アスベスト被害で国の責任認定

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大阪府の泉南地域の石綿紡織工場の元労働者や元周辺住民ら29人が石綿肺や肺がんなどになったのは、国がアスベスト(石綿)の規制を怠ったのが原因だとして、国に計9億4600万円の賠償を求めた訴訟の判決が5月19日、大阪地裁であった。

小西義博裁判長は「石綿対策を省令で義務づけなかったのは違法」とし、 賠償金を支払うよう命じた。
勝訴したのは26人で、賠償額は1人あたり 687万円~4,070万円で総額は
約4億3500万円
工場近くで石綿粉じんにさらされたとして「近隣暴露」を訴えた元周辺住民の請求は退けた。
 

泉南地域では明治40年に石綿から糸や布を作る石綿紡織業が起こり、地場産業として発展した。2005年11月の生産中止まで約100年間の歴史を持つ。

石綿原料から石綿糸・布をつくる第一次加工で、泉南市、阪南市の狭い地域に、最盛期には一貫工場で70社あり、下請け内職を含めれば約2000人が就労していた。

戦前は軍需関連、戦後は自動車、造船、鉄鋼などの断熱・保温材を中心に紡織製品が使用された。

工場内外で激甚な石綿粉じん飛散があった。

資料 http://www.takagifund.org/admin/img/sup/rpt_file20034.pdf

付記

国と原告の双方が控訴していたが、2011年8月25日、大阪高裁で控訴審判決があった。
三浦潤裁判長は国の規制に不備はなかったと判断、計4億3500万円の賠償を命じた一審・大阪地裁判決を取り消し、原告の請求を退けた。

石綿被害をめぐり、国の「不作為責任」を認めた判決は初めて。
ほかに尼崎市のクボタ旧神崎工場の周辺で働いていた男性の遺族らと、首都圏の建設労働者らが提訴、係争中。

原告側主張:
国は戦前に泉南地域を中心とした石綿関連工場労働者を対象にした健康被害調査を実施し、その1割以上が石綿肺にかかっていたことを把握しており、石綿肺を労災疾病に指定した1972年には、危険性を認識していた。
   
国は1972年以降、粉じんが飛散しやすい作業工程での粉じん を除去する「局所排気装置」の設置▽防じんマスクの着用指示ーなどを省令で義務付けなかった。
   
国側主張: 
1972年以降から技術発展に応じた規制を行った。
   
危険性を認識できたのは、疫学調査の結果が蓄積され、石綿肺の予防を目的としたじん肺法が制定された1985年以降。
   
周辺住民は工場労働者より暴露量が少なく、石綿肺の所見も認められない。
   

大阪地裁判決の要旨は以下の通り。

・国が石綿被害の実態と対策の必要性を認識した時期
 

石綿に関係する医学的な知見は1959年に石綿肺について、72年には肺がんと中皮腫についておおむね集積された。国はそれぞれの時期に、防止策をとる必要性を認識していたと言うべきだ。 

戦前のデータは意義はあったが、仮説にとどまっており、医学的知見確立とは言えない。

・1960年時点で国が石綿肺防止のための省令を制定しなかったことの違法性について 

石綿肺の医学的知見が59年におおむね集積され、重大な被害が発生していることを認識しているのだから、被害の防止策を総合的にとる必要性も認識していたということができる。 

労働大臣は59年の旧じん肺法成立までに、排気装置の設置を中心とする石綿粉じんの抑制措置を使用者に義務づけるような内容の省令を制定していれば、石綿肺になる危険性をかなり低下させることができ、その後の被害拡大も相当防ぐことができたと考えられる。
しかし、この時点で省令を制定せず、71年に旧特化則(特定化学物質等障害規則)で粉じんが飛散する屋内作業場に排気装置を設置することが義務付けられるまで、対策をとらなかった。

省令を制定・改正し、排気装置の設置を義務づける規定を設けなかったのは、著しく合理性を欠き、違法だというべきだ。 

・72年時点で国が石綿肺防止の省令を制定しなかったことの違法性について

石綿粉じんと、肺がんと中皮腫発症の関連性があるという医学的知見は、72年におおむね集積された。
粉じん測定機器としてメンブランフィルター法も実用化され、一般の事業所で粉じん濃度の測定ができるようになった。
特化則により、石綿を製造し、取り扱う屋内作業場で6カ月以内ごとに1回、定期的に粉じん濃度を測定、記録することが義務付けられた。
 

この測定が実行されるのを担保するため、測定結果の報告などを義務づける必要があったが、国はこれを怠った。これは著しく合理性を欠き、違法だったというべきだ。 

・省令制定権限不行使の違法と石綿粉じん暴露による損害との因果関係 

国の省令制定権限不行使の違法と、60年以降に石綿粉じんに暴露し石綿関連疾患になった労働者の原告、またはその相続人らの損害には、相当因果関係がある。 

 

厚生労働省では、今後の対応は詳細を確認の上、関係機関と協議して検討したいとしている。


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