公正取引委員会は3月31日、「地球温暖化対策における経済的手法を用いた施策に係る競争政策上の課題について ~国内排出量取引制度における論点~(中間報告)」を発表した。
日本は昨年9月、すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意を前提に、2020年までに1990年比で温室効果ガスの25%削減を目指すことを表明した。
地球温暖化対策の施策の1つとして、諸外国で既に導入されている国内排出量取引制度について、我が国においても制度の本格的な導入に向けた議論の進展が予想されるが、同制度は事業者間の競争に影響を与えると考えられることから、公取委は、導入が想定される同制度の内容及びそれに関する民間商取引について、競争政策上の観点から論点等の検討を行ったが、その検討結果を中間報告として取りまとめた。
報告書では、まず京都議定書の概要、各国における排出量規制による地球温暖化対策への取組、世界の排出量取引、排出量規制の仕組みなどを説明し、その後に、排出量規制に係る競争政策上の論点を述べ、排出量規制に伴う事業者等の行為のうち独占禁止法上問題となり得る行為を取りまとめている。
地球温暖化対策として排出量取引制度を導入することは、単に排出量に係る義務を課す場合に比べ、市場メカニズムを通じて、社会全体の費用を抑制しつつ確実に排出削減を達成することが期待され、また、柔軟に削減義務を達成できるようになるため、基本的に、競争政策上望ましいと考えられるとしている。
しかしながら、排出量取引制度の具体的な制度設計において、事業者間の競争に悪影響を与えることも考えられることから、その導入に当たっては、取引の活性化の観点を踏まえた制度設計とするとともに、取引の前提となる排出枠の割当て等が、できる限り、事業者間の公正かつ自由な競争に悪影響を与えないように実施されることが重要であるとし、以下の点の分析をしている。
排出枠の割当方式が競争に与える影響
費用緩和措置
排出枠及び外部クレジットの取引
その他
排出量規制に伴う事業者等の行為のうち独占禁止法上問題となり得る行為は以下の通り。
1 | 事業者等による共同行為 | |
・ | 排出量削減の実施に伴う共同行為 | |
排出量規制の導入により、事業者が共同して、又は事業者団体が、これらの義務を目安として各事業者の商品・役務の供給量を決定することは、供給量に係るカルテルとして独占禁止法上問題となり得る。 また、事業者が共同して、又は事業者団体が、国による規制が無いにもかかわらず、排出枠に係る義務の達成方法を制限する場合にも、独占禁止法上問題となり得る。 | ||
・ | 排出量削減に伴う費用負担の増加に対応するための共同行為 | |
事業者が自らの排出削減の取組のほか、他者の排出枠又は外部クレジットの購入のため、追加的なコストを継続的に負担する必要があるが、この対策として事業者が、共同して、商品・役務の価格を一定額引き上げるといった行為は、原則として独占禁止法上問題となる。 | ||
・ | 排出量の削減に関する共同研究開発 | |
共同研究開発の実施に伴う取決めによって、参加者の事業活動を不当に拘束し、技術市場や製品市場における公正な競争を阻害するおそれのある場合も考えられる。 共同研究開発された技術が大きな排出削減効果をもたらす革新的な技術であり、その技術を用いて排出削減をしなければ他の事業者が事業活動を行うことが困難となる場合に、費用等合理的な条件による申入れにもかかわらずその技術の実施許諾を拒絶する行為は、例外的に、不公正な取引方法(共同の取引拒絶等)、私的独占等の独占禁止法上の問題となることがある。 | ||
・ | 排出量の算定に関する基準等の策定 | |
事業者団体が主体となって排出量の算定基準等を定めることも想定されるが、事業者団体が、消費者の利便性の向上や環境保全等の社会公共的な目的で、排出量の算定に関する自主的な基準・規約等を設定することは、商品・役務の需要者の利益を不当に害さないものであって、構成事業者間において不当に差別的ではなく、その遵守を強制しないものである限り、原則として独占禁止法上問題とはならない。 ただし、事業者団体が基準・規約等を設定する際には、関係する構成事業者からの意見聴取する十分な機会が設定されるべきであるとともに、必要に応じ、対象となる商品・役務の需要者や知見のある第三者等との間で意見交換や意見聴取が行われることが望ましい。 | ||
2 | 取引先等に対する行為 | |
・ | 外部クレジット制度の実施に関する行為 | |
大規模事業者等が、自らと既存の取引先等との間でのみ同事業を実施することを条件として取引し、これによって競争者の取引の機会が減少し、他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなるおそれがある場合には、不公正な取引方法(拘束条件付取引)として独占禁止法上問題となり得る。 また、外部クレジット制度による事業の実施においては、想定よりも排出量が削減できずにクレジットの発生量が少なくなる場合、同事業の実施に伴い想定よりも多額の費用が発生する場合等、新たな費用負担や利益の減少が発生する可能性があるが、優越的な地位にある事業者が、取引先事業者に対して、正常な商慣習に照らして不当に、この新たな費用や利益の減少を負担させることは、不公正な取引方法(優越的地位の濫用)として独占禁止法上問題となり得る。 | ||
・ | 融資事業等に関する行為 | |
排出枠又は外部クレジットの販売を行う主体として金融機関が参加することも考えられる。 このような場合、金融機関が、事業者に対して融資を行うに当たり、自己又は自己の子会社から排出枠又は外部クレジットを購入することを要請し、融資を受ける事業者に対してこれに従うことを事実上余儀なくさせることは、不公正な取引方法(抱き合わせ販売等)として独占禁止法上問題となり得る。 また、特に価格が低下した排出枠又は外部クレジットについて、融資関係等の継続的な取引関係を背景として優越的な地位にある金融機関等が、融資先事業者に対して、不当にこれらの購入を強制することは、不公正な取引方法(優越的地位の濫用)として独占禁止法上問題となり得る。 |
目次、項目別目次
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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