甘味料トレハロースを開発したバイオ関連企業の林原グループ4社(林原、林原生物化学研究所、林原商事、太陽殖産)が私的整理の一種「事業再生ADR」(Alternative Dispute Resolution:裁判外紛争解決)を民間の第三者機関に申請し、受理された。
同社が1月25日に明らかにした。
事業再生ADRは第三者の仲介により、債権者と債務者が話し合いで事業再生計画を作成し、再建を目指す。会社更生法などの法的整理に比べて、手続き期間が短いのが利点。
付記
「事業再生ADR」手続きを申請した林原の第1回債権者集会が2月2日、都内で開かれた。
同社が希望した私的整理を断念し、会社更生法の適用を同日中に申請することが明らかにされた。
林原グループは林原家の同族企業で、1883年に水あめ製造業「林原商店」として岡山市で創業。1994年、でんぷんを糖質トレハロースに変える酵素を発見し、世界で初めて大量生産に成功した。
現在、次のようなユニークな製品を扱う。
食品素材 | トレハロース、低カロリー甘味料「マルチトール」、ビフィズス菌増殖効果にすぐれた「乳果オリゴ糖」、フィルムやカプセルに加工できる「プルラン」など |
化粧品素材 | ブドウ糖を結合させた安定型ビタミンCのAA2G(医薬部外品)、ブドウ糖を結合させ水溶性を高めたヘスペリジン、天然由来の色材天然色材など |
医薬品素材 | インターフェロン、自己免疫疾患治療薬「インターロイキン18」、抗ガン作用と免疫抑制作用を持つ血液細胞「HOZOT」、酵素・微生物技術から生まれた点滴液の原料の医療用マルトースなど |
健康食品素材 | 天然成分で構成 |
機能性色素 | 3万種の色素を保有 |
試薬 |
メセナ活動ではチンパンジー研究や恐竜化石の発掘調査を行ったり、美術館の運営を支援している。
・ 林原生物化学研究所類人猿研究センターを設立。また林原の寄付で京大霊長類研究所(愛知県犬山市)に、ヒトに近い類人猿ボノボ専門の研究部門を国内で初めて設置した。 ・ モンゴル古生物学センターと連携し、ゴビ砂漠で調査、新種の恐竜化石やティラノサウルス科の恐竜の子どもの全身化石などを発掘した。 ・ 林原自然科学博物館、林原美術館
林原グループは、岡山駅の至近の一等地に約45,000㎡の土地(岡山藩主であった池田家の元所有地)を持っており、ザ ハヤシバラシティとして再開発する構想を発表しているが、進展を見ていない。
メーンバンクの中国銀行の株式をグループ各社で10%以上取得し、筆頭株主となっている。
同族で経営陣を固め、非上場を貫く経営方針で情報公開もあまりしていない。
研究開発志向の会社で、長期にわたり開発投資が先行する事業構造になっており、金融機関からの借り入れで資金調達を進めてきたが、景況悪化で保有する土地や有価証券の資産価値が劣化し、資産規模に対して債務が膨らむ状況に陥った。
林原の借入金総額は約1400億円で、メーンバンクの中国銀行の420億円のほか、住友信託銀行の280億円など取引銀行は約30行。
同社は1991年ごろから2001年まで300億円近い架空売り上げを計上し、損失を隠していた疑いがあるという。
同社は1月26日、最近の業績を発表した。
不正経理問題については、専門家も交えて調査を行っているとしているが、事業自体は堅調に推移してきているものと認識していると述べている。
(単位:百万円) 平成20年10月期 平成21年10月期 平成22年10月期 売上高 28,333 28,268 28,113 営業利益 2,818 3,678 4,511 経常利益 -265 575 1,218
中国銀行は「同社グループの事業性及び県における高い貢献度を考慮し、主力行として相応の支援及び協力を行う方針で検討している」としているが、他行の反応は複雑とされ、ADRが成立するかどうかは予断を許さない状況。
石井岡山県知事は「大変驚いている。本県を代表する老舗企業であり、研究開発型企業として大きな役割を果たしてきた。早期の再生を望んでいる」とコメントした。
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同社の歴史は以下の通り。
1883年 | 林原商店創業 | |
