NHK BS 世界のドキュメンタリーで2夜にわたり、「岐路に立つタールサンド開発~カナダ 広がる環境汚染~」が放映された。
「タールサンドは石油枯渇時代の救世主となるのか、それとも開発による環境破壊は石油ヘの依存を見直すきっかけとなるのか。岐路に立つタールサンド開発を追う」(NHK ホームページ 前、後)
カナダのアルバータ州には1兆6000億バレル以上のタールサンド(=オイルサンド)が埋蔵されている。
露天掘りと油層内回収法がある。
前者は、原油を含んだ砂を掘り出し、熱湯をかけて油(Bitumen)を抽出する。
後者は、地下深くのオイルサンド層にパイプを通して大量の熱い蒸気を注入し、Bitumenを流動化してポンプで汲み上げる。
Bitumenに改質装置で熱と圧力を加えて合成原油を精製する。
詳細は 2008/2/4 Dow Canada、オイルサンドからのエタン、エチレン購入契約
採掘場の近くには、人工貯水池があり、Bitumenを抽出する過程で出る有毒物質を含んだ排水や泥が貯められている。
貯水池は老朽化し、有毒物質が川に流れ出している。
Bitumen精製では大量の温室効果ガス(通常の原油精製の3倍)と汚染物質が排出されている。
周辺に暮らす先住民族に深刻な健康被害が起き、癌による死亡が続出している。
しかし、アルバータ州政府は科学者たちの警告に耳を貸そうとしない。
先住民族が問題を世界に訴え始める。2009年にはCOP15の開催中にコペンハーゲンを訪れ、タールサンドの危険性を主張した。タールサンド開発に参加しているStatoilの株主総会で危険性を訴えた。
ジェームズ・キャメロン監督が現地を訪れ、架空のアバターの世界が実際にあったと驚き、環境改善を訴えた。
学者が厳密な調査を行い、水質汚染、空気汚染の実態を発表した。
この結果、カナダ連邦政府も州政府の調査が不備であったことを認めた。
州政府も再調査と住民の健康調査を約束した。
しかし、中東の原油依存を避けたい米国は、カナダのタールサンドの受け入れの方向に向かっている。
クリントン国務長官は、「中東の汚い石油か、カナダの汚い石油か、アメリカの選択肢は2つです」と述べている。
ある科学者はこう述べている。
「タールサンドに関してはアメリカも共犯者です。カナダが売る麻薬を買い続ける中毒患者のようなものです」
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先住民族が株主総会で訴えたノルウェーのStatoilに対しては、GreenpeaceとWorld Wide Fund For Natureが、温室効果ガスの大量排出を問題とし、カナダのタールサンドからの撤退を要求している。
5月19日の株主総会で3年連続で撤退の動議を提出する。株主の中にも保険会社のStorebrandなどがこの動議に賛成している。
しかし、Statoilの67%の株主であるノルウェー政府は、政府としてはStatoilのタールサンド問題に介入しないとしている。
通商産業大臣は3月31日、「タールサンドへの投資は企業が決定する問題であり、株主としての政府が決めるものではないという結論だ」と述べた。
Statoil側は、タールサンドへの投資を進めるとし、技術ノウハウを駆使して問題を改善し、14年間で温室効果ガスを40%カットするという目標を達成するとしている。
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Statoilは北海油田の埋蔵量減少を補うため、2007年4月にカナダのベンチャーのNorth American Oil Sands Corporationを22億カナダドルで買収した。
North American Oil SandsはAlberta州のAthabasca 地区でKai Kos Dehseh project を操業している。
2009年頃に日量1万バレルのパイロット生産が始まり、2011年には商業生産を開始、2015年頃までには日量10万バレルの生産が期待されている。
10年後には日量20万バレルを期待している。
2010年10月、Statoilは同社の40%を22.8億米ドルでタイの PTT Exploration and Productionに売却することで合意した。
Statoilは残り60%を引き続き保有し、生産と販売を担当する。
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中国勢もオイルサンド(タールサンド)事業に相次いで参加している。
2005/4 中国海洋石油 カナダのオイルサンド開発企業・MEGエナジーの株式の16.69%を買収 2009/9/10 PetroChina、カナダのオイルサンド事業に参加 Athabasca Oil Sands 2005/6 Sinopec、Northern Lightsにおけるオイルサンド事業の権益の40% をSynenco Energy から買収
2009年に50%にアップ2010/4/16 Sinopec、カナダのオイルサンドに投資 ConocoPhillipsのオイルサンド事業会社 Syncrude Canada
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同様の環境問題はシェールオイルも抱えている。
地震のために再放送が延期になったが、NHKの世界のドキュメンタリーの「ガスランド ~アメリカ 水汚染の実態~」がこれを取り上げている。
「世界の資源地図を塗り替えると期待される、新しい天然ガス『シェールガス』。その開発に疑惑を持ち、コロラド、ワイオミング、テキサス、ルイジアナ・・・と自家用車で旅を続けるジョシュが見たものは、飲み水や大気の汚染で深刻な健康被害に怯える人々と、無残な姿をさらすアメリカの大地だった。
行政担当者や環境問題の専門家などに話を聞くうち、汚染の原因は、岩石層の水圧破砕のために地下に注入する特殊溶液にある可能性が浮上してくる。アメリカでは飲料水の安全確保のため、水源地帯の土中に異物を混入する行為は厳重に規制されている。ところが、住民の要請を受け当局が調査を行った形跡はなく、ガス会社には溶液の成分を公表する義務さえないという腑に落ちない事実が明らかになっていく。」(NHKホームページ 前、後)
日本の商社各社が米国のシェールオイル開発に参加しているが(昨日の記事参照)、将来、株主責任が問われることとなる可能性もありうる。
目次、項目別目次
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
カナダのNorth American Oil Sands Corporationは2007年100%で22億ドルだったものが、10年10月には57億ドルの価値があったと言うことでしょうか。すごい。
技術で環境も乗り越えてほしいものです。北米のシェール革命は日本にも良いニュースだとは思うのですが…。
シェールガスの地下溶液は地下水層のはるか下の2000メートル級の地層で行われると聞いたことがあるのですが…。
2011/3/31のTime Magazineが“Could Shale Gas Power the World?”という記事を載せています。
水圧破砕(fracking)での環境汚染についても述べています。
http://www.time.com/time/printout/0,8816,2062331,00.html
Frackingでは大量の水と薬剤を投入するが、これが地下水を汚染するとの懸念がある。
(一つの井戸で19百万リットルの水と、その0.5%の薬剤を投入する)
しかし、 Marcellusでは地盤からみて、この可能性は少ないだろうとしている。(間に数千フィートの岩盤がある)
問題は、地表近くで、井戸のケーシングでのセメント工事のミスにより、上がってきたメタンが漏れて地下水を汚染する可能性がある。
また、frackingでは大量の有害な排水が出てくる。テキサスなどではDeepwellに投入して処分するが、ペンシルバニアでは地形上これが出来ず、下水処理場に輸送して処理している。輸送前の貯水池からの漏えいや、輸送中の漏れ、処理場で汚染物質を処理できないケースなどがある。
(薬剤が何かは明らかにされていない。地底の放射能に汚染されている可能性もある)
排水の再利用などの考えもあるが、計画通りなら今の量の何十倍にもなるため、今後どうするのか、大問題であるとしている。