豪州のレアアース開発会社のLynas Corp. を巡って、このところ豪州の新聞に「三菱」の記事が掲載されている。
1.三菱UFJファイナンシャルグループ
三菱UFJファイナンシャルグループ(MUFG)がLynas株の9.99%を取得した。
これはMUFGが6月30日に、保有していたMorgan Stanleyの転換型優先株式の全てを普通株式に転換し、これによりMorgan Stanleyの議決権の約22.4%を保有し、同社を持分法適用関連会社としたことに伴うもの。
両社はLehmanショック時の2008年9月29日に戦略的資本提携で合意し、MUFGがMorgan Stanleyの優先株式を引き受けるとともに、企業金融・投資銀行業務、リテール業務、資産運用業務等の幅広い分野で、グローバルなアライアンス戦略を展開してきた。
本年4月に優先株式の普通株式への転換で合意した。
Morgan StanleyはこれまでLynasの株式購入を行っていたが、豪州の会社法によれば、Morgan Stanleyの株式の20%以上を保有したMUFGはMorgan Stanleyの支配株主となり、Lynasの9.99%の株主とみなされることとなった。
Lynasについては 2010/10/5 レアアース、米・豪・カザフなど生産拡大
これについて、現地の報道のなかには、レアアースを求めて日本最大の商社の三菱(商事)がLynasの大株主になったとしているものもある。
「三菱」を混同したもので、実際にはレアアースに関しては、既に双日が同社との間で契約を締結している。
Lynas と双日は2010年11月に、レアアースの日本向け供給、およびLynas のレアアース拡張プロジェクトに関して、戦略的提携を締結することに基本合意し、2011年3月に双日と石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、Lynasへ総額250百万米ドルを出融資することを決定し、10 年に亘って日本の消費量の約3 割にあたる年間約8,500 トン(±500 トン)以上のレアアース製品を長期供給する契約を締結している。
2010/11/25 双日、レアアースの供給・拡張プロジェクトで豪州Lynasと戦略的提携の基本合意
2.マレーシアのレアアース分離プラント
Lynasは西オーストラリア州のMt.Weld 鉱床でレアアースを採掘する。
同社は当初、中国山東省にレアアース分離プラントの建設を計画したが、中国政府による締め付けが強くなったことから、中国を断念し、マレーシア東海岸のPahang 州 Kuantan のGebeng Industrial Area にプラントを建設することとした。
Mt.Weld レアアース鉱床からレアアース鉱物(モナザイト等)を採掘、西オーストラリア州南部のEsperance 港からマレーシアへ海上輸送、分離・精製し、更に最終消費者の要求にあったレアアース製品とした後、米国・欧州・日本などへ販売する計画である。
ここにきて、マレーシアの計画に問題が出てきた。三菱化学の過去の行動によるものである。
計画が発表されると、近辺の住民の間で健康への影響を懸念する声が高まった。マレーシアの抗議団が豪州のLynas本社で反対のデモを行った。
マレーシアでは1979年に当時の三菱化成が35%出資でAsian Rare Earth (ARE)を設立し、1982年にイットリウムなどレア・アースをスズの鉱石と一緒に出るモナザイト鉱などから抽出する事業を開始した。
能力は年産 4200 トンの軽希土類、550トンの重希土類、4400トンのリン酸三カルシウムで、希土類は全て日本に輸出され、日本で分離精製されが、工場はトリウムを含む残土の保管施設を持たず、工場の裏にあった池や地面に野積み状態にしていた。
このトリウムはウランと同じように放射性物質で、日本では 1968年の原子炉等規制法の改正により、その投棄や保管には厳格な法規制が課せられ、1971年には日本での操業はなくなった。同社はマレーシアでこれを放置していた。
工場の目の前には人口1万人が住むBukit Merah 村があった。住民たちの間に健康被害が現れ、住民はAREの操業停止を求めて抗議活動を展開した。
三菱化学は1994年1月、マレーシアからの撤退を決め、問題の工場も閉鎖されたが、廃棄物処理施設の設置工事の契約締結は2009年8月になってからである。
2009/11/14 三菱化学、マレーシアの撤退工場に廃棄物処理施設を設置
今回の抗議はこれが繰り返されるのを恐れた住民とグリーングループが行ったが、これに政治も絡んだ。
2011年末にも予定される総選挙を前に、首相は外国資本の投資を望みつつ、国民の怒りを起こすことも恐れた。
首相は本年初めに、環境面の影響をもとにする反対を受け、石炭火力発電所建設を取りやめた。
Lynasへの反対を受けて、政府は香港のCVM Minerals がPerakで計画していたレアアース採掘のFSの覚書を取り消した。
マレーシア政府はLynasに対し、廃棄物処理の詳細計画を提出するよう命じ、それまで操業ライセンスを抑えている、
Lynasは現在建設中の工場のスタートが遅れる可能性があるとしている。
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