最高裁、土壌汚染訴訟で売主に責任なしの判決

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購入した土地に有害物質のフッ素が含まれ、汚染除去が必要になったとして、東京都足立区土地開発公社が売却元の化学会社「AGCセイミケミカル」に損害賠償を求めた訴訟の上告審判決が6月1日、最高裁第3小法廷であった。

堀籠裁判長は「土地売買時にフッ素の有害性は認識されていなかった」と述べ、同社に約4億5000万円の賠償を命じた2審東京高裁判決を破棄し、請求を棄却した。

AGCセイミケミカルは旭硝子の100%子会社で、1947年に合成香料クマリンの国産化のため清美化学として設立された。(「清美」は、宇田川榕菴がオランダ語で化学を意味する単語「Chemie」を音写して当てた「舎密:セイミ」から名付けられた)
2007年にAGCセイミケミカルと改称。

一貫してファインケミカルの研究開発に力を入れ、特色のある事業を次々と確立した。

現在の扱い製品は以下の通り。
  化学品事業部:含フッ素機能商品、スチレン系機能性モノマー、ガラス用研磨剤
LIB事業部:リチウムイオン電池用正極材料
マテリアル事業部:電子・光関連材料を中心とした機能性有機材料
   (液晶材料で培った材料開発力と受託製造で養ったプロセス開発力、設備能力を融合)
ポリッシング事業部:半導体デバイス表面の平坦化のために使用されるCMPスラリー
Fuel Cell事業推進部:燃料電池材料
      (固体酸化物型燃料電池事業分野の原料粉体供給トップメーカー)

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足立区土地開発公社は1991年にAGCセイミケミカルから足立区内の化学工場跡地を約23億3600万円で購入した。
問題の土地は「日暮里・舎人ライナー」の建設に伴い、用地買収のため立ち退いてもらう人に提供する代替地になるはずだった。

2003年に都条例でフッ素が土壌汚染の原因物質として規制対象となり、2005年の土壌調査で環境基準を超えて含まれていることが判明した。再調査したところ、40地点でフッ素が基準を超えて検出され、最高で基準の1200倍に達した。

汚染判明後、立ち退く人が土地の受け取りを拒否したため、足立区は掘削などの汚染対策をしたうえで公園用地として利用することを決めた。

公社は売り主のAGCセイミケミカルに除去費や土壌調査費など約4億6100万円の賠償を求めた。

裁判では、契約時には売り手、買い手とも有害と分からなかった物質による汚染が、民法上の「隠れた瑕疵」に当たるかどうかが争点だった。

公社が土壌中のふっ素の存在をはじめて認識したのは2005年11月頃であり、土地引渡し(1992年4月)から10年以上経過していることから、瑕疵担保による損害賠償請求権の時効(消滅時効の起算点は引渡時であるとした最高裁判例あり)により消滅したものとなる。
この点につき、東京高裁は、損害賠償請求権を行使できない特段の事情があったと認定し、消滅時効の起算点を遅らせる解釈をとり、セイミによる消滅時効の抗弁を排斥している。

一審・東京地裁判決は「契約後に生じうる瑕疵について、売り主が半永久的に責任を負うことになり、当事者間の公平を失する」とし、「売買時には社会的に認識されていなかった商品の欠陥について、売り主は責任を問われない」との判断を示し、公社側の請求を棄却した。

二審は当時の認識にかかわらず「本来備えているべき性能、品質に欠ける点があれば瑕疵に当たる」とし、「後から危険性が分かったとしても、売り主が負担すべきだ」と判断、一審判決を変更、同社に約4億5千万円の支払いを命じた。

今回の最高裁小法廷で堀籠裁判長は、「売買契約の当事者間でどのような品質が予定されていたかは、契約締結当時の社会通念を斟酌して判断すべきだ」と指摘。フッ素が有害と認識されたのは契約締結後であり、「売買契約時に危険性を認識できなかった場合、商品に瑕疵があったとは言えず、売り主は責任を負わない」との初判断を示した。


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