経済産業省は4月21日、化学産業の競争力強化を検討してきた「化学ビジョン研究会」の報告書案を公表、4月30日に全文を公表した。
全文 http://www.meti.go.jp/press/20100430004/20100430004-3.pdf
概要 http://www.meti.go.jp/press/20100430004/20100430004-2.pdf
今回、石油化学サブワーキンググループ報告書も発表されている。
http://www.meti.go.jp/press/20100430004/20100430004-5.pdf
経済産業省は2009年11月、化学産業について、その将来の方向性と官民の今後の取り組みについて検討するため、「化学ビジョン研究会」を発足すると発表した。
メンバーは東京大学大学院の橋本和仁教授を座長に、産学代表、有識者ら16人で構成、11月に現状と課題を議論、本年3月に作業ワーキンググループの検討経過を踏まえた中間段階の議論を行った。
2009/11/19 「化学ビジョン研究会」 発足
報告書では先ず、「化学産業の現状」として、化学産業の発展、我が国化学産業の位置付けについて触れ、「化学産業を巡る環境変化」として、国際的な需要構造の変化、化学製品の国際的供給構造の変化、環境問題への対応の高まり、ビジネスモデルの変化、研究開発・人材育成を挙げた。
次に、「化学産業の課題と対応の方向性」として下記の4点をあげ、それぞれについて、「課題に対する具体的取組」を述べている。
化学産業の課題と対応の方向性 | 課題に対する具体的取組 | |
国際展開 ・競争力を有する原料国への展開 ・これまでのハイエンド市場を大切にしながらも、 ・中国、インド、ベトナムなどボリュームゾーン (ミドル~ローエンド市場)の成長も取り込む ・内外一体的に事業展開を構想し、 その中で国内、海外の拠点を位置付け |
資源外交と連携した海外展開支援 ・日本サウジアラビア産業協力クラスターによる協力 ・ベネズエラとのエネルギー対話・石油化学WGの設置 ・JBIC、NEXIなどによる金融支援 新興国のボリュームゾーンへの取組 ・JETRO等を活用した情報提供などの支援の実施 新興国政府との政策対話等の強化 ・AMEICC化学産業専門家会合 (アセアンとの化学担当局長級会合)での共通認識醸成 ・中国工業信息化部との政策対話の実施 我が国ビジネス環境のイコールフッティングの確保 | |
高付加価値化 (ビジネスモデル・ 企業間連携) |
ビジネスモデルの変革 (素材供給者の地位から脱却) |
高付加価値分野への転換 ・製品開発のためのR&D支援 ・川下と川上を結び付けるようなR&D支援 ・システムの輸出支援 (例:水ビジネスと水処理膜、メディカルサービスと医療素材) 国際標準・知的財産の活用 ・工業会の体制強化 ・工業会と連携した国際標準の重要性の普及・啓発 |
事業分野の選択と集中 企業間の連携、事業部門の交換 による競争力向上、 競争劣位の分野からの撤退等 |
企業間連携の推進 事業連携のための環境整備 ・独禁法の運用について、予見性を高める ・コンビナート連携事業の推進 ・コンビナート内の石油化学企業間連携 ・LLP(有限責任事業組合)の活用 | |
サステイナビリティ (環境・安全安心) の向上 |
地球温暖化対策 | 化石資源からの転換 ・バイオ原料からのプラスチック研究開発 ・CO2を原料とする製品の研究開発 エネルギー効率の向上とベンチマークの設定 ・省エネ法ベンチマーク設定セクタの追加 ・省エネプロセスへの転換と技術開発 (現在はエチレンとソーダの2品目) LCA から見た貢献 ・排出権取引等について、LCAを考慮した制度 国際貢献とオフセットクレジットの検討 ・優れた省エネルギー技術による国際貢献について 事業化可能性調査 |
化学物質管理 | サプライチェーン一体となった化学物質安全管理への対応 化学物質管理制度のアジア標準化 ・改正化審法の円滑な施行 ・ERIA等を通じた化審法制度の普及 ・アジア地域のキャパシティビルディング支援 | |
技術力の向上 | 研究開発 | Green Sustainable Chemistryの研究推進 化学分野における評価研究開発拠点の整備 ・性能評価・安全評価の基盤整備(評価・計測) ・出口の明確な分野での性能評価支援 (半導体材料、リチウムイオン電池材料等) 最高技術責任者(CTO)のコミュニケーションの深化 |
人材育成 | 化学人材の育成 留学生の積極的活用 |
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一見したところ、極めて常識的な見方に終始している。
こんなことで化学業界が生き残れると思っているのだろうか。
