武田薬品、Nycomed社を買収

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武田薬品は519日、スイスのチューリッヒに本社を置く非上場製薬会社Nycomed A/Sを買収すると発表した。
同社の株式保有者と株式譲渡契約を締結した。両社の取締役会において全会一致で承認されている。

買収額は株式価値+純負債ベースで96億ユーロ(1.1兆円)。
武田の既存事業と重複するため買収対象外の米国の皮膚科事業(
Nycomed US Inc.)の株式を除き、100%取得する。手元資金と借入(60007000億円)により現金で買収する。

規制当局の承認を得て、90120日の間に買収完了、子会社化する。

Nycomedの株主は下記の投資ファンド
 Nordic Capital  41.2%
  DLJ Merchant Banking 25.6%
  Coller International Partners 9.7%
  Avista Capital Partners 8.9%
  Others  14.6%

武田薬品の11年3月期の売上高は1兆4193億円で、世界の製薬業界での順位は16位。
医療用医薬品売上高の5割強を海外で得ているが、海外売上高の内訳では米欧が9割以上を占め、アジアなどの新興国は1割未満にとどまる。

Nycomed を傘下に収めることで武田薬品は世界の製薬12位に浮上するとともに、欧州を強化し、Nycomed強い新興国市場へ本格参入し、欧米の製薬大手を追撃する。

買収により、2015年の武田の地域別シェアは以下の通り変化する。

  2010 2015
日本 40% 35%
北米 42% 23%
欧州 15% 21%
アジア/新興国 3% 21%

ーーー

Nycomed A/Sの概要は以下の通り。

 ・欧州及び新興国におけるリーディングカンパニー

 ・事業構成:
   医療用医薬品
87% ブランド品を中心
   一般用医薬品
13% 新興国でニーズが高い

 ・地域別売上高

 ・最近の業績(百万ユーロ)

  201012月期 200912月期
売上高 3,170.6 3,228.0
粗利益 2,181.7 2,332.7
営業利益 三角44.2 288.0
当期純利益 三角229.1 232.7
調整後EBITDA 850.5 1,074.6

 企業結合会計上の在庫価値差異などを調整した後のEBITDA
 EBITDAearnings before interest, taxes, depreciation, and amortization

売上高の減少は主に、主力の抗潰瘍薬 pantoprazoleが各地で特許切れとなり、米国でジェネリック品が出現したことによる。粗利益減はそれによるpantoprazoleの値下がりの影響が大きい。

2011年予想は、新興国での成長がpantoprazoleの売り上げ減を上回るとみている。

武田では、買収のメリットを以下の通りとしている。

 1)同社の成長戦略への寄与
  ・欧州全域における事業基盤の強化

  ・医薬品市場の成長を牽引する新興国における事業拡大
     
2005-10年の世界の医薬品市場成長の約半分は新興国の成長による。
     
Nycomedは新興国(ロシア、中国、ブラジル、トルコ、メキシコ、他)で前年比約30%の成長を実現
     
2010年ベース新興国向け売上高:武田 178億円、Nycomed 1,248億円 →合計 1,426億円     

  ・欧州および新興国でNycomedのベースを利用した武田の製品・パイプラインの価値向上

  ・
Nycomedの重症慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療薬Daxas®をドライバーとした力強い成長
     
Daxasは明確な差別化が可能な経口投与薬で、先進国、新興国ともに高いポテンシャル。
     
FDAEMAで販売許可取得済みで、2011年には多くの新興国で承認取得の見込み。
     推定患者数は、米国2800万人、欧州2000万人、ロシア1300万人、中国4100万人、ブラジル1000万人。

 2)同社の業績に買収直後から貢献
  ・年間売上高を
30%強改善
  ・買収に伴う特殊要因除きの営業利益を
40%強改善
  ・買収に伴う特殊要因除きの
EPS30%強改善

 3)グローバルでかつ多様な人材が加わることによる企業文化の変革推進

ーーー

今回の武田薬品の1.1兆円の買収は、国内製薬会社による買収では過去最大で、日本企業全体でも上位3位に入る。

日本企業による買収 (日本経済新聞による) 

  買収対象 金額(億円) 時期
日本たばこ産業 ギャラハー(英) 22,530  2007
ソフトバンク ボーダフォン日本法人 19,172  2006
日本たばこ産業 RJRナビスコ米国外事業 9,424  1999
武田薬品工業 ミレニアム 8,998  2008
第一三共 ランバクシー 4,994  2008

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武田薬品の2010年度を初年度とする「10-12中期計画」では、「過去の成功体験と決別し、新たなタケダへ成長する変革期」と位置付け、さらなる発展に道筋をつけていくとしている。

経営方針の実現するための戦略のなかの「持続的な成長」に「進出地域の拡大」がある。

市場規模が大きな米国、欧州でのプレゼンス向上に引き続き取り組んでいくことに加え、グ ローバルにバランスのとれた売上・利益の地域ポートフォリオを実現するために、新興国を含め、今後、高い市場成長が見込まれる国や地域への進出を加速し、 2012年度までに当社グループの世界市場におけるカバー率約90%を目指していきます。

武田薬品の長谷川社長は以下の通り述べている。

先進国中心の現在の事業だけでは当面、売上高も利益も低下傾向が続く。
一方で新興国市場は急成長しているわけで、ここをギブアップすることは、企業として成長をあきらめる「敗北宣言」と同じだ。

 

IMSの予想によると、先進国の医薬品市場が3-5%の伸長に対し、医薬品新興国は14-15%の伸長が期待されている。


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