アスベスト被害訴訟、高裁で逆転判決

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大阪府の泉南地域の石綿紡織工場の元労働者や元周辺住民ら29人が石綿肺や肺がんなどになったのは、国がアスベスト(石綿)の規制を怠ったのが原因だとして、国に計9億4600万円の賠償を求めた訴訟の判決が2010年5月19日、大阪地裁であった。


小西義博裁判長は「石綿対策を省令で義務づけなかったのは違法」とし、
賠償金を支払うよう命じた。
勝訴したのは26人で、賠償額は1人あたり 687万円~4,070万円で総額は
約4億3500万円

工場近くで石綿粉じんにさらされたとして「近隣暴露」を訴えた元周辺住民の請求は退けた。

2010/5/22  アスベスト被害で国の責任認定

これに対し、厚生労働省と環境省は控訴を断念する方向で調整に入っていたが、政府は関係閣僚会議を開き、控訴する方針を決めた。

仙谷国家戦略相は、「短時間でこの問題を確定させてしまえば、後々出てくる問題点について合理的な解決策を示す余地がなくなる。全体的な解決策を、裁判所に入っていただくこともありうる前提で検討する」と述べた。


この控訴審判決が8月25日、大阪高裁であった。

三浦潤裁判長は、国の不作為責任を初めて認めた1審判決を取り消し、原告側逆転敗訴の判決を言い渡した。
「国が1947年以降、健康被害の危険性を踏まえて行った法整備や行政指導は著しく合理性を欠いたとは認められない」と、国の責任を否定した。

裁判長は、「過去に吸い込んだアスベストによって深刻な被害が現実化していることを考えると、長期的な危機管理として必ずしも十分でない部分があったことは否定できない」とも述べた。

最近の訴訟では国の不作為責任を認める司法判断の流れが続いており、1審判決もこの流れに沿ったものであったが、控訴審は逆の判断を示した。

原告団と弁護団は「泉南地域の被害と国の加害の事実から目をそむけ、国民の生命、健康よりも経済発展を優先させた国の責任を不問に付すもので、信じがたい暴挙。直ちに上告し、引き続き泉南アスベスト被害の全面解決を求めて最後まで闘い抜く」との声明を出した。

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1審の大阪地裁と今回の高裁の判決理由はそれぞれ以下の通り。

1960年時点で石綿肺防止のための省令を制定しなかったこと

 地裁:違法

石綿肺の医学的知見が1959年におおむね集積され、被害の防止策を総合的にとる必要性も認識していた筈。

この時点で省令を制定せず、71年に旧特化則(特定化学物質等障害規則)で粉じんが飛散する屋内作業場に排気装置を設置することが義務付けられるまで、対策をとらなかった。

省令を制定・改正し、排気装置の設置を義務づける規定を設けなかったのは、著しく合理性を欠き、違法 。

 高裁:違法でない

当時は排気装置の設置が、技術的に確立していなかったうえ、コストの高さもあって工場が導入に積極的ではなかった。
1971年に設置を義務づけるまで国の対策が遅れたとは言えない。

国は、1947年に制定された旧労働安全衛生規則で、アスベストも規制の対象にして事業者に排気装置の設置や防じんマスクの着用などの適切な措置を指導するとともに、その後も法整備や行政指導を順次行ってきた。
日本がアスベストを禁止した時期も、海外に比べて特に遅れたとは言えない。

1972年時点で国が石綿肺防止の省令を制定しなかったこと

 地裁:違法

石綿粉じんと、肺がんと中皮腫発症の関連性があるという医学的知見は、1972年におおむね集積された。
粉じん測定機器としてメンブランフィルター法も実用化され、一般の事業所で粉じん濃度の測定ができるようになった。
特化則により、石綿を製造し、取り扱う屋内作業場で6カ月以内ごとに1回、定期的に粉じん濃度を測定、記録することが義務付けられた。

測定結果の報告などを義務づける必要があったが、国はこれを怠った。これは著しく合理性を欠き、違法。

省令制定権限不行使の違法と石綿粉じん暴露による損害との因果関係

 地裁:

国の省令制定権限不行使の違法と、60年以降に石綿粉じんに暴露し石綿関連疾患になった労働者の原告、またはその相続人らの損害には、相当因果関係がある。

・規制権限のあり方

 高裁:

化学物質の危険性が懸念されるからといって、ただちに製造、加工を禁止すれば産業社会の発展を著しく阻害しかねない。

規制の判断要素になる医学的知見などは変化するため、権限行使の時期や内容は大臣によるその時々の高度に専門的で裁量的な判断に委ねられている。

健康被害が発生した場合も、規制権限の不行使がただちに違法にはならない。
許容される限度を逸脱して、著しく合理性を欠くときに限り違法

 

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労災認定の時効(死後5年)を理由に補償請求権を失ったアスベスト(石綿)関連患者の遺族らの救済措置を復活、延長する改正石綿健康被害救済法は8月26日の参院本会議で全会一致で可決、成立した。
救済措置が当面10年間延長される。近く施行される見通し。

現行の石綿救済法は2006年3月27日(同法施行日)までに死亡した住民らの遺族に特別遺族弔慰金など(約300万円)を支給しているが、今年3月末から新たな時効の救済が打ち切られていた。

このため改正法は、施行日から10年が経過する2016年3月27日前までに死亡した被害者に拡大する。(請求期限は2011年3月)

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