溶液重合法スチレンブタジエンゴム(S-SBR)の増設が相次いでいる。
本年夏以降、日本の4社が相次いで増設を発表した。うち、3社はシンガポール立地である。
12月20日はダウから分離したStyronがドイツSchkopauでの増設を発表した。
JSR | 旭化成 | 住友化学 | 日本ゼオン | Styron (Dowから分離) | |
発表 | 2010/7/30 | 2010/10/18 | 2010/11/25 | 2010/12/22 | 2010/12/20 |
製品 | S-SBRと ダイナロン(水添ポリマー) |
S-SBR | S-SBR | S-SBR (S-BR 併産) |
S-SBR |
立地 | 四日市 | シンガポール ジュロン島 テンブス地区 |
シンガポール ジュロン島 メルバウ地区 |
シンガポール ジュロン島 |
Schkopau, Germany |
能力 | 25千トン | 50千トン (第2期として50千トン) |
40千トン | 第1期 30~40千トン (第2期 30~40千トン) |
50千トン |
稼動予定 | 2011/11 | 2013/6 (第2期は2015年前半) |
2013/4Q | 第1期 2013/7 | 2012/4Q |
S-SBR 既存能力 |
四日市 35千トン Schkopau, Germany |
(BRと併産) 川崎工場 105千トン 大分工場(*) 35千トン 合計 140千トン (*)日本エラストマー (旭化成75%、昭電25%) |
千葉 8千トン | 徳山 55千トン | 既存能力 不明 2009/3 60千トン (JSRが30千トンの引取権) |
SBRは、ブタジエンとスチレンを主原料とする合成ゴムで、製造法により乳化重合法によるE-SBRと、溶液重合法によるS-SBRの2タイプがある。E-SBRは汎用タイヤ向けが主体。
S-SBRの主な用途は自動車のタイヤトレッドで、タイヤの安全性能(グリップ力)を確保しつつ省燃費性能(転がり抵抗)を同時に向上させるというニ律背反の関係を解決する材料として、省燃費型高性能タイヤ用の需要が急速に拡大している。
Styronは2009年に60千トンの増設を行ったばかりだが、更に50千トンの増設を発表した。
同社では省エネタイヤ用のS-SBRの需要が増えているが、今後、欧州の環境規制強化により更に増加すると見ている。
EUは2012年にタイヤの「ラベリング(表示)制度」を導入する。
タイヤの転がり抵抗(燃費)、ウエットグリップ(雨天時のスリップ防止)、騒音量の3つの性能をラベルで表示する。
消費者はラベルを確認し、環境性能に優れたタイヤを容易に選べるようになる。また、燃費規制でCO2排出量120g/kmが導入される。(2004 年実績比で約26%の減少)
(車両・エンジンの技術改良により130g/km以下にし、タイヤの性能などの技術改良やバイオ燃料の利用促進などで、10g/km削減し、120g/kmとする。)
但し、2012年には新車販売台数の65%、13年には同75%、14年80%とし、15年にすべての新車に対して適用する。
日本の各社も、環境規制の強化や環境意識の高まりを背景に世界的に省燃費型高性能タイヤの需要が拡大しており、特にアジアではモータリゼーションの急速な進展とタイヤ生産のアジアへのシフトにより、タイヤ用ゴム市場の成長が続いていることから、増強を行う。
なお、3社がシンガポール立地を決めたが、日本ゼオンは理由として、1)生産環境の安定、安全性、2)主原料であるブタジエン調達、3)市場へのアクセスから選択したとしている。
住友化学も、当初は千葉での増設を計画したが、1) 成長するアジア市場への供給上の地理的優位性、2) 今後ひっ迫が懸念される原料ブタジエンの安定的な確保、3) 同社グループの既存事業との連携といった観点から、シンガポールでの建設を決定した。
今後、日本でエチレンの減産が予想され、原料ブタジエンが不足するのを懸念したのが大きな理由。
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Dowの合成ゴム事業は、旧東ドイツの合成ゴムメーカーの統合でできたBuna Sow Leuna Olefinverbund (BSL) の事業で、Dowが1997年9月にBSLの80%を買収、2000年6月に残り20%をドイツ政府から買収した。
Dowは2009年5月に合成ゴム事業の売却を検討していることを発表した。
最終的に、スチレン系事業に含め、Bain Capital Partnersに売却、Styronとして独立した。
2009/5/21 ダウ、合成ゴム事業の売却を検討
なお、JSRは2003年1月1日付でDowとの間でS-SBRの生産委託契約を締結、DowのSchkopau工場で製造したS-SBRを引取り、欧州で販売した。
その後、JSRは2007年に、Dowから建設中の60千トンのS-SBRプラントの能力の50%、年30千トンの引取権を取得した。
2009年3月の稼働に伴い、製品の引取を開始した。
JSRはEUで2012年の二酸化炭素排出規制強化で省燃費タイヤ用途でS-SBRへのニーズが一層高まると見込み、供給の安定化を図ったもの。
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なお、他の合成ゴムでも増設がある。
宇部興産は7月、アジア地区でのポリブタジエンゴム(BR)の需要拡大に対応するため、千葉のBR製造設備を15千トン増強することを決定した。
同社の能力は以下の通り。
千葉 95千トン→110千トン(2012/8)
タイ 72千トン
中国 50千トン→72千トン(2011/末)→87千トン(2013/8 検討)
エクソンモービルは10月、同社とJSRの50/50出資の日本ブチル川崎工場のブチルゴム(IIR)の増強が完了したと発表。
能力 80千トン→98千トン
インドのReliance Industries とロシアのSIBURは12月21日、ブチルゴム(IIR)のJV設立を発表した。
JV :Relianceがマジョリティ
立地:RelianceのインドJamnagarのIntegrated refining-cum-petrochemical site
能力:100千トン
技術:SIBUR
丸紅は4月に、インドでIndian Oil Corporation(IOCL)と、台湾TSRC と共同で、SBRの製造販売を行う合弁会社を設立することで合意した。
会社名 :Indian Synthetic Rubber Limited(予定)
所在地 :インド ハリヤナ州パニパット
株主構成 :IOCL 50%、TSRC 30%、丸紅20%
能力 :120千トン
稼働予定 :2012年
-------2010/4/12 丸紅、インドでSBR生産
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各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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