大阪地裁、国の基準を否定し、水俣病認定を義務づけ

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最高裁で水俣病と認められた大阪府豊中市の女性が、国と熊本県を相手に行政としても認定するよう求めた訴訟の判決が7月16日、大阪地裁であり、水俣病患者と認定するよう命じた。

山田明裁判長は、以下の理由をあげ、女性の認定申請を退けた処分を取り消し、公害病訴訟では初めてとなる改正行政事件訴訟法に基づく行政認定を義務づけた。

1)  現行の認定基準(1977年基準)の「感覚障害や運動失調など2つ以上の症状の組み合わせ」がない限り水俣病と認めないとの国の主張は医学的正当性を裏付ける根拠がない。
   
2) 四肢の感覚障害は水俣病の基礎的症候で、神経症状が感覚障害のみである水俣病も存在すると認められる。
   
 

国はメチル水銀により末梢神経を損傷したとする「抹消神経説」を支持、複数の症状の組み合わせが必要と主張。
関西訴訟の原告を支援する医師や研究者は、メチル水銀が大脳皮質を傷つけたとする「中枢神経説」を提唱している。
判決は、原告の症状を「中枢神経の損傷と推認される」とした。

   
3) 原告の症状は四肢の感覚障害のみだが、メチル水銀の摂取状況、他に原因になる疾患がないことなどを総合考慮すれば、原告は水俣病と認められる。
   

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女性は1953年ごろから手足にしびれが出始め、1978年に認定申請した。
しかし、熊本県は「感覚障害や運動失調など2つ以上の症状の組み合わせ」で水俣病と認める1977年基準に当てはまらないとして、1980年に退けた。

2004年の最高裁判決は二審・大阪高裁判決が示した「汚染された魚介類を多く食べ、指先や舌先の感覚に障害があれば認定できる」との基準を支持して女性ら37人を水俣病と認定、国と同県、チッソに原告1人あたり450万~850万円の賠償責任があることを認めた。

これに対し国は、「最高裁の判決は有機水銀中毒症の判断基準であり、水俣病と有機水銀中毒は別」とし、現行の水俣病認定基準の見直しは行わないことを言明した。

最高裁の勝訴判決が確定した後も、国は認定基準を見直さず、熊本県の棄却処分に対する女性の不服審査請求も退けたため、女性は2007年5月に提訴した。

被告の国側は「最高裁判決の基準は医学的にあり得ない」とし、国の認定基準について「水俣病認定に複数の症状の組み合わせが必要とする基準は医学的な根拠があり、現在でも合理的だ」と反論していた。

なお、熊本県、鹿児島県では、認定審査会の委員が「司法と行政の二重の認定基準が存在し審査ができない」として、再任を拒否しているため、審査業務が停滞している。

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国は1977年に、「感覚障害や運動失調など2つ以上の症状の組み合わせ」で水俣病と認める基準を決めた。

チッソは認定患者対しては、1973年の協定により継続的に補償を実行した。
   2,268名の認定者に対し、合計1,390億円
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補償協定の概要
項目 内容                                  
一時金 Aランク 1,800万円/人+近親者慰謝料(最高1,900万円)
B     1,700      +近親者慰謝料(最高1,270万円)
C     1,600 
年金 170~67千円/人・月
医療費 患者医療費全額を支払い
その他
継続補償
医療手当、介護費、温泉治療費、針灸、葬祭費
患者医療生活基金(チッソが7億円拠出)からの支給
            年間補償金支払額 約27億円

非認定者対しては、1996年の和解にて解決を図った。

約1万人の未認定患者を対象に、四肢末端優位の感覚障害がある場合は「医療手帳」、感覚障害以外で一定の神経症状がある場 合は「保健手帳」を交付。
医療手帳はチッソから一時金260万円、国・県から医療費自己負担分全額、月額約2万円の療養手当などを支給。
保健手帳は医療費自己負担分などを上限付きで支給してきたが、関西訴訟最高裁判決後に医療費自己負担分は全額支給に改めた。

2008/5/31 チッソの弁明

しかし、2004年の関西訴訟の最高裁判決が国の認定基準より幅広く水俣病と認めた結果、再び水俣病被害を訴える患者が続出したため、未認定患者を救うため2009年7月に特措法が成立した。

2009/7/3 水俣病救済法案、衆院を通過、来週成立の見通し

鳩山内閣は20104月、水俣病の未認定患者を救済するための特別措置法の「救済措置の方針」を閣議決定した。

一時金:210万円
療養手当
療養費の自己負担分
被害者団体計3団体に、活動費用や社会福祉施設の運営費

一時金や加算金は原因企業のチッソが負担する。
但し、チッソは債務超過に陥っていることなどから、国は熊本県が出資する財団法人を通じ、資金支援。

2010/4/16 水俣病「救済措置の方針」を閣議決定

以上の通り、国は(最高裁判決を無視して)認定基準を厳しいままとして「認定患者」を限定、非認定患者に対しては2回の「特別措置」での一時金で救済する方針を取った。

認定患者が増えると補償が膨大になることを懸念したとされる。

認定の場合、Cランクで一時金1600万円プラス年金
未認定の場合、今回の救済処置では一時金210万円。

今回の判決では、国の認定基準は「チッソの支払い能力を考慮した可能性も否定できない」と指摘している。

今回の判決により、患者を認定せず、一時金での決着を図るという国の方針が崩れることとなる。
国と熊本県は17日、控訴する方針を固めた。月内に正式な手続きをとる。

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今回の判決は、最高裁が水俣病と認めた被害者の行政認定をめぐる初の司法判断。

未認定患者については特措法による救済策が進んでいるが、今も8000人以上が認定申請中で、今回の判決で、「認定」を求める訴訟を起こす患者が増えることが予想される。

特措法による救済策で、チッソには3万人とされる未認定患者に対する一時金630億円の費用負担が生じる。
認定患者が増えると、この負担が大幅に増える可能性がある。

環境省は7月6日、水俣病特別措置法に基づき、チッソの分社化に向けた手続きの一環として、同社を「特定事業者」に指定した。
チッソは今秋にも分社化し、3年後に分社化した子会社を売却、売却益を熊本県に納付して補償業務を委ね、チッソを清算ことを狙っているが、チッソの負担が大幅に増えた場合、この計画が狂う可能性が強い。

2010/7/6 チッソ を「特定事業者」に指定


目次、項目別目次
    
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


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