広島大学大学院総合科学研究科の彦坂正道特任教授と岡田聖香博士研究員らは、科学技術振興機構の産学連携事業の一環として、鉄鋼を超える比強度を持ち、安価で水に浮く軽さで、リサイクルが可能なシート状の超高性能汎用プラスチックの創製に成功した。
科学技術振興機構と広島大学が4月19日に発表した。
融点以下に冷やした高分子の融液を引っ張って結晶化させるという極めてユニークな製法により、代表的汎用プラスチックのポリプロピレンの結晶化度をほぼ100%に高めることに成功し、引張強度をこれまでの7倍以上の230MPa(メガパスカル)に高め、比強度を鉄鋼の2~5倍にした。
しかも通常の汎用プラスチック並みに安価で成形しやすく、リサイクルが可能という大きな利点を持っている。
ーーー
高分子材料は軽量・安価・高成形性の利点を持つが、強度や耐熱性などの材料特性が金属などより著しく劣るために高度な性能要求に応えることができない。
その原因は、結晶にならない部分の比率(非晶率)の高さにある。
結晶性高分子は長いひも状分子だが、融液中で毛玉のように互いに絡み合う部分が多いために、これらが薄い板状結晶にしかなれず、結晶と非晶が層構造を成し「球晶」というゴルフボールのような結晶体になる。
球晶内には結晶にならず、固化しただけの非晶が半分以上残ってしまう。
彦坂特任教授と岡田博士研究員らは、高結晶化度と超高性能実現の方策として、「ナノ配向結晶体(NOC)」に狙いを定めた。
ひも状の高分子鎖が融液段階で毛玉状に絡まっているために非晶が発生するため、これを一定方向にきれいに並べた上で結晶化すれば、結晶化度の高いナノ配向結晶体が実現すると考えた。
発案したのは、融点以下に冷やした高分子の融液を潰す(compress)ことによって伸長するというアイデア。
融点以下に冷やした高分子の融液を潰す圧力と速度を変えながら伸長と配向の様子を観察したところ、1秒間に数百倍も伸長するような、大きな伸長歪み速度によって、同じ結晶化温度でも結晶化が一気に100万倍も速くなる「臨界伸長歪み速度」が確認された。過冷却融液中の高分子鎖が平行に並んだ完璧に近い配向融液になり、無数の核がミリ秒オーダーで生成し、融液全体の92%が結晶化することが確認された。
「ナノ配向結晶体(NOC)」の実現が確認された。
ポリプロピレンのナノ配向結晶体は以下の特徴を有している。
・引っ 張り破壊強度はこれまでの7倍以上の230MPa
・成形性がよく錆ないプラスチック本来の特性を持ちながら、
引っ 張り破壊強度が同重量の鉄鋼の2~5倍、アルミの6倍
引張破壊
強度(MPa)比重 比強度
(MPa)アルミニウム 100 2.7 37 ステンレス 500 7.8 64 鉄鋼(車両用) 400-800 7.8 51-102 本研究 iPP 230 0.94 244 比強度=引っ 張り破壊強度/比重
・耐熱性は通常のポリプロピレンより50℃以上高い176℃
・光の波長より小さいナノ結晶であるがゆえに高い透明性(透過率 99%)
・折りたたんでも、力を外すと、再び元の形状に戻る
・高分子融液を潰すという単純な工程が加わるだけで、通常の汎用プラスチック並みに安価
・従来の成形法を少し改良した成形法で成形できる
・何も混ぜ物を加えないので、高い収率でリサイクルができる
こうした数々の特性によって、既存のエンプラにとって代わることは十分に期待され、比強度の大きさから、鉄鋼やアルミニウムなどの金属材料に代替することで、製品の軽量化を図ることが期待される。
また、高剛性と高靱性を備え、錆ないことから、高層ビルや家屋などの建築材料にも適しており、耐水性も加味されるので、橋梁やダムなどの構造材としての利用も期待される。
しかも透過率 99%という高い透明性は、ガラスの代替材としても期待できる。
広島大学では今後、サンアロマー(高分子最適化)及びエフピコ(食品容器製品化)と共同研究を行い、実機プロトタイプの超臨界伸長成形機を開発し、実用サイズの超高性能高分子材料の成形、量産技術を確立し、製品化を図る。
目次、項目別目次
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
コメントする