メキシコ湾石油流出事故対策の現状

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4月20日夜10時頃、ルイジアナ州ベニス南東約84キロで掘削中の海洋掘削プラットフォームDeepwater Horizon rig で爆発事故があり、作業員11人が行方不明(死亡とみられる)、負傷者は17人おり、うち3人が重傷。

リグは2日後に沈没、水深約1.5kmの海底までパイプでつながれていたが、パイプは破損し、パイプ3箇所から原油が噴出した。パイプの元には自動的に原油流出を止める噴出防止バルブ(BOPblow-out preventer)が備えられていたが、装置が稼動しなかった。

原油流出量については、米政府の最新推定は日量6万バレルだが、下院のマーキー議員がテレビで、BPが最悪のケースでは日量約10万バレルにも達すると推定する社内文書をまとめていたことを明らかにした。   

BPでは、この数字は噴出防止装置の主要部分が取り外された場合のもので、噴出防止装置を取り外す計画はないため、この数字には意味がないとしている。

これまでの対策と現状、計画をまとめた。水面下1500mの作業は初めてで、難航した。

1) ロボットで噴出防止バルブをとめる作業(下図①)は失敗した。

2) 大きなContainment Chamber を被せて、油とガスを吸い上げる作業(下図②)は、温度と圧力と海水が作用してシャーベット状のgas hydrates が生成し、パイプが詰まり、失敗。

上図の③は最終解決策のRelief well

3) その後、折れたパイプの先端にロボットでバルブをつけるのに成功、ここからの漏れは止まった。
 (残り2箇所からの漏れは続く)

4) パイプにRiser Insertion Tube を挿入するのに成功、流出原油の一部の回収を行った。( 6)により終了)

5) 流出源の油井に泥を流し込みセメントでふたをするTop Kill 作戦は失敗。

6) BPは6月4日、油井の元の機能しなかった噴出防止バルブ(BOP)の先からパイプを切り取り、 BOPにキャップをかぶせるのに成功し、そこから石油のくみ上げを開始した。
但し、キャップは完全にはかぶさっておらず、なお、大量の油が漏れている。

下図の①のLMRP CapLower Marine Riser Package Cap)からパイプでDiscovery Enterprise(掘削船)に原油とガスを吸い上げ、原油(日量15~18千バレル)は回収、ガスは燃焼する。

付記
LMRP Cap を別のSealing Cap に置き換える案が承認された。完成すれば回収能力は50千バレル以上となる。

7月12日に新しいCapが設置された。
うまくいけばキャップがバルブを締め、徐々に流出を封じ込めることができる。
また、流出が完全に止まらなくとも、以前より多くの原油を回収できる設計になっている。

これを検証する"well integrity test"の実施は政府の検討のため延期されている。

7) その後、BOPそのものからの回収を開始。

上図の②で、多岐管からのパイプで Q-4000(海上プラットフォーム)に原油とガスを吸い上げ、原油(日量5~10千バレル)とガスは燃焼している。

8) 現在作業を進めているのが、Floating Riser Containment Systemで、原油回収船(Helix Producer)に固定せず、自立式で水深約300フィートの所に浮かぶライザー管で原油とガスを吸い上げる。

船に固定しないため、嵐などの場合に切り離したり接続したりするのが容易になる。
これにより日量20~25千バレルの原油の回収を見込んでおり、これが完成すれば回収量は日量40~53千バレルとなる。

付記
Helix Producerは7月12日、原油回収作業を開始した。フル稼働には5~6日かかる。

9) 最終の解決策はRelief Well で、現在2本の井戸を掘削中。1本目は5月2日に、2本目は5月16日に掘削を開始した。

下図のとおり、海面下18千フィート(海底下13千フィート)近くの油源近くで現在の井戸に接続、油圧を分散した上で、泥やコンクリートを流し込む。完成は8月の見込み。

  * ソース BP発表  Technical briefing presentation slides

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BPAnadarkoと三井石油開発(Moex)に対し、62日までにBPが支払った10億ドル以上に対し、Anadarkoには25%272百万ドル、Moexには10%のに111百万ドルを支払うよう、請求書を送った。

2010/7/1 BP、パートナー2社に事故関係費用分担金を請求

BPはAnadarkoが7月7日に、Relief well 掘削等の流出防止対策の費用を含め、支払いを保留するとの通知をしてきたことを明らかにし、契約と油濁法に基づく義務を果たさないことに対し失望したと述べた。

三井石油開発については支払期限は7月12日となっている。

付記

三井石油開発は7月12日、事故原因が究明されていないことなどから、現時点では費用負担に応じないことを明らかにした。

なお、Anadarkoと三井石油開発のトップは7月22日に、上院の小委員会で両社の責任についての見解を証言する予定。

Anadarko Jim Hackett CEO、三井石油開発は孫会社で権益を持つ現地法人のMOEX Offshore 2007 LLC の石井直樹社長が証言する。


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