1935年 | 酸麦二段糖化法による新しい水飴の製造法完成 | |
1946年 | カバヤ食品 創業、水飴を使ったキャラメル等の販売 | 1979年 林原グループより離脱・独立 |
1959年 | 世界初の酵素糖化法によるブドウ糖の工業化に成功 | バイオ分野へ進出 |
1961年 | 前社長の死亡で現社長が社長に就任 | 「デンプン化学」(ファインケミストリー)進出 |
1968年 | 酵素法による高純度マルトースの新製法開発 点滴のエネルギー補給剤、低カロリー甘味料原料 |
医薬品分野進出 |
1973年 | プルラン(多糖)の開発に成功 | 30年後に生分解性プラスチックとしてブレーク リステリン・フィルム、カプセルなど |
1978年 | 虫歯になりにくいカップリングシュガー(オリゴ糖)の製造技術開発 | |
1979年 | 1FNなど各種生理活性物質の工業的生産技術の確立 | |
1990年 | 安定型ビタミンCの大量生産技術開発 | |
1994年 | 酵素法によるトレハロースの安価・大量生産技術の開発 それまでは酵母から抽出しており、非常に高価 28千株をテストして耐熱酵素を発見 |
現在、年間3万トン生産 約1万種類の食品で使用 |
1995年 | 新規サイトカインlL-18を発見 | |
2002年 | 環状四糖の大量生産技術の開発 | |
2005年 | 新規環状四糖を発見 | |
2006年 | 新規環状五糖を発見 | |
2006年 | 抗ガン作用と免疫抑制作用を持つ臍帯血由来の血液細胞「HOZOT」の発見 | |
2007年 | 文化財補修用の古糊の製法(10年かかる熟成を2週間で) | |
2010年 | 「トロイの木馬」型 新抗癌メカニズムを発見 T細胞「HOZOT」(ホゾティ)が、癌細胞を選択して、その中に積極的に侵入し、内部から癌細胞を死滅させる現象の確認 |
林原の研究・経営哲学は非常にユニークである。
「研究に関しては10年かけてもいいから独創的な研究を」というのが経営方針で、オーナーのこの意見が反映できるよう、株主の意見に左右されないよう、非上場を続けてきた。
「ニーズは考えない」、
「自分たちで市場を創る、No.1でなく Only1を目指す」、
「あきらめなければ失敗ではない」
が同社のモットーである。
一般企業のようにニーズから入るのではなく、①最も得意な分野で他社がしないこと、新しいものを目指し、②持っている知識、技術を最大限発揮し、③新しいモノを見つけたら、大量生産技術を確立する。④そのあとで、ニーズを考え、自分たちで市場を創るというやり方をとっている。
「No.1」でなく「Only1」を目指しており、下記の実績がある。
世界にないモノ カップリングシュガー、プルラン、乳化オリゴ、糖転移ビタミンC、
環状四糖、環状五糖世界にない製法 インターフェロンα、インターフェロンγ、トレハロース
「あきらめなければ失敗ではない」とし、プルランでは30年後に新しい需要を見つけている。
トレハロースでは最初にみつけた酵素が熱に弱く問題があったため、耐熱酵素を探したが、なんと28千株をチェックしてようやく見つけたという。
資料:武田計測先端知財団の2008年2月「武田シンポジウム2008」の記録 「選択」
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オーナーの意向、理念が強力に反映されている。
そのための非上場は理解できるが、自己資金の範囲ならともかく、多額の借入金での運営は無理があると思われる。
林原は1月27日、創業家出身の林原健社長と弟の靖専務が辞任すると発表した。今後、研究方針も変更される可能性がある。
後任の社長には、福田恵温・林原生物化学研究所常務が就く。(上記シンポジウムでのスピーカー)
NHK教育テレビの番組「仕事学のすすめ」で2月に林原健社長が出演する予定だったが、NHKは急きょ放送内容変更を検討している。
目次、項目別目次
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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