ブラジルの裁判所はこのたび、Shell Brasil とBASF にSao Paulo州のPaulinia工場の従業員を毒性物質に曝した件で合計622百万レアル(354百万米ドル)の罰金を命じた。
従業員は高血圧や癌などの健康問題を抱えている。
裁判所はまた、両社が従業員や家族の肉体的及び精神的な被害の治療費用を負担すべきだとした。
上記の罰金に加え、両社は1000人以上の原告と、雇用中及び雇用後に生まれた子供に対し、治療費、検査費、賠償金として1人当たり64,500リアル(36,710US$) の支払いを命じた。
両社は被害者やその子供に権利を知らせるため、2大TVネットワークで広告を行うことも命じられた。
工場は1977年にShellが操業を開始、殺虫剤アルドリン、エンドリン、ディルドリンを製造した。
工場は2000年にBASFが引き継ぎ(下記)、2002年に閉鎖された。
ブラジルではこれら殺虫剤の販売は1985年に禁止された。
しかし、森林再生のためのシロアリ駆除剤としてのアルドリンの使用は認められた。これら殺虫剤の輸出用の生産は1990年まで続けられた。
1998年にこれら製品は完全に禁止された。
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2001年5月に残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)が採択され、2004年5月に発効した。
残留性有機汚染物質から人の健康と環境を保護することを目的とし、 (1) PCB等 9物質(アルドリン、クロルデン、ディルドリン、エンドリン、ヘプタクロル、ヘキサクロロベンゼン、マイレックス、トキサフェン、PCB) の製造・使用、輸出入の禁止 (2) DDTの製造・使用・輸出入の制限、 (3) 非意図的に生成されるダイオキシン等4物質(ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン及びポリ塩化ジベンゾフラン、PCB、ヘキサクロロベンゼン)の放出削減、 及び、これらの付属書掲載物質の廃棄物の環境上適正な管理等を定めている。
(2009年5月に新規9物質の附属書掲載が決定されたが未発効)アルドリン、エンドリン、ディルドリンは(1)の9物質に含まれている。
殺虫剤の生産中に、タンクからの漏れが見つかっている。
1990年代初めに国際研究機関が工場周辺の土地と地下水が殺虫剤アルドリン、エンドリン、ディルドリンに汚染されていることを発見した。
Shellは2001年に汚染を認めた。州政府はShellにクリーンアップを命じた。
州政府はShellが住民を殺虫剤の危険に曝したとの報告を出したが、Shellはこれを否定した。
2002年の州政府の調査で、近隣の土地、川、飲用水源が鉛、カドミウム、重金属、ベンゼン、トルエン、DDT、アルドリンなどに汚染されていることが明らかになった。更に工場の従業員の医療検査でShellの操業に伴う毒物に汚染されていることが分かった。
2005年初めに、Shellと州政府は協定を結んだ。
Shellは危険廃棄物を捨てたり、埋めたりしないこと、汚染地域を回復させること、井戸水の危険物や重金属のモニター、井戸で見つかった高濃度の危険物を除去する有効な手を打つことなどのほか、従業員の身体検査などで健康保護の手を打つことなどが決められた。
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Shellは1993年に農薬事業の中止を決定し、ブラジルを含め農薬事業をAmerican Cyanamid に売却した。
(Shell USA の農薬事業については1986年にDuPontに売却している。)
1994年にAmerican Home Products がそのAmerican Cyanamid を買収した。
その後、2000年にAmerican Home Products はAmerican Cyanamid をBASFに売却した。
この結果、Paulinia工場はShellからAmerican Cyanamid を経由してBASFに渡った。
BASFは、環境問題はShellが起こしたものであり、控訴するとしている。
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