ハンガリーのアルミナ工場から赤泥流出、ドナウ川に流入

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10月4日、ハンガリーの首都Budapestから西に約150kmはなれたAjkaにあるHungarian Aluminum Production and Trading Company (Magyar Aluminium Rt:MAL Rt.) のアルミナ工場の赤泥廃液を貯水する池の堤防が決壊し、貯水してあった赤泥廃液約100万立方メートルが流出し、廃液が周辺の街DevecserKolontarに流れ込んだ。

ハンガリー政府は5日、ヴェスプレーム県、ジェール・モション・ショプロン県、ヴァシュ県の3県に非常事態宣言を発令した。10月8日現在、7名が死亡、1名が行方不明、約150名が負傷となっている。
流出泥土にのみ込まれたり、有害物質に触れたことによるやけどなどが死傷の原因という。

更に、この廃液がドナウ川支流のMalcal川に流れ込んだ。

政府はMalcal川に石膏を流し込んで固め壁を作り、汚泥をせき止める方法を行ったが、これに失敗。7日昼ごろ、Gyor市付近でラバ川とモショニ・ドナウ川からドナウ川本流に到達した。

同国の災害対策当局によると、中和剤によるアルカリ度の引き下げで、ペーハー濃度は最高値に近かった13から9.1にまで低下しているが、それでも、ドナウ川の生物が生存可能な濃度である通常時の7‐8を依然上回っている。

その後、政府は、ドナウ川の生態系や環境への悪影響は広がらないとの見方を示した。

しかし、政府は9日、工場の近くのKolontar村の住民に避難勧告を出した。貯水池からの泥土流出は止まっているが、地盤が弱まっているため、更なる決壊が起きかねない状況にある。

原因については5月17日から6月5日までの間中央ヨーロッパを襲った洪水により池の水位が上がってしまい、決壊したとされる。

同社では、赤泥はEUの安全基準ではtoxic wasteには指定されていないとし、天災でどうしようもなかったとしている。

これに対し、ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相は、「自然災害とは考えられず、人為的なミスを疑うべきだ」と述べた。

ハンガリー内務省は10月11日、同社の社長を拘束した。

アルミナ製造過程では、ボーキサイトを粉状にし、苛性ソーダを加えて溶かし、水酸化アルミニウムを回収するが、その溶解残滓が赤泥である。
苛性ソーダが混じっており、生成直後は強い塩基性を示す。
赤い色は主成分であるFe2O3(酸化鉄)による。

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同社は1995年にアルミ産業の民営化で設立された。民営化された各社(Bakony ボーキサイト鉱、Ajka などのアルミナ工場、Inota アルミ精錬工場)を買収、一貫メーカーとなった。
しかし、
2006年初めにアルミ精錬を閉鎖し、現在はボーキサイト採鉱とアルミナ製造を行っている。

Inotaのアルミ精錬は1952年にスタート、能力は年産35千トン。
同社は2006
初めにこれを閉鎖した。
電力料の高騰で、採算が取れないのが理由。

なお、アルミナ工場のあるAjkaには年産22千トンの精錬工場があったが、1991年に電力料高騰で閉鎖している。

ハンガリーには他に2つのアルミ精錬があったが、全て閉鎖された。
・ Csepel
精錬:年産5千トン、1946年に第二次世界大戦での爆撃被害で閉鎖
・ Tatabanya
精錬:年産18千トン、1991年に電力料高騰で閉鎖

同社は2009年にハンガリーの2箇所の地下鉱、3箇所の露天堀で24万トンのボーキサイトを採掘した。
同社はまた、モンテネグロとボスニアからボーキサイトを輸入している。

アルミナ工場は事故を起こしたAjkaのほか、2箇所にある。また、ボスニア、スロベニア、ルーマニアなどのバルカン諸国のアルミナ会社に出資している。

製品アルミナの75%は西欧に輸出されている。

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日本では昭和電工、日本軽金属、住友化学の3社が国内でアルミナを製造しており、中和したうえで赤泥を海洋投棄しているが、環境問題から2015年までにボーキサイトの国内精製から撤退する。
住友化学は
2010 年4月海外で生産された水酸化アルミニウムを原料に全面転換を行った。

赤泥は産業廃棄物であり、産業廃棄物の海洋投棄は、1972年にできたロンドン条約(「1972年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」)で原則禁止されている。(日本では1973年11月発効)

ロンドン条約の付属書Ⅰの中に例外として産業廃棄物に当たらないという項目がある。
その一つが「汚染されていない不活性な地質学的物質であって、その化学的構成物質が海洋環境に放出されるおそれのないもの」。
日本国内法では、中和した赤泥がこの条件に当てはまるとし、例外項目として赤泥の海洋投棄を「特別」に認めている。

しかし、3社は海洋汚染の影響などを考慮、自主的に撤退の方針を決めた。

2008/3/8 アルミナメーカー、ボーキサイトの国内精製から撤退へ

2010/9/6 昭和電工、インドネシアでアルミナ工場建設 

 


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