8月17日付の日本経済新聞は
「中国、資源買収 曲がり角 海外権益取得 急拡大のツケ」
というタイトルで、最近の中国企業の海外投資の失敗例を取り上げている。
しかし、それぞれを見ると然るべき理由があり、不可抗力や妥当な判断によるものが多く、必ずしも急拡大のツケとは言えない。
中国にとって資源の必要性は減っておらず、今後、人民元が切り上げられると、ますます買収に励む可能性がある。
過去のブログ記事のフォローも含め、取り上げられた事例を分析する。
1)Timor海Puffin油田
Sinopecは2008年に豪州のAED Oil から Puffin油田(AC/L6 and AC/P22)と AC/R1油田の権益の60%を6億豪ドルで買収し、両社のJVとした。
掘削にはノルウェーのSeaProduction LtdのFPSO(浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)を起用したが、生産は設備の不調でうまくいかず、JVは2009年5月に生産を停止し、安全性や操業改善の措置が取られなかったとして契約を打ち切った。
これに対し、SeaProduction側は落ち度はないとして60百万ドルの補償を求め、調停に持ち込んだ。
調停委員会はこのたび、JV側に60百万ドルの補償をSeaProductionに支払うよう、決定した。
これを受け、AED Oil は任意管理(voluntary administration)手続きに入った。管財人は、会社の全権を掌握し、
事業を継続しつつ、負債の整理などを行う。
2)イランSouth Parsガス田
イラン政府は2009年6月、フランスの石油大手 Total と実施する予定のSouth Parsガス田開発を、同社に代えて中国石油天然気集団(CNPC)と進める方針を決め、イラン国営石油会社(NIOC) とCNPC が北京で Cooperation contract に調印した。
2009/6/12 中国CNPC、イランで天然ガス開発
しかし現在のところ、CNPCはこの採掘を見合わせている。
イランでは日本はアザデガン油田から撤退したが、CNPCは2009年1月に北アザデガン油田開発の契約を締結し、2009年8月に南アザデガン油田の70%の権益を取得した。(日本撤退後はイラン側が30%)
これについても開発が進んでいるとは聞こえてこない。
CNPCとしては先ず権利を取得し、様子をみているものと思われる。
3)リビア
政情不安のリビアではCNPCが権益を取得した多くの油田が開発・生産中止に追い込まれ、全員が撤退、多額損失発生のリスクを抱える。
政府関係者は「インフラ開発まで含むリビアでの中国企業の損失は400億元(約4800億円)に達する恐れがある」とみる。
CNPCは2002年にリビアに進出した。
2002年にリビア国営石油とイタリアのAgipと共同で、砂漠地帯のWAFA油田と地中海側のMellitahを結ぶパイプライン建設を請け負った。
2005年12月にリビア国営石油会社との間でPelagian Basin の海底油田の開発契約を締結した。CNPCは2009年にリビアのGhadames Basin に利権を持つカナダの石油会社Verenex Energyを買収する契約を締結した。
しかし、リビアの石油利権の移譲についてはLibyan National Oil の承諾が必要となっており、リビアは承諾せず、最終的にCNPCは諦め、リビアの政府投資ファンドが買収した。2009/9/24 中国石油天然気集団(CNPC)、カナダの石油会社買収でリビア政府に敗退
2003年9月に国連安保理は対リビア制裁の解除を発表、この結果、米国はリビアを「テロ支援国家」指定から外し、その後、2006年5月にアメリカはリビアとの国交正常化を発表した。
このため、リビアの石油を狙い、多くの企業が進出している。
2007/4/25 Dow、リビアに石化JV設立
2010/7/27 BP、リビア沖で深海油田掘削
付記
中国外務省の馬朝旭報道官は8月22日、「中国は国際社会と共に、リビアの再建で積極的な役割を果たしていきたい」との姿勢を表明した。「中国側はリビア国民の選択を尊重する。リビア情勢がいち早く安定を取り戻し、国民が正常に暮らせるよう希望する」と述べた。
中国は当初、米国とNATOによるリビア空爆に反対していたが、その後は黙認へと変化していた。
4)カナダの天然ガス権益
PetroChinaは2011年2月10日、カナダの天然ガス最大手のEncana Corporation から天然ガスの権益の50%を54億カナダドル(54.3億米ドル)で買収することで合意したと発表した。
2011/2/16 PetroChina、カナダの天然ガス権益取得
しかし、両社は6月21日、条件が折り合わず、交渉を中止したと発表した。CNPCは採算に合わないとして撤回した。
5)ナミビアのウラン権益
「 国有原子力発電大手、中国広東核電集団(CGNPC)はアフリカにウラン権益を持つ英Kalahari Minerals を7億5600万ポンド(約950億円)で買収することに合意したが、日本の原子力発電所事故に伴うウラン価格下落で、買収提案を撤回した。」
実際には、本年3月にCGNPCは1株2.9ポンド、総額7億5600万ポンドの提案を行ったが、ウラン価格の下落を受けて交渉し、Kalahariとの間で1株2.7ポンドに引き下げることで合意した。
しかし、英国政府がこれを認めず、断念した。
Kalahariは、ナミビア共和国に所在する世界最大級のフッサブ・ウラン鉱山(ロッシング・サウス鉱区を含む)を100%保有するExtract Resources の株式42%を持つ筆頭株主。
ロッシング・サウス鉱区は、世界有数の資源量を誇る大規模ウラン鉱区であり、現在、事業化調査が進められており、ウラン生産開始は2013年を予定している。
伊藤忠は2010年5月、Kalahariの株式14.9%を 約85億円で取得した。
同社は2010年7月、Extract Resources の株式10.3%を取得することで合意した。(2011/8の株主リストには未掲載)
6)豪銅鉱山開発大手Equinox Minerals
中国国有資源大手の中国五鉱集団の五鉱能源(Minmetals Resources)は、豪州とカナダに上場している銅鉱山開発会社のEquinox Minerals に対して買収提案を行った。全株取得を狙っており、買収提案額は63億カナダドル。
2011/4/15 中国五鉱集団、Equinox Minerals に買収提案
五鉱資源は4月26日、買収計画を撤回した。
世界最大の産金会社、カナダのBarrick Gold が五鉱資源を上回る買収提示額(73億2000万カナダ・ドル)を示したことを受けた。
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