中国が「所得倍増」計画

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中国政府は2011年から始まる次の5カ年計画に労働者の賃金を現在の2倍に増やす「所得倍増計画」を盛り込む検討に入った。

現在の所得分配は不合理で、貧富の格差が拡大しており、この問題を解決しなければ、一連の深刻な社会問題をもたらす可能性がある。

都市部住民と農村部住民との間の所得格差は3.3倍前後を保ち、業界間格差は最高で約15倍に達する。
所得の上位10%の一人あたり平均所得は下位10%の約20倍以上に達する。
少数の国有系金融企業のトップ層の給与水準は社会全体の平均給与の約100倍にあたる。
一部企業のトップ層の最高給与は社会全体平均の約2千倍にも上る。

2010/3/6  中国の都市部と農村部所得格差が拡大

人力資源・社会保障部労働工資研究所の蘇海南所長は、現在の所得分配の不合理さや貧富の格差の拡大を招いた主要因として、次3つをあげている。

経済発展モデルや経済構造などにおける不合理さが招いた制約や影響
生産力のアンバランスや自然資源などの客観的条件によって形成された所得格差を拡大
   
経済社会体制に存在する弊害の影響や制約
問題を一層悪化させ、不公平な所得分配格差を拡大し、所得分配の不公平さの深層レベルでの根源となっている
   
所得分配システムの不完全さ

ここ数年を総合的にみると、国民の所得の伸びや労働所得の伸びは低く、GDPと平均労働生産率の増加水準を下回った。
中国共産党の第17回(2007年)全国代表大会で、両者の割合を高め、サラリーマン給与の正常な増加メカニズムをうち立てることが求めらた。

第17回報告には、「より多くの民衆が財産所得を得られるような環境を整える」が初めて記された。

この解決策として、かつての日本の「所得倍増計画」を導入し、所得分配の不合理を解決しようというもの。
平均賃金を毎年15%以上のペースで増やせば、5年で2倍になる。

中国改革発展研究院の遅福林院長は次のような収入分配体制改革の提案をしている。

企業従業員が集団で賃金引き上げを談判できる制度の導入と、賃金が定期的に増加する制度の導入。
従業員持ち株会の制度強化
企業利益・株価上昇の恩恵を従業員にも拡大
土地価格上昇の恩恵を農民に広く享受させるような制度

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既報の通り、既に中国では労務費引上げの例が相次いでいる。

2010/6/1 ホンダ中国の部品工場でスト、完成車工場が休止

広東省仏山市で変速機を製造する本田汽車零部件のストについては、ホンダが平均月給 1544元を24%アップし1910元にする案を提案、大半の従業員が受け入れ、6月2日に部品工場の操業を全面的に再開した。

しかし、6月7日にホンダの系列部品メーカー、ユタカ技研の中国・広東省仏山市にある佛山市豊富汽配有限公司で賃上げを求めるストが発生、8日も生産が完全停止した。
このため、ホンダの仏山市の「増城工場」「黄埔工場」に部品を供給できなくなり、ホンダは2工場の9日の操業を再度停止すると発表した。

豊富汽配はユタカ技研が65%、台湾のMoonstone Holdingsが35%を出資、コンバータ、サイレンサー等の生産を行っている。

更に、自動車用の鍵部品を製造する広東省中山市にあるホンダ子会社ホンダロックの本田制鎖(広東)で賃上げを求めるストがあり、6月9日に操業を停止した。

賃上げを求める動きが、ホンダから系列メーカーの工場に波及した。

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中国の現代自動車の完成車工場に部品を供給する北京市の現代系の自動車部品メーカーの北京星宇車科技で、5月28日に賃上げを要求するストライキが発生した。

部品供給先である完成車工場で特別手当が支給されたことから、同様の手当を求め、生産がストップしたもので、ホンダのストが飛び火した。

現代自動車ではインド南部のチェンナイ工場でも現地労働者によるストライキが発生した。

ヒュンダイ・モーター・インディアでは労使協議会が設置されているが、最近一部の従業員がこれとは別に違法労組を結成し、公式に認めるよう要求している。違法労組の結成を主導した従業員87人が解雇されたことを受け、一部の従業員が解雇者の復職を要求し、ストを決行した。

工場の従業員約150人がストに突入し、インド第1工場、第2工場 (それぞれ年産30万台)の生産ラインが全面的にストップした。

現地の警察は6月8日、約200人の労働者を拘束した。

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台湾の大手電子機器メーカー「鴻海グループ」の中国子会社「富士康」(広東省深セン市)で若い従業員の自殺が相次いでいる問題については、鴻海グループは富士康の深セン工場の基本給を当初の20%アップから拡大、6月1日から、月900元から1200元に33%引上げたが、6月6日には、富士康の深セン工場の基本給を10月1日から月2000元にすると発表した。
6月1日からの引き上げと含め、それまでの2.2倍になる。
基本給を引上げるとともに、残業を3時間に縮小した。

深セン以外の中国人従業員の再賃上げは7月1日以降、地域ごとに発表される。

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ブラザー工業は6月9日、工業用ミシンを生産する陝西省西安市の全額出資子会社「兄弟ミシン(西安)有限公司」の2工場で賃上げや待遇改善などを求めてストが発生、3日午後から操業を停止していることを明らかにした。

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中国政府が所得倍増計画を打ち出せば、この動きは強まり、進出企業にとっては、労使トラブルや労務コストの増大が大きな問題となる。


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http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。

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