Dowは4月21日、エチレンとプロピレンの能力増強を発表した。
米国北東部のMarcellusや南テキサスのEagle Ford などのシェールガスから価格面で競争力のあるエタンとプロパンを確保する目処がついたとしている。
シェールガス掘削により米国の天然ガス供給は増加しており、価格は石油と比較して低下している。
MarcellusやEagle Ford のシェールガスから長期契約でエタンとプロパンの供給を受けることにより、同社のPerformance Plastics、Performance Products、Advanced Materials などの事業の競争力を強化する。
付記
天然ガス価格の優位性についてコメントをいただいた。
Georgia Gulf は2011年2月の株主説明会資料で、米国の塩ビ事業の特長の一つに天然ガスの優位性を挙げている。
・シェールガスによる天然ガス市場の拡大
・北米の天然ガスの競争力
・少なくともこれは2014年までは続く
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具体的な計画は以下の通りで、同社のエチレン新設は1995年以来。
エチレン能力の増加を230万トン、プロピレン能力の増加を90万トンとしている。
エチレン
・停止していたルイジアナ州St. Charles のエチレンクラッカーを2012年末までに再開
・ルイジアナ州Plaquemineのエチレンクラッカーのエタン原料のフレキシビリティの改善(2014年)
・テキサス州のエチレンクラッカーのエタン原料のフレキシビリティの改善(2016年)
・メキシコ湾岸に新しいワールドスケールのエチレン設備の建設(2017年)
プロピレン
・テキサス州に新しいワールドスケールのプロピレン製造設備の建設(2015年スタート)
・自社の新技術を使って、プロパンからプロピレンを製造する計画の検討(2018年製造開始)
ダウは既に Eagle Fordのシェールガスをもとにするエタンとプロパンの購入契約を締結しており、追加の契約を交渉している。
更に、Marcellusシェールガスを開発しているRange Resources Corporationとの間で、ペンシルバニア州南西部のシェールガスからのエタンをダウの既存のルイジアナ州のコンプレックスに供給する長期契約を締結する旨の覚書を結んだ。
このほか、テキサスでのJVによる天然ガス分留設備建設なども検討している。
「北米最大のプロピレンのユーザーとして、プロパンからのプロピレン製造に投資したい。また、北米最大のエチレンメーカーとして、既存設備でシェールガスからのエタンの使用を更に増加させ、原料の多様性を確保したい」としている。
Range Resources Corporation は独立系の天然ガス会社で、2004年からMarcellus Shaleを開発し、同Shaleの南西部で支配的地位を占めている。同社は現在、アパラチア地区で最大の液体天然ガスの生産者。
付記
NOVA Chemicalsは5月2日、Range Resourcesとの間でMarcellus Shale Basinのエタンの長期購入契約を締結したと発表した。Ontario州Sarniaにパイプラインで輸送する。
同社は9月6日、Corunnaのクラッカーの原料を100% NGLに転換するため、3つの重要契約を締結したと発表した。
・Range Resourcesとの間でMarcellus Shale Basin のエタン購入長期契約
・Caiman Energy, LLCとの間でMarcellus Shale Basin のエタン購入長期契約
・Sunoco Pipeline L.P.との間でMarcellus Shale BasinからSarniaまでのエタン輸送サービス契約
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Dowは2006年3月に、基礎部門の強化をJV化を通して行う方針を明らかにした。
当時のDowの事業のうち、基礎部門の比率が高いが(プラスチックが売上の24%、ケミカルズが11%で合計35%)、原料高騰、値下がりにより収益性が低下していた。
このため、Dow はJV化による"Asset light" strategy を進めた。基礎部門での海外での新規事業を他社とのJVで実施するだけでなく、既存事業を分離して他社とのJVにしようとするものである。
高付加価値で多角化した化学品・先進材料会社という「明日のダウ」に変貌させ、機能製品と先進材料で世界の主導的地位を占める米国最大のスペシャルティケミカル会社にするとし、Rohm & Haasを買収した。
GEやHuntsmanが、原料高騰の影響を受けやすい汎用製品事業を売却するのに対し、DowはJV化により、関係を残しながら、負担減を図ろうとした。また、JV相手の力の利用も考えた。
Kuwait Petroleum Corporation と50/50JVのMEGlobalを設立してダウの設備を出したのをはじめに、最近では、昨年にスタイロン事業を売却、三井物産と折半出資でテキサス州フリーポートで電解事業を行う合弁を設立している。
Dowは2007年12月に、クウェート国営石化会社 Petrochemical Industries Company (PIC) との間で、PE、PP、PC、エチレンアミン、エタノールアミンを製造販売するグローバルな石化JV(50/50)を設立すると発表した。
しかし、2008年末にこれは一転して破談となった。(事業のうち、PCはスタイロン事業の一部として売却)
これに対し、Dowは「変身戦略」を推し進めるとし、対応策を発表している。
2009/1/7 ダウ、「変身戦略」を続行
ここにきて、Dowの戦略が見直しされつつある。
2010年11月にLiveris CEOは記者会見で、溶液重合やメタロセン触媒などで製品の差別化が図れる余地の大きい直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)に関して、現状維持で運営するケースも示唆した。
今回の計画で基礎原料のエチレン、プロピレンを強化し、それによって、Performance Plastics、Performance Products、Advanced Materials などの事業の競争力を強化する。
2010年決算ではPlasticsの利益の伸びが大きい。
同社は2009年1月には、グローバル石化JVの実現に向け、PICに代わる新しいパートナーを探すとしていたが、この方針は変更される可能性がある。
目次、項目別目次
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
とてもわかり易い説明、ありがとうございます。参考になります。
すみません。WSJで関連記事を見つけました。
契約しないと読めない記事ですが、「Dow Chemical Bets Big on Natural Gas」4/25 Heard on the street
http://online.wsj.com/article/SB10001424052748703907004576279181123376452.html?ru=yahoo&mod=yahoo_hs
They are now much cheaper than naphtha, an oil-derived alternative to ethane used mainly by European and Asian competitors. With oil prices so strong, the highest-cost naphtha-based plants produce ethylene for about $1,200 a ton, says Hassan Ahmed of Alembic Global Advisors. Ethane-based U.S. producers' costs are now about half that.
私は業界人ではないのですが、ここまでインパクトがあるとは知りませんでした。
天然ガスの優位性について、本文に付記しました。