京都大学は2月1日、京大のiPS 細胞技術に関する知的財産の管理活用会社 iPSアカデミアジャパンを通じて、米国のiPierian Inc.にiPS細胞関連特許のライセンスを許諾し、iPierian Inc.から同社保有のiPS細胞特許を譲り受けたと発表した。
・京大は、iPierianが保有するiPS細胞製造に関する特許(特許出願を含む)を譲受。
・京大は京大のiPS細胞製造に関する基本特許(特許出願を含む)の非独占的なライセンスをiPierianに許諾。
iPierianは、全世界で京大有するiPS細胞関連特許に基づき、ヒト用治療薬の研究開発を行うことができる。
・山中伸弥 iPS細胞研究所長が、iPierianの科学諮問委員会委員に就任。
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バイエル薬品神戸リサーチセンターの研究チーム(桜田一洋センター長ほか)は山中伸弥京大教授らが2006年8月にマウスiPS細胞の作成を発表した直後から、ヒトでの研究を始めた。
山中教授らのチームより早く、ヒトの「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を作成し、バイエルは2007年6月15日付けで国内で特許を出願した。
その後、これに基づき世界各国に出願しており、2010年に英国で特許を取得した。
2008年12月25日付けで特許庁がこれ(日本国特許出願第2007-159382号)を公開した。
作り出したiPS細胞そのものを特許として出願している。
主な作製法は、(1)山中教授が使った4遺伝子、(2)がんに関連する遺伝子を除いた3遺伝子、(3) 3遺伝子と化合物で作る方法がそれぞれ記載された。元になる細胞は、ヒトの新生児の臍帯や皮膚などから取り出した、いろいろな組織の細胞に分化していない状態の幹細胞。分化した細胞を使う山中教授らの方法と違う。
バイエル薬品は2007年に日本シエーリングと統合したが、2007年12月に神戸リサーチセンターを閉鎖した。
Bayer Healthcare は2003年12月、Berkeley (米国カリフォルニア州)で行っているバイオテクノロジー研究の組織を縮小再編し、日本のバイエル薬品中央研究所を閉鎖すると発表した。
神戸リサーチセンターはその後も存続していたが、日本シェーリングとの統合を機に閉鎖した。
バイエル薬品で開発に当たった桜田センター長は、米ベンチャー企業が2007年に設立したiPS細胞による医薬品スクリーニング会社の iZumi Bio, Inc. の最高科学責任者(CSO)に就任した。
(桜田氏はその後 iZumi Bio を退社、2008年9月より ソニーコンピュータサイエンス研究所のシニアリサーチャーとなっている。)
バイエルは2009年2月12日、特許出願中のiPSに関する権利をiZumi Bio に譲渡すると発表した。
バイエル薬品は研究所閉鎖時点でバイエルとしてiPS 細胞のビジネスはやめると判断したとしている。
京都大学は2009年4月14日、iPS細胞の研究で iZumi Bio と協力することで合意したと発表した。
研究協力は1年間(更新あり)で、互いが作成した iPS 細胞を交換し、比較したり特性を評価したりして、新薬開発や細胞治療に最適な作製法を探る。
iZumi Bioは2009年8月、Pierian, Incと統合し、iPierian, Inc.となった。
以上の通り、京大が今回譲り受けたiPierianの特許は、桜田一洋氏らがバイエル薬品の神戸リサーチセンターで行った研究に基づくものである。
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京大は2009年11月に日本で特許を取得、iPierianは2010年に英国で特許を取得した。
米国では、米国特許庁がどちらが先に発明したかを選定する審判(Interference)の開始を宣言する可能性が高まった。
米国では先願主義でなく、先発明主義のため、係争になると、どちらが先に発明したかの調査などに膨大な時間と多額の費用がかかる。
このため、iPierianは昨年末に、山中所長の発明を尊重し、将来想定される京大との特許係争を回避するため、同社保有特許を京大に譲渡したいと申し出た。
金銭のやり取りはなく、見返りにiPierianは、全世界で京大有するiPS細胞関連特許に基づき、ヒト用治療薬の研究開発を行うことができる。
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