住友化学は4月26日、米国の農薬子会社Valent U.S.A. の100%子会社のValent BioSciences が微生物農薬原体の製造工場をアイオワ州Osage市に建設することを決定したと発表した。
投資額は約150百万ドルで、2014年中の商業運転開始を予定している。
Valent BioSciences は、住友化学が米国大手医薬品会社のAbbott Laboratoriesの微生物農薬関連事業を買収し、2000年に設立した。
事業の歴史は50年に及んでいる。1962年に植物成長調整剤ProGibbを上市、1972年には農業用微生物殺虫剤DiPel を上市した。
現在、微生物殺虫剤、微生物線虫剤、植物成長調整剤を含む微生物農薬・防疫薬の分野における世界のリーディングカンパニーとして、現在、世界90ヶ国以上で事業を展開している。
住友化学は2001年に、フランスのAventis Crop Scienceの生活環境事業部門Aventis Envronmental Scienceから家庭用殺虫剤関連事業を買収したが、米国とカナダの事業はValent BioSciences が継承した。
Valent BioSciencesは2003年3月には、Certis USAからPublic health分野用のBt剤(天敵微生物を利用した生物農薬)Teknar(R)事業を買収し、同時に、Bt剤Thuricide(R)の森林分野における独占販売権のライセンスを受けている。
Certis USAは旧称 Thermo Trilogyで、Bt剤分野で世界第二位のメーカー。
Bt剤の他、ニーム油、土壌線虫、フェロモンやウィルスを使用した天然農薬の製造・販売を行っている。
2001年に三井物産が大手計測機器メーカーのThermo Electronから買収した。
参考 2010/8/28 三井物産、アイルランドの農薬製造・販売会社を買収
Valent BioSciences はこれまで、Abbott Laboratoriesから独占的に原体の供給を受けてきたが、契約期間終了を見据え(Abbottは工場閉鎖を決めた)、原体製造工場を建設することとした。
新工場は、既存の微生物農薬事業の拡大のみならず、現在開発中の砂漠化や温暖化等に対応するための環境ストレス耐性付与剤など、新規分野の製品の生産にも寄与することを期待している。
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住友化学は、世界で唯一、化学農薬と生物農薬の両方の本格的事業ユニットを持つ農薬メーカー。
米国拠点のValent U.S.A. は1988年に、住友化学とChevron Chemicalの50/50JVとして設立された。
Chevronは当時、農薬に力を入れており、強力な販売網を有し、開発普及力には定評があった。住友化学は同社に殺虫剤、殺菌剤、植物成長調整剤の3剤の開発権を供与していた。
その後、Chevron Chemicalがリストラクチャリングの一環として農薬事業からの撤退を表明、住友化学に対して買い取りの打診を行った。交渉の結果、1991年にValent U.S.A. は住友化学の100%子会社となった。
住友化学はその以前の1975年に、殺虫剤スミチオンの製造のため、Stauffer Chemical との間でJVのMount Pleasant Chemicalを設立しているが、1983年に解散した。
これは、日本では毒性の高いパラチオンが早くに禁止されスミチオンに置き換わったのに対し、米国では1990年代初めまで使用が認められたため、コストの高いスミチオンが売れなかったのが主な理由である。
住友化学は、スミチオンの場合、米国での開発(販売分野の選択~登録取得)と販売はStaufferに委ねた。
同社が世界に先駆けて発明した農業用ピレスロイドのスミサイジンも米国での開発・販売はShellに委ねていた。
同社は、本格的に米国で販売するには自ら開発・販売を行う必要があると考え、実績のあるChevron とのJVでValentを設立した。なお、Staufferは1985年にVaselineなどの消費財のメーカーのChesebrough-Pondに買収されたが、Chesebrough-Pondは1986年にUnileverに買収された。
UnileverはStaufferには関心なく、1987年にICIに売却した。
ICIの農薬事業はその後分離してZenecaとなり、スウェーデンのAstraと合併してAstraZenecaに、更にNovartisの農薬部門と統合してSyngentaとなっている。
ICIはStauffer買収後、StaufferのSpecialty Chemicals部門をAkzoに売却したが、ICI本体は石油化学等の事業を次々に売却した後、2007年にAkzoに買収され、消滅した。
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