
行う必要があると認め、かつ、取引の取締りのために他の締約国の協力が必要であると認める種

例:
セイウチ(カナダ)、ワニガメ(米国)、タイリクイタチ(インド)、ミダノアワビ(南アフリカ) など

附属書Ⅰ及び附属書Ⅱの改正をする場合、出席しかつ投票する締約国の3分の2以上の多数による議決で採択する。
会合において採択された改正は、会合の後
90日ですべての締約国について効力を生ずる。

一旦採択されると、付属書1の記載を外すのにも投票国の3分の2の支持が必要で、解除するのは極めて難しい。

ただし90日の期間内に書面による通告を行うことにより、改正について留保を付することができる。
留保した締約国は、留保に明示した種に係る取引につきこの条約の締約国でない国として取り扱われる。

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採択された場合、日本が留保することは可能で、この場合、同じく留保した国からの輸入は可能ではある。

日本は現在、付属書I に掲げられている、マッコウ鯨、ツチ鯨、ミンク鯨、イワシ鯨、ニタリ鯨、ナガス鯨等を留保している。

但し、加盟国の2/3以上の賛成で決めたことに対し、賛成はしないとしても、主要国の圧力のなかで、これを無視するという「留保」を行う国がどれだけあるか分からない。

経済危機でEUの支援を求めるギリシャは、賛成にまわった。

また、国際条約で禁止された行為の継続には厳しい視線が向けられるのは避けられない。

ワシントン条約のウィンステッカー事務局長は3月2日、日本政府が留保権を行使すると表明したことに強い不快感を示し、「世界に非常に悪い印象を与える。日本は政治的に難しい立場に置かれるだろう」と述べた。

本年10月には生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が名古屋で開催される。

現在、全世界では約187.1万トンのマグロが漁獲されており(2006年FAO統計クロマグロ、ミナミマグロ、メバチ、キハタ、ビンナガの5種)、日本は、約21.6万トンを漁獲し、約25.7万トンを輸入している。

大西洋・地中海のクロマグロの輸入量はこのうちの2万トン程度であり、在庫もあるため、当面の影響は少ない。

しかし、今回の動きが、マグロを「漁業資源」ではなく、「野生生物」として保護しようとしている点が問題で、大西洋で認めたら、次は太平洋やインド洋、そして、減少が懸念されるマダラなど、他の魚にまでドミノ倒しのように規制が広がるのではとの懸念がある。

 


目次、項目別目次
    
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


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