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3月25日の第2回会合の議事要旨に、こんな驚くべき記載がある。
経営者が事業の絞り込みをもっと意識することが重要。
行政も、最終判断は各社ではあるが、こうした絞り込みが不可欠であるという情報を機会あるごとに提供していただきたい。行政にこんなことを要請しないといけないような状況なのだろうか。
伊丹敬之・東京理科大学教授の「日本産業の化学化」論の方が明快である。
伊丹教授は約20年前に「日本の化学産業 なぜ世界に立ち遅れたのか」を書いたが、日本化学会の2009年2月号に「日本産業の化学化」という論説を書いている。
http://www.chemistry.or.jp/kaimu/ronsetsu/ronsetsu0902.pdf
教授は、日本の産業が化学化しつつあるとする。
第一に、顧客のところで化学現象を再現するという「化学技術そのものへの需要の拡大」が起こっている。
象徴的な例が燃料電池で、これまでの電力供給は回転による電磁現象でコイルの周りで電流が発生するという物理学の原理を使ったものだが、燃料電池は水素と酸素の化学反応で水ができるプロセスでの電子の動きをベースに電力を生み出す化学の原理である。
産業の中心科学が物理学から化学へとシフトしていくことを示唆している。第二に、多くの化学素材が様々な消費財や産業財の中で、必須の部分として使われるということで、典型的に起きているのが、デジタル電子機器などの必須素材 としてのフィルター、導光板、偏向膜、レンズなどである。
化学材料がますます高機能、多機能化していくからこそ、第二の意味での産業の化学化が起きていく。産業の化学化の可能性が大きいことの背景には、化学産業がある意味で環境対応産業という性格をもち始めていることとも関連している。
(三井化学などがCO2→メタノール→オレフィンの実証研究を行っているが) 化石燃料をはじめとする様々な炭素系物質を燃やすことによって発生する二酸化炭素の排出量あるいは大気中での蓄積量を減らすことに化学技術が使えるとすれば、それもまた地球環境の維持に貢献することになる。
電力産業や鉄鋼業の生産プロセスの根幹部分で二酸化炭素放出削減のために化学反応を使うという意味で、電力産業や鉄鋼業の化学化ともいえる。不要物価値化は、実は化学産業の歴史の本質でもあるように思われる。
・石油化学産業は石油からガソリンなどの燃料を作り出す際に出てくるナフサを原料とした。
・石炭化学も石炭からコークスを作り出す過程で出るタールという「不要物」を原料とした。
・空中窒素固定法でアンモニアを作る技術も空気中にタダで存在する窒素を原料とした。
Chemistry という言葉の語源は、Alchemy という錬金術を意味する言葉にある。それは、価値なきものと思われている不要物や廃棄物を価値あるものに変える、という化学反応の本質を暗示している。
本年2月の新化学国際シンポジウムの基調講演で伊丹教授が講演し、上記の「日本産業の化学化」を説明した上で、次のように述べている。
(以下、西出徹雄・日本化学工業協会専務理事のChemnet Tokyo 記載の「随筆」から)
各産業の化学への依存性の高まりを考えれば、日本のイノベーションと国際競争力を担うのは化学産業となる。
同時にそのイノベーションを担うのが化学企業となるか どうかは別の問題であること、化学産業自体は引き続き産業レベル、企業レベルでの問題を抱えていることも指摘した。
企業レベルでは、「可能性が広すぎるワナ」にはまらずに戦略を明確に絞り込みこむことができるか、特に化学素材企業から化学システム企業に転換できるか、川上に集中しすぎる人材配置を最終製品に近い部門へシフトできるか。
産業レベルでは、技術的合理性の高い産業構造へ再編し規模の確保と重複の無駄を排除できるか、川上・川下との産業の垣根の引き直しも きちんと実現できるか。
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日本の化学企業は、「ガラパゴス鎖国」状態から抜け出るため、石化コンプレックスを半減する方向に動かないと、共倒れになり、伊丹教授の述べるとおり、産業の化学化を他の業界に委ねることになりかねない。
コンビナート連携でのコストダウン程度では今や
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目次、項目別目次
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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