名古屋市で開催されているCOP-MOP5(カルタヘナ議定書第5回締約国会議)は10月15日、遺伝子組み換え生物(Living Modified Organism:LMO)が輸入国の生態系に被害を与えた場合の補償ルールを定めた「名古屋・クアラルンプール補足議定書」を採択した。
輸入国が原状回復や賠償を求めることができる初の枠組みとなる。
COP10(生物多様性条約第10回締約国会議)が10月18日~29日に名古屋国際会議場で開催され、それに先立ち、COP-MOP5(カルタヘナ議定書第5回締約国会議)が10月11日~15日に開かれた。
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「生物多様性条約:Convention on Biological Diversity」は、ラムサール条約やワシントン条約などの特定の地域、種の保全の取組みだけでは生物多様性の保全を図ることができないとの認識から、新たな包括的な枠組みとして提案された。
1992年5月22日に採択され、リオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)において署名された。
翌1993年12月29日に発効し、2009年12月末現在、193の国と地域がこの条約を締結している。
日本も1993年5月に締結している。
米国は同条約を批准していない数少ない国の1つである。
第一条 目的
この条約は、生物の多様性の保全、その構成要素の持続可能な利用及び遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分をこの条約の関係規定に従って実現することを目的とする。
この目的は、特に、遺伝資源の取得の適当な機会の提供及び関連のある技術の適当な移転(これらの提供及び移転は、当該遺伝資源及び当該関連のある技術についてのすべての権利を考慮して行う。)並びに適当な資金供与の方法により達成する。
2010年は、国連総会の決議に基づき、国際生物多様性年に指定されている。
第6回締約国会議(COP6)で採択された「2010年までに生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」という目標年でもあり、これまでの取組を評価し、それ以降の目標を決める節目の年となる。
COP10では、2010年目標の達成状況の検証と新たな目標(ポスト2010年目標)の策定と、遺伝資源へのアクセスと利益配分に関する国際レジームをまとめる最終交渉を行い、文書を採択する予定。
遺伝資源の利益配分については、遺伝資源を使う先進国(利用企業への制約を小さくしたい)と資源を保有する発展途上国(利益配分の範囲を広げたい)の対立が激しい。
中国で生育するトウシキミに含まれるシキミ酸からつくるタミフルなどのように、植物などに含まれる有用な成分を利用することで生まれた製品が多く、企業がこれらから得る利益も膨大だが、遺伝資源をもともと保有していた国(主に開発途上国)に利益が還元されていないことや、富の行き先がバイオテクノロジーの発展した先進国のみであることが問題となっている。
遺伝資源へのアクセスとその利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分(ABS:Access and Benefit-sharing)の問題である。
途上国などは対象とする資源に化学合成物など「派生物」まで含めると同時に、先進国などが得てきた利益を過去にさかのぼって配分すべきだなどと要求している。
本件については、追ってまとめる。
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「バイオセイフティに関するカルタヘナ議定書:Cartagena Protocol on Biosafety」は、生物多様性の保全や持続可能な利用に対する悪影響を防止するため、遺伝子組換え生物(LMO)の国境を超える移送、利用等において講じるべき措置について規定したもの。
1995年のCOP2で合意され、1999年コロンビアのカルタヘナで開催された特別締約国会議で議定書の内容が討議されたのち、翌2000年に採択された。2003年に発効し、2009年12月末現在、157の国と地域が締結している。
第1条
この議定書は、特に国境を越える移動に焦点を合わせて、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に悪影響を及ぼす可能性のある遺伝子組換え生物(LMO)の安全な移送、取扱い及び利用の分野において十分な水準の保護を確保することを目的とする。
日本はカルタヘナ議定書を2003年に批准し、その実施のため2004年にカルタヘナ法という国内法を施行した。
同法は被害を防ぐ対象を野生生物に限定し、議定書が想定する人の健康や農作物は対象外にしている。
サントリーと100%子会社のAustralia Florigene が世界で初めて開発に成功した「青いバラ」が、2008年1月31日付で、カルタヘナ法に基づく第一種使用規定(切り花の用に供するための使用、栽培、保管、運搬及び廃棄等)の承認を得た。
2008/2/15 話題 サントリーの「青いバラ」
しかし、LMOの越境移動から生じる生物多様性への損害に関する「責任と救済」については各国が対立、2004年から交渉を続けていた。
COP-MOP5(5th Meeting of the Parties)では、この責任と救済に関するルールと手続などについて議論され、今回の名古屋補足議定書の裁決となった。
補足議定書の骨子は以下の通り。
・ | 遺伝子組み換え生物が生態系や人の健康に被害をもたらした場合、輸入国は原因事業者を特定し、原状回復を求めることができる。 |
・ | 事業者は組み換え生物の保有者、開発者、生産者、輸出入者、輸送者などを含む。 |
・ | 遺伝子組み換え生物から作られた加工品は適用の対象外。 |
・ | 原因事業者が補償しない場合、政府が代執行する。 |
・ | 政府は、あらかじめ原状回復できるよう基金創設などを事業者に求めることができる。 |
・ | 40カ国・地域が批准すると90日後に発効する。 |
被害を発生させる対象範囲が問題となり、輸入するアフリカ諸国は「組み換え作物から作られる加工品も損害を発生させる恐れがある」と繰り返した。
結局、輸出国の意向を尊重し加工品は除外されたが、輸入国が国内法で組み換え作物の範囲を定める裁量を容認するなど、随所に妥協が図られた。
名古屋補足議定書について、政府は来秋以降の批准を目指す。
国内法での対応については、政府は、「健康被害は食品衛生法、生態系被害はカルタヘナ法、農産物は民事訴訟法で対応できる」とし、新たに法律を制定したり法律を改正する必要はないとの立場を取っている。
目次、項目別目次
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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