原子力安全委員会の班目春樹委員長は7月11日、定期検査の最終検査をしないまま調整運転を異例の長さで続けている北海道電力泊原発3号機と関西電力大飯原発1号機について「明らかにいいことではない」と苦言を呈し、原子力安全・保安院に、適切に対応するよう求めた。
原子力安全・保安院は7月12日、「正当な理由がないまま検査を受けずに長期化するのは法令上問題ある可能性がある」と述べ、最終検査の申請を出すよう促した。検査を受けられるのに受けない場合、電力会社は電気事業法上、検査忌避とされる可能性がある。
「定期検査」では、最終段階で原子炉を起動して調整運転に入り、発電機を回すタービンを動かす。約1か月弱、その状態を保った上で、国が「総合負荷性能検査」で、原子炉内の温度やタービンを回す蒸気の流量などが安定しているかを確認し、問題がなければ「終了証」が交付され、定期検査は終了する。
泊3号機は3月7日、大飯1号機は3月10日に原子炉を起動し、調整運転に入った。
しかし、総合負荷性能検査を受けないまま、4か月以上、実質的な営業運転を行っている。
理由については両社とも「地元自治体の理解が得られていないので......」としていた。
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定期検査の場合、電力会社は自治体の同意(震災前は「確認」)を得て、調整運転に入り、最終検査を受けて営業運転に入る。
両原発とも調整運転前に確認を得ていた。(伊方3号機、玄海2・3号機などは調整運転前の状態)
しかし、福島原発事故で状況は一変した。北海道は国に対し「中部電力浜岡原発と泊原発の違いを説明してほしい」と要請している。
総合負荷性能検査を受けて定期検査が終了すると、正式の再稼働となり、問題とされることを懸念し、「定期検査中」と偽って稼働させていることとなる。
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原発の安全性基準に関する「政府統一見解」では「定期点検中で起動準備が整った原発」は一次評価を受けることとなっている。
保安院は、この2つの原発は既に起動中であるため、最終検査を通れば定期検査を終了し、通常運転を認めることに問題はないとしている。申請があれば、最終検査は数日程度で終わるとみられ、月内にも通常運転に移行する見通し。
次の定期検査を来年5月までに実施する方向で調整している。
しかし、2原発は定期検査中で最終検査を受けていないため、「定期検査中」と「稼働中」の境界線上であり、統一見解のグレーゾーンとなる。
菅首相はこの問題の報告を受け、「これでは定期検査の意味がない」と不快感を漏らしたとされ、首相周辺では「このまま運転を続けるのは難しいかもしれない」としている。
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大飯1号機の出力は117.5万キロワットで、関電の電力供給の3%強を占め、夏場の供給計画にも織り込んでいる。
付記
関西電力は7月16日、調整運転中の大飯1号機で、緊急炉心冷却システム (ECCS)を構成するタンクの圧力が低下するトラブルがあったと発表した。保安規定に基づき原子炉を手動停止する。
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