海江田経産相は7月6日、原発の安全性確保のため、全原発を対象にストレステスト(事故・災害への耐性調査)を行うことを明らかにした。
経産相は、「安全性はすでに確保しているが、地元住民のより一層の安心を得るために実施する」と述べたが、首相は、「従来法では原発の安全性は経産相が判断できるが、新たなルールを作って、あらためて国民が納得できる判断が出るよう指示している」と述べ、ストレステストの実施が再稼働判断の前提になるとの見解を表明した。
報道では首相は経産相に対し、「原発の再稼働は認めない」と繰り返し、6月18日に原発の安全宣言をした経産相を非難したという。
ストレステストの内容は決まっておらず、実施に何か月もかかる可能性があり、その間原発の再稼働は出来ない可能性が強い。
玄海原発2、3号機の再稼働問題で、7月4日に運転再開を了承した玄海町の岸本町長は7月7日、町役場で臨時会見を開き、了承撤回を表明した。
日本では今頃になって(一旦安全宣言をしてから)ストレステストの実施を決めたが、EUでは福島事故発生直後に動き出し、既にテストに入っている。
経産相は「IAEAやEUの知見も参考にする」と述べた。
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EUは、域内の原発143基のすべてについて6月1日からストレステストを行っている。
3月11日の福島の事故を受け、この事故を教訓に同様の事故がEUで発生しないよう、すべての原発を再評価するもので、早くも3月25日に欧州委員会でこの問題を議論し、EUの全ての原発のストレステストを行うことを決めた。
EUは「福島事故で、考えられない事態が起こること、2つの自然災害が同時に起こること、全電源の喪失が起こることを学んだ」としている。
テストは包括的なもので、以下の事態に耐えうるかどうかを調べる。
①天災
地震、洪水、極端な低温、極端な高温、雪、氷、嵐、竜巻、豪雨、その他
②人の起こす危険(失敗、行為)
飛行機墜落、原発近辺での爆発(ガスコンテナー、近くでのタンカー爆発)、火災。
テロ攻撃(飛行機での突っ込み、爆弾)
地震に関しては、操業前に、過去の地震を参考にし、その地域で予想される地震に耐えられるかどうかについてはチェックを受けている。しかし、福島の例で、過去にその地で起こったよりも強い地震がありうることが分かった。
このため、Richter
scale 6に耐えうるとして設計された原発は、それ以上の地震にも耐えられるかどうか、即ち、すべての安全機能が稼働するか、安全に停止できるか、電力の供給は十分か、放射性物質が放出されずに閉じ込められるかどうかをチェックする。
洪水や、他の天災についても同様。
電源に関しては、どんな事態でも、電源がカットされた場合に十分なバックアップ電源を持つこととしている。数日間電源がカットされても大丈夫か、最初のバックアップのバッテリーが動かない場合にどうするかなどにも答える必要がある。
飛行機墜落(災害、テロとも)については、原発の格納容器が厳しいダメージを受けるかどうかをチェックする。
そのため、材質、壁の厚さ、接近する飛行機の重量、スピードなどを検討する。
ドイツは最近の専門家による安全検査の結果、南部にあるビブリス原発など4基が、飛行機の墜落に構造的に耐えられないと判定されている。
爆発、火災についても同様。
このほか、テロ攻撃に対する予防措置が検討されるが、これは各国のセキュリティに関するもので、公表できないという理由で(ストレステストは全て公表される)、「専門家委員会」を別途設置して調査する。
テスト方法については欧州委員会とEuropean Nuclear Safety Regulators' Group (ENSREG) とで協議して決めた。
ストレステストは3段階で行われる。
①Pre-assessment
原発の操業責任者がストレステストの質問に答え、証明する資料や研究、計画を提出する。
②National Report
各国の規制当局が上記回答が正しいかどうかチェックする。
③Peer reviews
多国籍チームが②をレビューする。
このチームは欧州委員会の1人と27か国の規制当局から6人の合計7人から成る。現地訪問も行う。
ストレステストは2012年4月末までに完了する。
ストレステストの結果を受け、各国はどうするかを決定する。
その国の責任ではあるが、EUとしては、対応が技術的にか、経済的にかでできない場合、停止されると信じるとしている。
報告は公表されるため、停止しない場合にはその国は国民に理由を説明する必要がある。
欧州委員会はまた、EU域外の諸国(スイス、ロシア、ウクライナ、アルメニア)の原発事故の影響を受けるため、各国と原発の再評価の話し合いをを行っている。各国とも前向きで、ロシアは既に国際的な核の安全のフレームワーク作りの具体的提案を行っている。
欧州委員会は更に、IAEAや途上国に対し、安全レビューや国際的な枠組み作りの協力の用意があるとしている。
付記
アルメニアの原発は「EU全体にとって危険な存在」とされている。
旧ソ連の第一世代型VVER440/V-230タイプの耐震性を改良したV-270型で、Metsamor
に2基あった。出力はそれぞれ40.8万Kwで、1号機は1977年から、2号機は1980年から操業を開始した。
1988年12月7日にアルメニアで地震が発生した。
地震による被害はなかったが、原発からスタッフが逃げてしまい、原子炉加熱の危機も生じていたとされる。
旧ソ連閣僚会議はアルメニア原発の停止を決め、1989年に2基とも停止した。
その後、アゼルバイジャンとアルメニアの戦争が起こり、自国に化石燃料をもたないアルメニアは化石燃料をまったく輸入できない状況となった。このため、6年半にわたり、極度の電力不足の状況となった。
アルメニアは1991年末に旧ソ連から独立し、原発の運転再開と新規建設への支援を西側に求めた。
米・仏・露社の技術支援を得て、1995年11月に第2号機の運転を再開した。
EUは2004年までに閉鎖することを求めたが、現在も運転を続けている。
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