信越化学工業が2008年に「移転価格税制」に基づき約110億円の追徴課税を受けていた問題で、還付加算金を含めて日米合計で約119億円が還付される見通しとなった。信越化学が発表した。
信越化学は2008年2月に米国子会社シンテック社からの収益(5事業年度)に関して、東京国税局より移転価格課税に基づく更正通知書を受領したと発表した。
更正通知による国外移転所得金額は約233億円で、追徴税額は法人税、事業税及び住民税(本税及び付帯税を含む)で合計約110億円と試算された。国税局からは「信越化学が提供した技術でシンテックは高収益を得ているのに、見合うだけの対価を受け取っていない」と指摘されたという。
これに対し信越化学は東京国税局の指摘を否定、「現在シンテックは、塩化ビニル樹脂事業で世界一の高収益会社となっておりますが、その源泉は、この同社における一日も欠かすことのない経営努力の積み重ねによるものです」と述べ、2008年3月期に「過年度法人税等」として10,878百万円を計上した上で、二重課税の排除を求め日米相互協議を申し立てていた。
日米両国の当局が進めていた相互協議で、申告漏れと指摘された所得は当初の約233億円から約39億円に減額された模様で、信越化学の主張が通った。
信越化学は当初の233億円に対する課税が39億円に対する課税に減額され、金利を含めて還付を受ける。
シンテックは米税務当局(IRS)が39億円相当の技術料追加を認めたため、相当する税金の還付を受ける。
これを合わせたものが、119億円となる。(信越化学分が約9割)
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本件に関しては、本ブログでも 2008/2/7 信越化学の移転価格課税で、次の通り述べた。
そもそも、国税局からは「信越化学が提供した技術でシンテックは高収益を得ているのに、見合うだけの対価を受け取っていない」と指摘されたというが、シンテックの高収益が信越が提供した技術のためであるという認識に間違いがある。
もしそうなら、日本の信越化学は他の塩ビメーカーよりも高収益であるはずだが、決してそうではない。
シンテックの高収益の理由は、一つは原料のVCM(塩素とエチレンから製造)をクロルアルカリとエチレンのトップメーカーのダウから供給を受けていることで、塩ビの損益が悪化したときには、損失を一部ダウが負担するという契約条項もあるといわれている。
もう一つが常にフル操業をするという経営方式である。---
金川千尋社長も日本経済新聞の「私の履歴書」に大幅加筆した「毎日が自分との戦い 私の実践経営論」(2007/7)で次のように述べている。
経営力の差が収益に反映する
すでに述べたように塩ビは、物性、加工性、経済性に優れた素材である。経済性について考えると、オイルショックで何度も石油やガスの価格が高騰したが、塩ビの原料は約5割が塩素だから、他の石油化学製品に比べて原油価格高騰の影響は少ない。
環境問題にしても、建築材料として容易に塩ビに代わるものはない。塩ビをやめて木材を使うといっても、木をむやみに切れば森林が破壊され、洪水や地球温暖化の原因になる。このように長期的、総合的に塩ビの特性を判断し、投資を続けてきたのである。
とはいえ、塩ビ事業を手掛けた同業他社が、当社のような利益を上げたわけではない。「信越化学は製造プロセスが優れているから」という解説もあるが、これもおかしい。
当社は1970年代、塩ビの製造技術のライセンスを米国のファイアストンやテネコ・ケミカルズに供与したが、両社ともうまくいかなかった。テネコは、塩ビ事業をオキシデンタルに売却した。ファイアストンは、塩ビ事業をボーデンケミカルに売却したが、そのボーデンも当社の製造技術を生かせなかった。その後ボーデンは、米連邦破産法第11条の適用申請に追い込まれ、工場を当社が買収することになった。
同じ技術を使っているのだから、技術力が優れているというだけでは説明がつかない。結局、経営の違いというしかない。研究開発、製造、販売、調達、財務など、あらゆる要素に目配りをした経営力の差が収益に反映されていると考える。注 ボーデンから買収した工場は稼動させず、廃棄している。
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移転価格税制では本年初めに、国税不服審判所がTDKの移転価格課税の約141億円の処分を取り消し、地方税や還付加算金を含め約94億円が還付されることとなった。
2010/2/5 国税不服審判所、TDKの移転価格課税取り消し
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http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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