「ガスランド ~アメリカ 水汚染の実態~」

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先週、NHKBS世界のドキュメンタリー 「ガスランド ~アメリカ 水汚染の実態~」のアンコール放送を見た。

昨年12月の放映を見逃し、再放送は東日本大震災で2度も中止となっていた。

世界の資源地図を塗り替えると期待される、新しい天然ガス「シェールガス」。その開発に疑惑を持ち、コロラド、ワイオミング、テキサス、ルイジアナ・・・ と自家用車で旅を続けるジョシュが見たものは、飲み水や大気の汚染で深刻な健康被害に怯える人々と、無残な姿をさらすアメリカの大地だった。

行政担当者や環境問題の専門家などに話を聞くうち、汚染の原因は、岩石層の水圧破砕のために地下に注入する特殊溶液にある可能性が浮上してくる。アメリカでは飲料水の安全確保のため、水源地帯の土中に異物を混入する行為は厳重に規制されている。ところが、住民の要請を受け当局が調査を行った形跡はなく、ガス会社には溶液の成分を公表する義務さえないという腑に落ちない事実が明らかになっていく。

こうしたガス開発を優先する特例を推し進めたのは、巨大エネルギー会社のCEOからブッシュ政権入りしたチェイニー前副大統領だった。特例を認めるべきか?否か?安全な水を求めるジョシュの取材の旅は、ついに連邦議会での攻防の場へとたどり着くことに・・・ 
(NHK ホームページから)

見終わってゾッとした。米国でこんなことが許されるのか。

 

米国各地でオイルシェールが発見され、開発が進んでいる。

日本の企業も多数、参加している。
   2011/7/4  
三井物産、テキサス州のシェール開発に参加;米国でシェール論争

オイルシェールの採掘には水圧破砕法(Hydraulic fracturing 又は fracking)が使われている

これは1940年代にHalliburton Energy Servicesが開発したもので、同社はまた、水圧破砕溶剤の3大製造会社の1社である。
坑井内に高い圧力を加えて採収層に割れ目(フラクチャー)を作り、その中に砂などの支持材を充填することによりその閉塞を防ぎ、採収層内に非常に浸透性の高い油・ガスの通り道を形成するもの。
大量の水と600種類にも及ぶ薬剤を投入する。一つの井戸で18回も投入する。

第一の問題はこの薬剤が漏れて、近くの民家の井戸に混入したり、河川を汚染することである。

放送では井戸水に火がついたり、健康被害で苦しむ住民や河川の汚染の状況が 多く出てくる。

米国では水道用地下水源を保護するために、1974 年安全飲料水法で、固体、液体及び気体を含む流体の地下注入を規制する法律上の権限をEPAに与えている。

但し、石油とガス業界は危険物質を地下の飲料水の源泉の近くに注入する事を許可されている。

1995-2000年にHalliburtonのCEOであったDick Cheney副大統領のエネルギーポリシー特別対策委員会の努力で、2005年連邦エネルギーポリシー条令が水圧破砕を飲料水安全条令から適用除外にした。
これは「Halliburtonの抜け穴」と呼ばれる。

ガス会社は危険はないとしながらも、クレームがあれば井戸水を検査し、飲用不可の場合にはタンクを設置して飲み水を供給している。

放送ではまた、廃棄物処理の無茶苦茶を写している。

回収された薬剤入りの水は仮の溜池に保管されているが、池の土手から水が漏れている。
また、溜池から薬剤がどんどん蒸発している。

コンデンセートタンクからもガスがもうもうと蒸発しており、大気汚染を起こしている。

天然ガスのパイプラインは途中でガスを放出している。

環境当局は以下の通り述べている。

世の中に完全無欠なエネルギーはない。
オイルシェールも完璧ではない。
飲料水で問題のある所帯には水を供給している。
雇用や石油の外国依存によるリスクも考える必要がある。
水素エネルギーが利用できるまでは妥協が必要だ。

カナダのタールサンド開発での環境汚染に関して、クリントン国務長官は、
「中東の汚い石油か、カナダの汚い石油か、アメリカの選択肢は2つです」と述べている。

2011/4/14 「岐路に立つタールサンド開発」

放送では、コロラド、ワイオミング、テキサス、ルイジアナと移動する間、井戸は絶え間なく続き、各地で被害が出ている。

しかし、問題はこれからのMarcellus Shaleの開発である。

地図の赤い部分は未開発で、間もなく 5万本の井戸を掘る予定地域だが、ここはNew York 680万人、Pennsylvania 540万人、Delaware70万人、New Jersey 290万人の合計1,580万人に飲み水を供給する水源である。

これが汚染されれば、いったいどうなるのか。これだけの人口密集地に代わりの水を供給することは不可能である。

いつまでも、このようなことが許されるとは思えない。

 


 

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コメント(4)

ビデオオンデマンドで見ました。
私も絶句してしまいました。
水道水に火を近づけると飲み水が燃えるなんて…。

天然ガスがクリーンエネルギーという見方が出来なくなってしまいました。

マーセラスでは、ガス会社はドキュメンタリーで出てきたハルバートンやチェサピーク等の中堅どころではなく、ShellやChevronなどのスーパーメジャーが権益を持っているので、怖いです。

あまり化学的な素養がないので、短略的かもしれませんが、2005年の「Halliburtonの抜け穴」が投資コストを押し下げて、シェールガス革命に至った…。そんな構図に見えてきました。技術革新でもなんでもなく、政治的なものだったのではないかという気がしてきました。

シェールガスの採掘に国際基準を作ると言う記事がありました。
いつか機会があれば、内容をご教示いただけると幸いです。

これからの議論のようです。


日本経済新聞 2011/9/7

欧米各国の政府のほか、資源開発会社や非政府組織(NGO)を加え、11月に欧州本部で開く会合で具体的な基準について議論を開始する。

国連は注入水が含有する化学物質や採掘方法を一つ一つ点検し、最も安全性の高いやり方を特定し、それを国際標準にして各国に示す。今のところ、地下水に悪影響を与える化学物質の使用は禁じ、注入水は最終的に抜き出すよう求める方針。セメントで地下水と隔離することも有効と見ている。飲用水の水脈近くでの採掘を避けるため、水脈を確認する地質調査の実施も盛り込む見通し。

さっそくありがとうございます。

まずは11月ですか。安全性と採算性が両立するのか微妙な感じがします。EUも推進派と環境派がいそうで議論が紛糾しそうですね。

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