政府は5月13日、東電・福島原発事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の枠組みを発表した。
東京電力から、原子力損害の賠償に関する法律に基づく公平かつ迅速な賠償を行う旨の表明があり、資金面での困難を理由として、政府による支援の要請があった。
原子力損害の賠償に関する法律(昭和36年6月17日法律第147号) 第三条 (無過失責任、責任の集中等) 原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。
ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。
この要請に関し、政府は以下の実施を東電に確認した。
① | 賠償総額に事前の上限を設けることなく、迅速かつ適切な賠償を確実に実施すること |
② | 東電・福島原発の状態の安定化に全力を尽くすとともに、従事する者の安全・生活環境を改善し、経済面にも十分配慮すること |
③ | 電力の安定供給、設備等の安全性を確保するために必要な経費を確保すること |
④ | 上記を除き、最大限の経営合理化と経費削減を行うこと |
⑤ | 厳正な資産評価、徹底した経費の見直し等を行うため、政府が設ける第三者委員会の経営財務の実態の調査に応じること |
⑥ | 全てのステークホルダーに協力を求め、とりわけ、金融機関から得られる協力の状況について政府に報告を行うこと |
政府として、
①迅速かつ適切な損害賠償のための万全の措置、
②東電・福島原発の状態の安定化及び事故処理に関係する事業者等への悪影響の回避、
③国民生活に不可欠な電力の安定供給、
という三つを確保を念頭に、
政府と原子力事業者が共同して原子力政策を推進してきた社会的責務を認識しつつ、
原賠法の枠組みの下で、国民負担の極小化を図ることを基本として東京電力に対する支援を行うこととした。
なお、一定期間後に検討を行い、必要な場合には追加的な措置を講ずる。
具体的な支援の枠組みは以下の通り。
① | 原子力損害が発生した場合の損害賠償の支払等に対応する支援組織(機構)を設置 |
② |
原子力事業者である電力会社に機構への参加を義務づける。
付記 2011年9月に詳細が判明 |
③ | 機構は、損害賠償のために資金援助(資金の交付、資本充実等) 援助には上限を設けず(債務超過回避) |
④ | 政府、機構は、原子力損害の被害者からの相談に応じる。 機構は、原子力事業者からの資産の買取りを行う等、円滑な賠償のために適切な役割を果たす。 |
⑤ | 政府は、機構に対し交付国債の交付、政府保証の付与等必要な援助を行う。
|
⑥ | 政府は、援助を行うに先立って原子力事業者からの申請を受け、必要な援助の内容、経営合理化等を判断し、一定期間、原子力事業者の経営合理化等について監督(認可等)をする。 |
⑦ | 原子力事業者は、機構から援助を受けた場合、毎年の事業収益等を踏まえて設定される特別負担金の支払を行う。 (官房長官:特別負担金は営業外で、電気料金の算定には入らない) |
⑧ | 機構は、原子力事業者からの負担金等をもって必要な国庫納付を行う。 |
⑨ | 原子力事業者が負担金の支払により電力の安定供給に支障が生じるなど例外的な場合には、政府が補助を行うことができる条項を設ける。 |
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この仕組みでは東電の株主は保護されるが、これに対する批判が多い。
JALの場合、会社更生法を申請。上場廃止で、100%減資(株主責任明確化)、金融機関債権も87.5%カットとなった。
次に株主の責任が問われて、株式は100%減資。このときに株主がかわいそうだとかいろいろ言うかもしれないが、感情論ではない。 株主の責任が問われずに、年金で慎ましく暮らしている方々の電気代をその分上げるなどというのは、資本主義を逸脱している。株式を買った人は、リスクもあわせて買っているのだ。
ここで株式を100%減資すれば、数兆円が浮いてくる。これをしなければ、その分、国民負担が増えるのだ。ーーー
官房長官会見では、「野党から会社更生法を適用した方がよかったとの意見も出ているが」との質問に対し、以下の答え。
「会社更生法を適用した場合、被災者、被害者の皆さんの損害賠償請求権が一般債権になる。特に、福島の原発事故の収拾に向けて協力頂いている協力企業の事故発生前から含めた様々な債権が大部分が一般債権になる。
つまり、ほとんど回収できない状況になる。
今回のスキームは、被災者の皆さんに賠償を支払う。 事故の収束に向けて協力頂いている協力企業が引き続き協力して頂けるようにする。このためのスキームだ。
(会社更生法では)別途の相当大仕掛けのスキームを組まないといけなくなる」
金融機関債権については、支援の条件として、以下を確認している。
⑥ 全てのステークホルダーに協力を求め、とりわけ、金融機関から得られる協力の状況について政府に報告を行うこと
官房長官会見での質疑は以下の通り。
ー 地震前の東電の借入金について一切債権放棄なされない場合でも国民の理解を得られると思うか。
「まず3月31日だったと思うが、 --- 新たな追加融資がなされている。これについては、少し別に考えなければいけないだろう。そのことは、国民にも周知をしなければいけないだろう。
それから、3月11日以前からの融資については、国民の理解の得られるかといったら、それは到底できない、得られることはないだろう」ー 公的資金注入が行われない可能性があるということか。
「私はそう思っている」
これについては金融機関の反発が大きい。
金融機関の東電向け融資は約4兆円。債権放棄をした場合、金融機関は東電への融資分を「不良債権」に区分し直す必要に迫られ、各行が引当金を増やすなど経営にも悪影響を及ぼす。
また、債権放棄は通常、破綻した企業向けに行われる。安易に債権放棄をすれば東電は破綻企業とみなされ、追加融資などが難しくなる。
なお、社債については電気事業法で優先弁済されることとなっている。
電気事業法
第37条 一般電気事業者たる会社の社債権者は、その会社の財産について他の債権者に先だつて自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
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河野太郎ブログには以下の提案がある。
東電を国有化し、東電ホールディングスの下で発電会社と送電会社に分け、発送電分離をしても問題はないことを世の中にみせてから、出口で株式売却する時に発電、送電を分離すればよい。株式売却益は、国民負担の返済に充てる。
細野豪志首相補佐官は5月10日の記者会見で
「政権として、今の電力会社の在り方がしかるべきなのか、これを守るという意思決定はしていない。さまざまな議論を通じ、いろいろなケースがあり得る」
と述べ、送電網の売却が今後、国内の電力供給の在り方を検討する際の選択肢の一つだとの認識を示した。
国内の送電網は、地域ごとに各電力会社がほぼ独占的に所有する形になっているのが現状で、これが、風力など再生可能エネルギーの大幅導入や、複数の発電企業が乗り入れる自由化された電力市場の形成を妨げているとの指摘が以前からある。
目次、項目別目次
https://www.knak.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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