ホンダ中国の部品工場でスト、完成車工場が休止

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ホンダの中国の変速機工場でストライキが続き、この影響で完成車を生産する中国の全工場の操業が止まっている。
工場再開の見通しが立たず、影響が拡大していることから、中国の国外にあるホンダの工場から変速機の調達をする検討に入った。

5月17日、広東省仏山市で変速機を製造する本田汽車零部件(南海本田自動車部品製造)で、数百人の社員が賃金と福利に対する不満から仕事を中止した。
一旦復帰し、交渉を続けたが、5
月21日夕刻に再びストに入った。

本田汽車零部件製造有限公司(Honda Auto Parts Manufacturing Co., Ltd.
  設立 : 2005年9月
  稼動開始 : 2007年3月
  所在地 : 広東省佛山市南海工業園区
  生産品目 : トランスミッション(AT/MT)、ドライブシャフト、クランクシャフト、コネクティングロッド
  生産能力 : 24万基/年→現在40万基/年(トランスミッション)

経営側は約350元の賃上げを提示したが、ストに参加した従業員らがこれでは満足できないとして拒否、「日本人駐在員との給与格差が大きすぎる」との不満の声も上がった。

経営側は 一級従業員と2級従業員については、基本給200元、生活補助金35元、食事補助金120元の合計355元引き上げると提案した。

従業員は、「昇給率をさらに拡大し、月給は 20002500元に引き上げるべきだ。業界の平均賃金と比べ、我々の要求は高すぎるものではない」とし、新賃金体系、会社の給与制度改革、会社の管理制度改革の3点を要求した。

江西省の衛星テレビによると、ストが起きているホンダの新人女性従業員が手取りで月額平均約1000元(約1万3500円)なのに対し、同社駐在員の日本人技術者は同5万元と50倍の開きがあり、従業員らが経営側に日本人の給与を公表するよう迫った。

中国では年内にも「同一労働・同一賃金」などを柱とする「賃金法」の成立が見込まれており、中国人従業員らは こうした法整備もにらみながら労使交渉を進めているものとみられる。

同市政府も調停に入ったが、歩み寄りに至らなかった。
調整にあたっているある役人は「賃金表や勤務時間表を見ても、ホンダは規則に違反しているわけではなく、労働者が仕事を中止した理由は主に、最近の物価高で生活が苦しくなったことだ」と明らかにした。

ホンダはこの部品工場でつくっている変速機を、完成車を組み立てている広東省広州市の3工場と湖北省武漢市の1工場に供給してきた。
部品供給がストップし たため、4工場とも5月24日から操業停止に追い込まれる深刻な事態となっている。

中国 四輪車製造工場
年間生産能力(万台)
現在 2012/
広汽本田汽車有限公司
(ホンダ50%/広州汽車 50%
広州・黄埔工場 24 24
広州・増城工場 12 24
本田汽車(中国)有限公司
(ホンダ65%/広州汽車25%/東風汽車10%)
広州・輸出専用工場 5 5
東風本田汽車有限公司
(ホンダ50%/東風汽車50%)
武漢・第一工場 24 24
武漢・第二工場 6
中国合計 65 83

ホンダでは、中国の国外から変速機を調達する検討に入った。しかし、40万台分の変速機をすぐに国外から調達するには量が多すぎるため、すぐに手当をするのは不可能としている。

従業員側の要求を全面的に受け入れれば、ほかの工場の賃上げにもつながる可能性がある。

中国政府はここ数年、労働者の権益保護に力を入れている。
一方、経済発展と一人っ子政策の結果、労働者にとって“売り手市場”になってきている。

付記

ホンダは平均月給 1544元を24%アップし1910元にする案を提案、大半の従業員が受け入れ、6月2日に部品工場の操業を全面的に再開した。

ホンダによると、部品工場の初任給(手当除く)は1049元で、法定の最低賃金ガイドラインを大きく上回っていたが、完成車工場の従業員との給与格差による不公平感などが原因でストがおこった。湖北省武漢の完成車工場では毎年約6%の割合で賃金が上がっているという。

