株主代表訴訟での和解、相次ぐ

| コメント(0)

鋼鉄製橋梁談合事件を巡り、独占禁止法違反(不当な取引制限)で有罪が確定した三菱重工業の株主が、西岡喬元社長ら当時の役員7人を相手取り、指名停止措置による受注減などで被った損害35億円を同社に賠償するよう求めた株主代表訴訟は3月31日、東京地裁で和解が成立した。

株主オンブズマンのメンバーが橋梁談合の件で、三菱重工業、石川島播磨重工業、三井造船、住友重機械工業、日立造船、住友金属工業などに対し、株主代表訴訟を行ったが、これらの訴訟が相次いで和解している。

和解内容はいずれも、被告役員が会社に対して解決金を支払い、外部委員会を設置して原因調査や再発防止策を策定することを内容としたもの。

これは2009年6月に大林組の防衛施設庁談合事件、名古屋市地下鉄談合事件、和歌山県談合事件、枚方市談合事件に対する株主代表訴訟において、大阪地裁で成立した和解の内容に従うものである。

訴訟はいずれも、トップに対して、長年違法な談合行為を容認(黙認)して、談合を防止する真に実効性ある内部統制システム構築を怠ったとして、会社が被った損害を会社に対して賠償するよう求めている。

トップが独禁法違反を知っておれば当然だが、仮に知らなかったとしても、内部統制システム構築を怠ったとして、トップ個人に賠償を求めるもので(仮に会社が補填すれば更に問題となる)、独禁法違反に対する抑止力が更に高まる。
また、(後述の通り)、住友金属が使途不明金とそれへの課税を株主代表訴訟の理由として訴えられ、和解した影響は大きい。

和解月日 被告 訴訟内容 和解内容
09/12/21 日立造船
元役員4人
約9億5千万円の返還 ・4人が解決金計約2億円を支払う
・談合の原因調査や再発防止のため、社内に
 「談合防止コンプライアンス検証・提言委員会」を設置。
 3人の委員のうち1人は原告が推薦する弁護士
・解決金は委員会の運営、談合防止マニュアル整備施策に
10/2/10 神戸製鋼所
会長、社長ら6人
課徴金2億146万円
の返還
・6名は、会社に対し、連帯して解決金8800万円を支払う
・「談合防止コンプライアンス検証・提言委員会」を設置
 1年以内に、その提言内容と再発防止策を公表
 委員会のうち3名は外部委員とし、
 うち1名は原告が推薦する弁護士から選任
10/3/30 住友金属工業
現会長ら14人
76.7億円の損害賠償 ・14人が連帯して2億3千万円を会社に支払う。
・それを原資に、社外委員でつくるコンプライアンス委員会設置
10/3/31 三菱重工業
元社長ら役員7人
指名停止措置による
受注減などで被った
損害35億円
・元社長らが解決金1億6000万円を同社に支払う。
・事件の原因調査と再発防止策の策定を1年間をめどに行う
・「談合防止コンプライアンス検証・提言委員会」を設置
・和解金を委員会や談合防止施策の費用に充てる
(参考)
09/6/1 大林組
旧経営陣ら15人
12億8190万円の賠償金 ・解決金として2億円の支払い
・原因調査及び再発防止策の策定は外部委員を含む
 「談合防止コンプライアンス検証・提言委員会」を設置して行い、
 同委員会は調査結果の報告と再発防止策の提言を行う。
・委員会は外部委員を3名とし、内1名は、原告の推薦する弁護士

ーーー

橋梁談合事件とは、2005年に発覚した鋼鉄製橋梁の建設工事(公共工事)の受注に絡んで、橋梁メーカーが談合を行っていたとされる独占禁止法違反容疑の事件である。

K会、A会という2つの談合組織に属する47社は受注調整を行い、実績などを元に受注業者、入札価格をあらかじめ決め、受注予定者が受注できるようにしていた。

* K会(旧・紅葉会):17社が加盟。先発メーカー。
   横河ブリッジ・石川島播磨重工業・三菱重工業・新日本製鐵・日立造船・川崎重工業・
   JFEエンジニアリング・宮地鐵工所・東京鉄骨橋梁など

* A会(旧・東会):30社が加盟。後発メーカー。
   川田工業・栗本鐵工所・住友金属工業・高田機工・コミヤマ工業など

公正取引委員会は、国土交通省の関東地方整備局、東北地方整備局及び北陸地方整備局が発注する鋼橋上部工事並びに日本道路公団が発注する鋼橋上部工工事の入札参加業者に対し立入り調査を行い、刑事告発をするとともに、2005年9月に45社に対し勧告を行った。

2006年3月に44社に対し合計129億1048万円の課徴金納付命令が出され、審判請求した3社には2006年に、同じく三菱重工業と新日本製鉄には2009年12月に課徴金納付命令が出された。
課徴金合計は49社で141億2167万円となった。

なお、各社は刑事告発され、東京高裁で2006年11月に横河ブリッジ、川田工業(各6億4000万円)など23社に計64億8000万円、2007年9月に三菱重工業に5億6000万円、宮地鉄工所に6億円、新日本製鉄に1億6000万円の罰金を課せられた。

また、独占禁止法違反と背任の罪に問われた日本道路公団の元副総裁に対し、有罪判決が出ている。

主要企業の課徴金は以下の通り。(単位:千円、
 
株主代表訴訟 和解済み)
課徴金    株主代表訴訟の金額
横河ブリッジ   854,400
宮地鐵工所 796,260
川田工業  770,360
JFEエンジニアリング 753,970
三菱重工業 718,040  指名停止措置による受注減などで被った損害35億円
石川島播磨重工業 714,740  弁護士費用含め、786,214千円
東京鐵骨橋梁 657,090
高田機工 593,920
川崎重工業 569,690
住友重機械工業  513,480  弁護士費用含め、553,480千円
日立造船  457,090  指名停止による損害5億円を含め、9.5億円
三井造船 455,710  弁護士費用含め、501,281千円
新日本製鐵 282,700
神戸製鋼所 201,460  課徴金201,460千円
住友金属工業 135,050  ・別件受注工作のための裏金・「使途秘匿金」 34億円と、
  税金32億9460万円の合計66億9460万円
 ・冷間圧延ステンレス鋼板価格カルテル課徴金9億7716万円

目次、項目別目次
    
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


コメントする

月別 アーカイブ