法人税率の5%引き下げの約 2兆円の財源として石化原料用ナフサの免税措置の縮小・見直し案が取り上げられた。
2010/11/3 法人税率引き下げとナフサ課税
この案は消えた模様だが、財源が不足し、法人税率の5%引き下げが危うくなっている。
12月12日の閣僚協議でも、野田財務相は「財源がなければ下げ幅は5%未満にすべき」という考えを変えず、5%の引き下げを主張するほかの閣僚との間で意見が対立した。
付記
菅直人首相は13日夜、焦点となっている法人税率の引き下げについて、国と地方をあわせた実効税率(40.69%)を5%幅引き下げるよう、野田務相や玄葉国家戦略相に指示した。企業の税負担を減らすことで首相が掲げる「経済成長と雇用拡大」につなげる。
実効税率を5%幅引き下げると、税収は国と地方合わせて1兆5千億円程度減る。政府税調は、減収分を企業向けの減税措置の縮小などによる増税でできるだけ穴埋めしたい考えだが、「繰り越し欠損金」や減価償却制度の見直しなど、企業増税で捻出できる財源は6500億円にとどまり、企業にとっては、差し引きで「実質減税」となる。
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経済評論家の池田信夫氏が12月10日のブログ「日本の法人税率は高いか」で、6月24日付の赤旗の記事を引用しているが、そのなかにナフサ免税に関し、以下のような、誤解を生じかねさせない記載がある。
法人税率の引き下げをめぐる論争が大詰めを迎えた。財務省は租税特別措置の削減を交換条件にしようとしているが、日本経団連は強く抵抗している。他方、赤旗は「日本の法人税率は高くない」と、次のような調査結果を示している。どれが正しいのだろうか?
正しいのは赤旗である。経常利益の上位100社というバイアスはあるが、日本の法人税がいかに歪んでいるかをよく示している。ニューズウィークでも書いたように、日本の大企業に対する実効税率は、租税特別措置(租特)を入れると必ずしも高くない。法人税収(国・地方)の9.7兆円に対して租特は5.9兆円もあり、国の歳入に占める法人税収の比率は5.5%で先進国では低いほうだ。
ソニーやパナソニックの税率が低いのは海外法人に利益を分散しているためだが、住友化学が16.6%しか税金を払っていないのは、ナフサの租特が原因だ。これは3.7兆円も免税されており、税調でも1兆円ぐらい減らしてはという話が出たが、日本経団連が「石油製品が値上がりしてもいいのか」と反対して見送りになった。しかし環境税が議論になっているときに、こういう「負の炭素税」を残すのはおかしいのではないか。
同氏は追記やコメントで記事の補正をしている。
赤旗の集計は単純に法人税額を本社(単体)の税引き前利益で割ったも のと思われます。これでは海外法人の利益のように二重課税として控除すべき項目と、租特のような特例措置が混同されるので正確ではないが、日本の法人税に 抜け穴が多いという共産党の主張は正しい。
ナフサの租特は法人税ではないので、赤旗の記事は不正確だ。ただ共産党は、ソニーの海外法人の利益も住友化学のナフサの利益も「課税されるべき利益」として計算していると思われる。
日本の法人税率は、本則では高いので、引き下げが必要です。税率を下げて租特には手をつけるなという財界の主張は老人エゴで、租特を削減して税率を下げるのが本筋。
ナフサについては、共産党の集計は租特を「本来の負担」として計算しているので、こういう税率になっているのだと思います。これについては「原料費には課税すべきでない」とか「課税している国はない」というのが財界の主張ですが、これは揮発油税の暫定税率と同じで、むしろ炭素税として恒久的に課税すべきです。
今回の税制改正を単なる法人税率論争に終わらせず、抜け穴だらけでスパゲティ化している税制を簡素化する突破口にしてはどうでしょうか。
最後の結論は賛成だが、この補正でも問題点が残っている。
1)ナフサの利益
ナフサの減免分は石化会社の利益にはならず、需要家に還元され、最終的に国民全部が恩恵を受けている。
世界中で原料ナフサは課税されていないため、石化製品の国際価格は非課税ベースで形成されている。
このため、日本の石化製品の価格も、ナフサの課税がない水準で決まっており、ナフサ特措は会社の利益になっていない。
従って、本来、法人税の対象になるものではない。
記事ではナフサの特措は3.7兆円とあるが、日本のエチレンセンター全体の連結営業損益が最も儲かった2006年でも4,000億円を下回っている。
逆に、もし3.7兆円を課税されれば、日本のメーカーだけがそれを転嫁することはできず(もしやれば輸入品に置き換わる)、各社はほぼ確実に破たんする。
その意味では、法人税収(国・地方)の9.7兆円に対する租特も、5.9兆円ではなく、2.2兆円である。
(これには赤字の繰り越しや研究費の税額控除などが含まれ、今後の議論の対象となる)
2)配当の非課税
同氏は海外法人の配当を上げているが、国内子会社からの配当も同様である。
海外法人からの受取配当は2009年4月から非課税となった。
それまでは、海外の税率が低い場合、国内税率との差が課税された。国内については、25%以上の子会社等の場合、配当が全額非課税となる。
いずれも子会社で税金を払っているため、二重課税を避けるもの。
赤旗は「海外進出を進めている多国籍企業には外国税額控除などの優遇措置があり、40%の税率は骨抜きにされています」とし、二重課税防止を「優遇措置」としている。
住友化学の税率が低いのは、このためである。
赤旗と同様、2003~09年度の同社の決算を分析すると以下のようになる。(単位:百万円)
税引前損益累計 (a) 250,105 受取配当累計 (b) 209,820 受取配当除外 損益累計 (c=a-b) 40,285 支払法人税等累計 (d) 41,417 表面税率 (d/a) 16.6% 実質税率 (d/c) 102.8%
表面税率は赤旗の言う通り16.6%であるが、受取配当を除くと100%を超える。
実際には海外子会社の配当は以前は一部課税されており、厳密な計算ではない。
また、税金計算では、租特の研究費の税額控除や赤字の繰り越しのほか、交際費・寄付金の課税など、いろいろの調整がある。
住友化学は自社の利益が非常に少なく(ナフサの利益がないことを示す)、子会社等からの配当が大きい。
同社自身の税金は41,417百万円となっているが、子会社の大日本住友製薬(2005年9月までは住友製薬)は同期間で88,254百万円の税金を払っている。(住友化学の持株比率は50.22%)
連結決算をみると、支払法人税等の累計は239,243百万円、表面税率は36.6%で、税引間損益から受取配当と持分法損益(税引き後の損益の持分が加算されている)を除いたものでみると44.2%となる。
このため、住友化学全体でみると、税金の支払額は多く、税率はむしろ高い。
表面税率が低いのは、決してナフサの利益のせいではない。
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各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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