BPは油井の完全封鎖に向け、作業を行っている。8月中旬までの完全封鎖を狙う。
7月15日に油井にキャップを取り付け、ラムを閉めて原油流出を止めた以降、噴出につながる漏れがないか確認するため油井の圧力や周辺の海底を調査しているが、漏れは見つかっていない。
作業は2段階で行われる。
まず8月3日から、キャップの下部から泥を流し込んで油井を封じる「Static Kill」(静的封じ込め)と呼ばれる作業を実施する。
1ガロン当たり30ポンドの泥を低速、低圧力で井戸に流し込み、原油を油層に押し戻す。
その5~7日後にリリーフ井戸の完成を待ち、リリーフ井戸からセメントを流し、油井を下から密封する。
(7月29日現在で、流出油井から数フィートの位置まで掘削が進んでいる)
BPは前回、同様に油井に泥やセメントを流し込む「Top Kill」を試み、失敗したが、この時は原油が流出している場面で実施した。
今回はキャップで流出は止まっており、成功の可能性は強いという。
しかし、これに成功しても、事故原因と責任問題、環境回復や被害補償など数多くの課題が残される。
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連邦政府はニューオリンズで、環境保護局、沿岸警備隊などの関係者からなる「BP対策班」の設置を進めている。
「企業関係者が規制当局に虚偽の報告をしなかったか、司法妨害がなかったか、リグの噴出防止装置などの試験結果が偽造されていなかったか」を調べる。
米政府はコントラクターのTransoceanとHalliburtonも含めた刑事捜査の準備を進めている。
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BP自身も間もなく事故原因の調査結果を発表するが、BPに重大な過失があったかどうかで、次の点が問題となる。
1)米国油濁法
現在の油濁法の規定では、油濁事故を起こした石油会社の倒産を防ぐため、損害賠償の限度額が定められており、限度額は現在、7500万ドルとなっている。(政府は100億ドルへの引き上げを検討)
これを超えた分は油濁基金(Oil Spill Liability Trust Fund )から払われる。
但し、油濁法の規定では、「重大な過失、意図的な違法行為」などの場合、この限度額は適用されず、基金の資金は利用できない。
BP自身は、この限度額を利用する考えはないとしている。
2010/6/22 メキシコ湾石油流出事故の損害負担(その3)
2) Clean Water Act
BPは第2四半期の決算で、事故関連の費用として322億ドルを計上した。
この中にはClean Water Actに基づく罰金が含まれていると思われる。
同法では原油の流出量1バレルに対して、1,100ドルの罰金が決められている。
但し、重大な過失による場合は、罰金は4,300ドルとなる。
米科学者の推計では、事故発生以来の流出量は300万~500万バレルとなる。米政府は事故発生以来、これまでに流出した原油の総量を最大約70万kl (438万バレル)と推計している。
300万バレルとしても、過失無しの場合で罰金は33億ドル、重大な過失があるとされれば、129億ドルとなる。
(500万バレルの場合、55億ドルと215億ドル)
但し、回収努力などを考慮して減額されるとのこと。
付記
エネルギー省などの科学者チームは8月2日、今年4月20日以来の原油流出量を490万バレルと発表した。このうち、約80万バレルを回収したとしており、ネット流出量は410万バレルとなる。
誤差はプラスマイナス10%で、「これまでで最も正確なデータ」としている。
当初、BPは流出量を1日1,000バレルと、非常に少なく発表したが、Clean Water Actによる罰金を考慮したのではないかと噂されている。最終的に1日あたりの流出量は35千~60千バレルとされている。(このうちの一部は回収しており、6月中旬以降の回収は1日25千バレル程度、残りが漏れ出している。)
2006年にBPの管理するアラスカのパイプラインからPrudhoe Bay に原油が流出した。パイプラインの腐食が進み、メンテナンスも不十分な危険な状態で、これを放置した結果、原油が流出した。「誰も監視などしていない」状況と報じられた。
流出量は5,000バレルで、2007年10月にBPはClean Water Act 違反で、20百万ドルの罰金を払うことで司法省と合意した。
(BPは同時に、2004年のプロパンガス市場での価格操作で米商品先物取引委員会に3億300万ドルの罰金を、また、2005年の15人の死者と170人を超える負傷者を出したテキサス州の製油所爆発事故について5000万ドルの罰金を払うことで司法省と合意している。)
3) 共同権益者
BPは65%、Anadarkoが25%、三井石油開発が10%の権益を持つが、Anadarkoと三井石油開発はBPの重大な過失の可能性を理由に、費用の分担を拒否している。
過失がなければ、権益比率による負担となる。
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米メキシコ湾の原油流出事故をめぐり、全米旅行産業協会は7月27日、観光産業が被る損害額が今後3年間で最大227億ドルに上るとの試算を明らかにした。米下院エネルギー商業委員会小委員会の公聴会で、ロジャー・ダウ会長が証言した。
なお、メキシコ湾で海面を浮遊する原油の量は激減している。
BPが流出源の油井に密閉ぶたを設置 し、7月15日に流出阻止に成功してから2週間弱で、原油が広がった海面の面積は約20万平方キロから約2万5000平方キロに縮小した。
米海洋大気局は7月30日、流出した原油はフロリダ州南部や米東海岸には到達しないとする予測を発表した。米メディアは専門家の諸説として▽バクテリアによる生物分解▽ハリケーンなど暴風雨による拡散▽数千隻の船を導入した地道な回収作戦の奏功▽海面に上昇した原油の気化-などを原因に挙げている。米海洋大気局は7月27日の記者会見で、海の微生物が油を食べているために分解が進んでいるのが一因と説明した。
ルイジアナ州では、閉鎖されていた商業的漁業海域の一部で操業再開を許可した。
但し、ルイジアナ州やフロリダ州の湾岸では、現在もタールの塊があちこちに打ち上げられており、地元の漁師は、残存する原油や大量にまかれた化学分散剤の影響を懸念している。
BPのダドリー次期CEOは7月30日の記者会見で、メキシコ湾の被害回復に取り組むため、米連邦緊急事態管理局(FEMA)のウィット元局長を雇用したと述べた。
これとは別にBPは30日、米政府が海底油田開発を凍結したことによるリグ関連の失業者を支援するため、1億ドルの基金を設立すると発表した。
目次、項目別目次
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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