6月19日の記事に以下のコメントをいただいた。
ワックスマン(正しくはJoe Barton)議員の「ゆすり」発言については、正直、少し同意しますよ。法的な裏づけもなく 200億ドルの拠出を要請というのは…。じゃあ、なんで油濁法の賠償上限なんてものがあるんだ、という話です。法律の不備に対しては、政府が責任を負うのが筋でしょう。実際、今回の掘削プランは、「だいたいは」総務省のMMSが承認した通りなのに…。
米国油濁法(Oil Pollution Act of 1990 )の問題と、米内務省のMinerals Management Service(鉱物資源管理局=MMS)の認可責任の問題である。
1)米国油濁法
三井物産の損害負担について、「米国油濁法による賠償限度額」というブログで、以下の通り記載されている。
http://messages.yahoo.co.jp/bbs?.mm=FN&action=m&board=1008031&tid=bb00fjaabbba&sid=1008031&mid=43474
「米国には中小の石油会社がたくさんあり、油濁事故を起こした石油会社の倒産を防ぐため、油濁法により損害賠償の限度額が定められています。その限度額は 7500万ドル(70億円)で・・・
今回の被害の原因は非常時に緊急バルブ(防憤装置)がまったく作動しなかったことによるものですから,メンテナンスを請け負っているTransocean や、緊急バルブを納入したCameron International、掘削泥水の操作を行っていたM I Swacoにも法的責任が発生し、これらの会社も賠償責任を負うことになると三井物産の負担割合はもっと下がってきます。・・・」
(この中で「三井物産の負担が7%」とあるのは、三井物産が、権益の10%を持つ三井石油開発の69.91%株主であるため)
1989年3月のExxon Valdezの事故を機に、米国で油濁防止に関する関心が高まり、1990年8月に米国油濁法(Oil Pollution Act of 1990:OPA 90)が成立した。
これにより、全てのタンカーはダブルハル(二重底および二重船側)が義務付けられた。
このなかで、損害賠償の限度額が決められ、これを超えた分をカバーするために油濁基金(Oil Spill Liability Trust Fund )が創られた。
損害賠償の限度額は以下の通り。
今回の事故の場合の限度額は、全ての回収費用+$75,000,000 となる。
タンカー 次の大きい方
(1)gross ton 当たり$1,200
(2)3,000gross ton以上の場合 $10,000,000
それ以下の場合 $2,000,000他の船 gross ton 当たり$600か、$500,000の大きい方 offshore facility all removal costs + $75,000,000 onshore facility、deepwater port $350,000,000
油濁基金(Oil Spill Liability Trust Fund)には、米国で操業する石油会社が生産量+輸入量に対して
1バレル当たり8セントを納入する。
ホワイトハウスもこの規定は認識しているが、国民の怒りを利用して、BPに200億ドルの基金創設を認めさせた。
Exxon Valdezの場合、裁判で賠償額が決められたため、長期間の争いの後に賠償額が大幅に引き下げられたケースや、裁判での決着を見ずに亡くなった人が多数あった。
今回は漁業やレストラン、観光など、被害を受けた企業や個人は膨大で、被害は何年も続くため、裁判となれば、それまでに企業は倒産し、個人は生活の糧を失う。
このため、裁判によらず、第三者の査定により企業や個人を救済する必要があった。
ホワイトハウスも、あらゆる場合に全額をBPなどに負担させるとはしていない。
ホワイトハウスは近く、議会に緊急対策のための歳出法案を提出する。
同法案で、賠償責任額の上限額を7500万ドルから100億ドルに引き上げ、BPにも適用するとされている。また、同法案では油濁基金への納入を今年から1ガロン当たり9セントへと、1セント増やし、2017年からは10セントへ引き上げる。
賠償限度を100億ドルに引上げた上で、それを超える分を油濁基金の今後の増加額で補うという考えである。
このうち、新上限額をBPに適用するのは問題である。上記のブログでは以下の通り述べている。
「オバマさんがいくら頑張っても,罪刑法定主義の原則からみて、法案が改正される以前の事故にこの金額が適用される見込みはほぼありません。」
新上限額の遡及適用は別として、上限額引き上げ自体は通る可能性が強い。
これまで共和党は引上げに反対していたが、Joe Barton議員の「ゆすり」発言で反対できなくなった。
限度額が低いことが、BPに無謀なやり方を取らせ、事故の原因になったとの意見が強い。
ホワイトハウス報道官は、「Barton議員の発言は個人の発言ではなく、共和党の考え方を反映したものであり、11月の中間選挙で国民が判断するだろう」と述べた。
以上のとおり、油濁法では損害賠償の限度額が決められており、改正での遡及適用も無理筋である。
このため、油濁法以外の法律を適用して、責任を追及するべきだとの意見も出ている。
但し、油濁法の規定では、限度額は以下の場合には適用されず、基金の資金も利用できないとなっている。
(A) gross negligence or willful misconduct (重大な過失、意図的な違法行為), or
(B) the violation of an applicable Federal safety, construction, or operating regulation
このため、今回の事故が重大な過失、意図的な違法行為、規則違反が原因とされた場合、損害賠償の限度額はない。
これまでの下院の委員会の調査では規則違反や重大な過失の疑いが出ている。
この場合、事前に政府に提出した文書に基づき、権益保有者がまず連帯して負担し、分担は権益保有者と他の責任者の間で決めることとなる。
3社間の契約がどうなっているかによるが、例えBPに重大な過失があった場合でも、他の権益者が完全に責任を免れるかどうかは不明である。
恐らくは裁判で決めることとなろう。
Anadarkoは負担を避けるため、BPの責任であるという声明を出したが、BPのwillful misconduct を主張する訴訟を準備中と報道されている。
BPもAnadarkoを訴える準備をしていると報道されたが、BPではまだ決めていないとしている。
なお、BP自身は油濁法の7500万ドルの限度と関係なく支払うこと、石油漏洩の結果生活手段をうしなった人に、仕事に復帰するまでは補償を続けるとしている。
BP does not believe that the $75 million cap in the OPA '90 statute is relevant.
We intend to continue replacing this lost income for those impacted for as long as the situation prevents them from returning to their work.
2)Minerals Management Service (MMS)
オバマ大統領は6月15日、元連邦検事補 のMichael BromwichをMMSの新長官に指名し、以下の通り述べた。
10年以上前から、石油会社とMMSとの癒着した関係がチェックされずにきた。
その結果、安全な計画だからというのでなく、石油会社が安全を保障しているというだけで採掘許可が出された。
これからはこんなことは許されない。
大統領は先月には、「石油業界と政府の監督官との癒着は規制がほとんど、又は全くないとの同じだ」とし、MMSを3つの部門に分割することを発表している。
このように業界との癒着が問題になり、6月2日にはメキシコ湾での掘削の安全規則を厳密にするとの発表がなされているにも係らず、MMSはその後に少なくとも5件の新しい掘削を承認し、そのうち3件は環境評価が免除されていることが明らかになった。
業界とMMSとの癒着は事実であり、大統領も認めているが、それを理由に米国政府が補償を負担すべきだとの主張は全く出ていない。
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http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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