ブラジルのValeが、日本とブラジルが共同で行っている「アマゾン・アルミニウム事業」(アルミ精錬のAlbrasとアルミナのAlunorte)から撤退する。
同事業を含むアルミ事業とアルミナ事業及びボーキサイト鉱山の権益をノルウェーのアルミ最大手Norsk Hydroに売却する契約を締結した。
Valeは現金11億ドルと、Norsk Hydroの株式の22%を受け取る。これらに7億ドルのJVの債務負担を加えると、合計で49億ドルに相当する。
Norsk Hydroは格付け維持と将来の投資資金確保のため、17.5億ドル相当の増資を行う。
この結果、Norsk Hydroが本年第4四半期に、Albrasの権益51%、Alunorteの権益91%と、パラゴミナス鉱山の権益60%及びCAPアルミナ(Para州に建設する計画)の権益81%を保有することになる。
Norsk Hydroはパラゴミナス鉱山の残り権益40%については2回分割(2013年と2015年にそれぞれ2億ドル)で購入するオプションを持つ。
パラゴミナス鉱山は世界3位のボーキサイト鉱山で、現在の年産能力は990万トンだが、CAPアルミナへの供給で1500万トンに拡大する。
CAPアルミナは現在建設中で、第一期能力は186万トンだが、744万トンまでの拡大を検討している。ボーキサイトは主にパラゴミナスから供給を受ける。
Norsk HydroはQatarでQatar Petroleumとの50/50JVのQatalum(年産585千トン)に参加している。
第2期も検討対象となっている。2008/6/3 中東のアルミ事業
これらの事業の概要及び経緯は以下の通り。
事業 | アルミ事業 | アルミナ事業 | ||
JV | Albras (Aluminio Brasileiro) |
Alunorte (Alumina do Norte do Brasil) |
CAP計画 (Companhia de Alumina do Pará) | |
能力 | 45万トン | 626万トン | 186万トン | |
技術 | 三井アルミ | 日本軽金属 | ||
出資 | Vale | 51%→0% | 57.03%→ 0% | 61%→ 0% |
日本アマゾンアルミニウム | 49% | 3.80% | ||
Norsk Hydro | 0%→51% | 34.03%→91.06% | 20%→81% | |
Cia Brasileira de Aluminio | 3.62% | |||
ジャパン アルノルテ インベストメント | 1.19% | |||
三井物産 | 0.23% | |||
三菱商事 | 0.10% | |||
Dubai Aluminium | 19% |
AlbrasとAlunorteは工場はバルカレーナ市にあり、隣接している。
(CAPも同じバルカレーナ市)
アルミナの原料のボーキサイトは、従来からのトロンベタス鉱山(年600万トン)に加えて、新しくパラゴミナス鉱山が開発され、後者からは年900万トンが輸送用パイプライン(約244km)でスラリー輸送される。
電力はツクルイ水力発電所から供給を受ける。
日本アマゾンアルミニウムのホームページから
この計画は1973年8月にブラジル政府から要請のあったもので、ブラジル東北部アマゾン河流域の豊富な水力資源とボーキサイトを利用して、ベレン地区に年産能カ80万トンのアルミナ工場(アルノルテ計画)および同32万トン(16万トンx2系列)のアルミニウム製錬工場(アルブラス計画)の建設、運営を行うという計画である。
所要電力は同国政府がツクルイ地区に建設する発電所から供給されることとなっていた。
ブラジル政府から要請のあった2ヵ月後に第一次石油危機が発生した。エネルギーコスト上昇の見通しの中、ブラジルへの経済協力とアルミニウムの長期的な安定供給源確保のため、1976年9月に政府支援が決まり、ナショナルプロジェクトとなった。
1977年に日本側投資会社の日本アマゾンアルミニウムが設立された。
当時精錬5社は経営悪化で出資余力に乏しく、需要家や商社などに出資を求め、民間側32社の出資となった。
現在の出資は以下の通り。 政府: 国際協力機構(当初は海外経済協力基金) 44.92% アルミメーカー: 三井アルミ 8.30%、日本軽金属 7.94%、住友化学 4.59%、
神戸製鋼所 1.84%、昭和電工 0%(←3.21%)アルミ需要家: YKK 2.02%、三協立山アルミ 0.92% 商社: 三井物産 12.57%、三菱商事 5.51%、伊藤忠商事 2.75%、丸紅 2.02%、
住友商事 1.84%、双日 1.84%、豊田通商 0.92%、JFE商事 0.92%その他: 日産自動車 1.01%、三井住友海上火災保険 0.09% 注 昭和電工は3.21%を出資していたが、2005年1月に三井物産に売却
1978年9月にVale(当時の呼び名はRio Doce)との合弁で2つのJVが設立された。
アルミ精錬 Albras 日本側 49% 所要資金 約13億ドル
アルミナ Alunorte 日本側 39.2% 所要資金 約 8億ドル
Albrasの建設工事は1978年に開始され、1985年に第一期16万トンの通電を開始、1986年末にフル生産に入った。
引き続き、1987年に第二期16万トンの建設を開始し、1991年に1-2期合計の実質34万トンがフル操業となった。
しかし、借入金の大半は円建てのため、プラザ合意以後の円高で金融費用が大幅増となり、アルミ市況の低迷もあって事業が困難となった。
このため、追加出資、金利引下げ、返済条件緩和など、両国の官民による二度の支援が行われた。
この一環として日本アマゾンアルミへの協力基金の出資も当初の40%から引上げられた。
一方、Alunorteについては、アルミナの需要減少で国際価格が下落したため、1983年から3年間、建設工事を中断したが、日本アマゾンアルミは1986年末に、建設が4割程度完成していたこの計画から撤退した。
日本側の出資・融資金は全額、同社の議決権のない優先株となった。
Alunorteは1993年にブラジル側のみで新株主を加えて工事を再開、2005年にアルミナ110万トンが生産開始した。
その後、ジャパン アルノルテ インベストメントが出資。
(日軽金 49%、三井アルミ 17%、伊藤忠 17%、三井物産 17%)
2003年に三井物産と三菱商事が新たに出資し、引取権を得た。なお、Valeは2000年に持株の一部をNorsk Hydroに譲渡した。
Valeは1997年に民営化されたが、コアビジネスを鉄鉱石とロジステックスとした。
その後、2006年に250万トンから440万トンに引上げられたが、同年に総額8億ドルを投じて626万トン(世界第一位の規模)に増強する計画が決まり、日本側も増資に応じた。2008年央に増設が完成した。
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現在、Albrasで生産されたアルミニウム地金は出資比率相当の49%が日本へ輸出されており、これは日本の輸入量の10%に相当する。
Alunorteのアルミナ626万トンのうち、88万トンがAlbrasにアルミ原料として供給され、残り538万トンは主に輸出されている。
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