ホンダと下記の現代自動車で共通するのは、完成車と部品工場の待遇差で、製造するモノの付加価値の差により、労務費に大きな差がある。単純労働の従業員にとっては完成車でも部品でも同一労働であり、部品工場が冷遇されたとの差別感がある。
これに、日本や韓国など本国から派遣された管理職や駐在員とのケタ違いの給与格差を中国メディアに指摘され、被害者意識を増幅しているという。

付記

ホンダは6月8日、広州市にある完成車生産の主力2工場「増城工場」「黄埔工場」の9日の操業を停止すると発表した。
同じ仏山市にあるホンダの変速機工場で起きたストで約2週間生産がストップし、先週末から平常稼働に戻ったばかり。

ホンダの系列部品メーカー、ユタカ技研の中国・広東省仏山市にある佛山市豊富汽配有限公司で7日、賃上げを求めるストが発生、8日も生産が完全停止し、9日も生産停止が決まった。このため、ホンダの両工場に部品を供給できなくなった。

同社はユタカ技研が65%、台湾のMoonstone Holdingsが35%を出資、コンバータ、サイレンサー等の生産を行っている。

賃上げを求める動きが、ホンダから系列メーカーの工場に波及した。

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中国紙によると、中国の現代自動車の完成車工場に部品を供給する北京市の工場で5月28日に賃上げを要求するストライキが発生した。ホンダのストが飛び火した。

ストを行ったのは現代系の自動車部品メーカーの北京星宇車科技で、部品供給先である完成車工場で特別手当が支給されたことから、同様の手当を求め、生産がストップした。

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中国では台湾の大手電子機器メーカー「鴻海グループ」の中国子会社「富士康」(広東省深セン市)で若い従業員の自殺が相次いで問題になっている。

富士康はアップル、デル、ヒューレット・パッカード、ソニー、任天堂など有名企業のIT製品を受託製造しているが、今年に入って27日までに13人が自殺を図り、うち10人が死亡した。

自殺が相次いだ原因は今のところ不明だが、同社では従業員の待遇はいいと強調し、背景には多数の要因があるようだと説明、従業員の心理状態を分析し、問題の根本を突き止めようとしているという。

台湾メディアによると、富士康の若い従業員の給料は1000元前後と、現地の最低賃金とほぼ同額で、残業代を加えて1600~2500元で、田舎の家族に約3分の2を仕送りするという。

「勤務体系が115時間で、月の残業時間が80時間以上」とする報道もある。

「南方週末」は取材のため、記者を正社員として28日間工場に潜入させた。
「短い食事と睡眠休憩以外は来る日も来る日も祝日以外ノンストップの、いつ果てぬともない単純作業の繰返し」という労働環境に強い衝撃を受けたと言う。

同社に製造委託している各社は、労働条件の調査に乗り出した。

中国紙によると、アップルでは低賃金が自殺続出の一因とみて、新型マルチメディア端末「iPad」などの加工費引き上げを検討している。

鴻海グループは5月28日、富士康の中国人従業員を対象に約20%の賃上げを行う計画を明らかにした。

付記

鴻海は富士康の深セン工場の基本給を当初の20%アップから拡大、6月1日から、月900元から1200元に33%引上げた。深セン以外の中国全土でも30%以上の賃上げ実施としている。

付記

6月6日、鴻海は富士康の深セン工場の基本給を10月1日から月2000元にすると発表した。6月1日からの引き上げと含め、それまでの2.2倍になる。
基本給を引上げるとともに、残業を3時間に縮小した。
深セン以外の中国人従業員の再賃上げは7月1日以降、地域ごとに発表される。

他の外資企業にも影響が出そうだ。

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今後、中国進出企業にとって、労使トラブルや労務コストの増大が大きな問題となりそうだ。


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http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。

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