BPの原油流出事故で、大統領指名の調査委員会は1月6日、最終報告書の第4章を公表し、最大の原因はBPや油井掘削に携わった企業の「管理の失敗に起因する」との見解を明らかにした。最終報告書は11日に発表する。
Obama大統領が2010年5月20日、この調査委員会を設置した。
内容は以下の通り。
爆発は多くの別々のリスク、見過ごし、明白なミスが合わさり、安全対策を上回ったことによるが、多くのミスや見過ごしは管理の失敗に起因する。
BPとコントラクターのHalliburton、Transocean の管理がしっかりしておれば、関係者がリスクに気が付き、連絡し、対応することにより、事故を防げたであろう。
BPだけの問題ではなく、システム全体の問題である。
各社が安全第一を心掛けておれば、事故は起こらなかったであろう。また、もし政府の関係当局がワールドクラスの安全基準を求めておれば事故は起こらなかったであろう。
事故はBP、Halliburton、Transoceanのいくつかの個別のミス、見過ごしの産物であり、政府の当局がそれを防ぐための権限、必要な人材、技術的な専門知識を欠いていた。
Transoceanは掘削作業を、Halliburtonはセメント作業(井戸内、または井戸と鉄管との間のセメント作業)を担当。
事故は二度と起こらないような常軌を逸したミスによるのではなく、真因はシステミックなもので、業界の慣行と政府の政策の改革がなければ、再び起こる可能性がある。
技術的ミス、運営上の失敗の例は以下の通り。
・最終段階での井戸のデザインの決定におけるリスク評価が不適切
・井戸の底部をシールするのに使うセメントスラリーのデザインの欠陥
・井戸の底部のセメントシールの評価のための“negative pressure test”で問題が分かったのに、テストの手続きが不十分で、責任者のトレーニングが十分なため、誤って成功と判断した。
・掘削した穴から泥を取り除くという不要なことを求めた誤った手続き
(泥が残っておれば、爆発は防止できた)
・爆発の予兆を見逃した。
・爆発への不十分な対応(爆発防止設備が機能しなかったことに限らない)
これらのミスは避けられたはずのもので、少なくともBP、Halliburton、Transoceanの3社のエラー、判断ミスが原因である。
政府の規制当局も多くの重要な問題をみていなかった。(例、negative pressure test の基本手続きについての規則がない)
意図的かどうかにかかわらず、事故のリスクを増大させることとなった3社の多くの決定は明らかに時間と金の節約になった。
その内容は以下の通り。
代替案の存在 | 代替案より 時間節約 |
意思決定者 | |
Not waiting for more centralizers | Yes | Saved time | BP(陸上) |
Not waiting for foam stability test results and/or redesigning slurry | Yes | Saved time | Halliburton (& BP)(陸上) |
Not running cement evaluation log | Yes | Saved time | BP(陸上) |
Using spacer made from combined lost circulation materials to avoid disposal issues | Yes | Saved time | BP(陸上) |
Displacing mud from riser before setting surface cement plug | Yes | Unclear | BP(陸上) |
Setting surface cement plug 3000 feet below mud line in seawater | Yes | Unclear | BP(陸上) US Minerals Management Service が承認 |
Not installing additional physical barriers during temporary abandonment procedure | Yes | Saved time | BP(陸上) |
Not performing further well integrity diagnostics in light of troubling and unexplained negative pressure test results | Yes | Saved time | BP (&Transocean) (現場) |
Bypassing pits and conducting other simultaneous operations during displacement | Yes | Saved time | Transocean (& BP)(現場) |
参考 2010/11/25 BP原油流出事故で新事実
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この発表を受け、3社は以下のコメントを行った。
BP:
報告書は、自社の内部調査と同じく、事故は「複数の企業がかかわる複数の要因によるもの」だったと結論付けている。
今回の事故を教訓に、深海掘削業務の改善に取り組んでおり、既に一部改革を断行し、安全とリスク管理面を強化している。
Halliburton:
セメントスラリー(セメントと水の混合液)はBPの仕様どおり調合されており、最終的な実験でも問題はなかった。
委員会は会社が提出した無罪を証明する証拠を意識的に除外している。
Transocean:
爆発直前までの数時間に取られた手続きは、BPのエンジニアが考案・指示し、連邦規制当局による承認を事前に得たものだった。当社の作業員は、入手し得る限られた情報を基に、事態を掌握するための適切な措置を取った。
なお、Exxon MobilのCE0は1月6日の会見で、報告書が業界の問題としたことに反論した。「委員会は業界全体の調査をしておらず、長年にわたる安全の実績を無視しており、結論に同意できない」と述べた。
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調査委員会は2010年11月8日の中間報告で、「事故に関して、これまでのところ、BPがコストカットのために意図的に安全性を犠牲にしたという証拠はない」としたが、これはどういう意味だったのだろうか。
2010/11/16 BP原油流出事故の現状
今回の報告の結論は「事故は二度と起こらないような常軌を逸したミスによるのではなく、真因はシステミックなもので、業界の慣行と政府の政策の改革がなければ、再び起こる可能性がある」というものだが、これは、BPに「重大な過失、意図的な違法行為」はないということであろうか。
「重大な過失、意図的な違法行為」がなければ、Clean Water Actによる罰金が少なくなるほか、Anadarkoや三井石油開発への求償問題に影響する。
Clean Water Actでは原油の流出量1バレルに対して、1,100ドルの罰金が決められている。
但し、重大な過失による場合は、罰金は4,300ドルとなる。流出量が300万バレルとしても、過失無しの場合で罰金は33億ドル、重大な過失があるとされれば、129億ドルとなる。(500万バレルの場合、55億ドルと215億ドル)
米司法省は昨年の12月15日に、BPと三井石油開発子会社MOEXなど計9社を相手取って、損害賠償請求訴訟をルイジアナ州ニューオーリンズの連邦地裁に起こしており、結局は裁判で決まることとなる。
2010/12/17 米司法省、BP原油流出事件で提訴
付記
政府の調査委員会は1月11日、最終報告を発表した。
https://s3.amazonaws.com/pdf_final/DEEPWATER_ReporttothePresident_FINAL.pdf
報告書は事故は避けられたとし、直接の原因はBP、Halliburton、Transoceanの一連のミスで、リスク管理の組織的な失敗とした。
深海でのエネルギー開発はリスクを含むが業界も政府も準備できていないとし、改善策として、安全対策や流出を止めるための科学的研究を強化し、内務省に監督機関を新設することを提案している。
改善策の資金を捻出するために、石油会社に課す罰金や採掘料の引き上げを提案。また、採掘施設の事故を起こした企業の賠償額を最大7500万ドルとする上限の撤廃も盛り込まれた。
BPなど3社の刑事責任については司法省の判断に委ねた。
目次、項目別目次
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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